10話
〜1〜
「御復活おめでとうございます。アファール様」
ギラン、ディザン、バルアが揃って頭を下げる相手、それは伝説のポケモン“アルセウス”のことだった。
あのお方があのアファールって言うやつなら、きっとこれからまだ何かあるはずだ!
「おい!お前らの真の目的ってなんだ!?」
「我々の真の目的は、この世を1から作り直すこと」
この世を1から作り直す?それって、今ある世界を無くして、新しい世界を創るって事か?
「ちょっと待って!それって、この世を無くすって事じゃない!」
「今のこの世界は、汚れてしまった。誰かを妬み、憎しみを抱き、殺しあいをする。憎しみの無い世界にするためには、1から創り直した方が早い」
「それは違う…!」
ラピス?上からだから、どうなっているかは見え無いが、今にも泣きそうな声をしているのは分かった。いや、もう泣いているのかもしれない。
「この世界は確かにそうかもしれない!でも、誰かを愛して、助け合って生きてるポケモン達だっている!私は知ってる。皆から貰った愛を…温もりを…。そんな大切なものを、誰かの勝手な都合で無くしちゃうなんてそんなのダメだよ!」
…ラピス。
……そうだな。誰かを愛して、助け合って生きていく事を、俺たちは知っている。今があるから、俺は自分で立ち直って、皆に支えて貰って今立ってる。
いや、今は浮いてるけど…。
「だね!今の世界じゃなかったら、私は誰に大道芸を見せれば良いのよ?」
「俺たちは、今ここに立ってる。だから、最後まで諦めてたまるかってぇの!」
「ソルト!」
「?」
「一緒に、戦っても良いかな?僕たち、君の手助けをしたいんだ!」
皆が俺を見てる。その顔は、決心した顔だった。
俺の答えは…いつだって決まってる!
「あぁ…!頼むぜ!みんな!」
「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」
今、皆の心が繋がったように感じた。いや、もうとっくに繋がってるか。俺たちがいままで経験したこの旅のおかげで、俺たちは強い絆で結ばれている!
「シャナ!」
「任せて!“サイコキネシス”!」
俺に絡まっていた影が、“サイコキネシス”で解いてくれた。
地面に綺麗に着地して、走ってきていたユーリとレイン、そしてサファイアに合流する。
「“水鉄砲”!」
「“十万ボルト”!」
「“火炎放射”!」
3対3なら、まだなんとかなる!
効いてるようには見てないが、なにもしないよりは良いだろう。その間に俺は、エレスの元にたどり着いた。
「おい!確りしろ!」
「うぅ…!」
「もらった!!」
後ろをタラに取られる。そう言えば、伝説のポケモン以外にもまだこいつが残ってた!
目を瞑って、衝撃に耐える。しかし、痛みが全く無かった。目を開けると、マームが“蔓の鞭”でタラの“シャドークロー”を受け止めていた。
「マーム!」
「ごめん!長い時間は持たないから、さっさと済ましてくれない?」
「分かった!おい!今あんたが死んだら俺が困るんだよ!両親の墓の前で謝るまで、死ぬんじゃねぇ!」
「…私は…死にたかった…」
エレスが目をうっすらと開けて、俺に話しかけてくる。
え?死にたかった…?
「しかし…アイツが…シーザが死ぬのは許さないと言った。その理由がなんだったと思う?」
「もういい!喋るな!」
「どうせ死ぬなら、私よりも女と死にたいと言ったのだ。あと…もうひとつ…」
「…」
エレスが喋るのを俺は止められなかった。止めたら、もう二度と聞けない気がして…。
「悔いがないように、今の人生を精一杯に生きてから死ねと…。それまで、アイツはあの世で俺を待っててくれるそうだ…」
「……」
「シーザ…。私は…私なりに精一杯生きたぞ?長いこと…待た…せ…たな」
『全くだよ!』
「っ!シーザ?」
『ふぁ〜。待ちくたびれたわ!さ!バトルしようぜ?』
「ふっ…!お前らしいな?」
『にしし…!約束!俺は守ったぞ?だから、お前も守れよな?』
「あぁ…。そうだな。…ありがとう」
エレスの表情は、安らかに笑った顔だった。一粒の涙と共に、エレスはシーザーの元に旅立つ。
「…クソッタレ」
小さくそう呟いて。俺の頬に、暖かい雫がこぼれ落ちる。
でも…。今は泣いてる場合じゃない!涙なら、いつでも流せる!
「もう…無理…!」
「“アクアジェット”!」
「がはっ!」
マームの“蔓の鞭”が緩む寸前に“アクアジェット”でタラを吹っ飛ばす。
「ありがとう…!ソル君!」
「ケガはないな?」
「うん!大丈夫!普通に元気だもん!」
「うわぁぁぁぁ!!!」
今のはサファイアの声だ!
振り返ると、俺とマーム以外の全員が床で倒れていた。傷が物凄く多い。
「…くっ!」
「全く…。邪魔したら次は殺す…。そう言ったのもしかして聞こえてなかった?」
「初めから一思いに殺せば良かったのだ。お前が遊んでいるからこうなったんだろう」
不味い!このままじゃ、ラピス達が危ない!
「っ!?ディザン。バルア。先に計画を進行しよう」
「…?まぁ、ギランがそう言うなら…。行くか」
3匹の伝説のポケモン達は、アファールのいる空間に入っていった。
…?何があったんだ?っと、それよりもラピス達の治療が先だ!
えーっと。確か人数分のオレンの実があったよな。
「マーム。サファイア達を頼む!」
「うん! 任せて!」
「ラピス!大丈夫か?」
「うん…なんとか…」
「良かった…。ほら、オレン実。ゆっくりで良いからな?」
ラピスはゆっくりとオレンの実を食べ始める。その後はシャナとヒカミにオレンの実を渡して、二人とも大事には至っていないことを確認してから、ラピスの元に戻った。
「ソルト…。どうしよう…?」
「…確か。まだ遺跡だった頃に、アファールがいた扉を開けるためにはしらたまとその他の3つの石が必要だった…」
「と、言うことはその石を取り返して、もう一度石をはめれば」
「扉が閉まって。封印することができるってこと?でも…それ大丈夫なのかな?」
確かに…確率が低すぎるし、なおかつ本当に閉まるかどうかは分からない。それに、アファールが大人しく入ってくれるとは俺も思ってない。
てことは、一回大人しくさせないといけないのか。でも、その前にあの3匹の伝説のポケモン達をなんとかしないと…。
「やらないといけない事が山積みだね」
「でも早くしないと…!」
「………」
どうする?伝説のポケモンに、俺たちが敵うわけがない。
…早くしないと手遅れになる!
「……困っているようですね。お手伝いしましょうか?」
「え?」
美しい青色の毛並みを持ったポケモン。
伝説のポケモン“スイクン”が“トルネロス”、“ボルトロス”、“ランドロス”を引き連れて立っていた。
最終決戦が幕を開ける。