6話
〜1〜
「あれは…私が出張帰りに、泉で休んでいたときのことだ」
「……」
そう話し出すエレスに、ソルトは耳を傾ける。
父さんには、この話を1回もしてもらうことなく、死んでしまった。もちろん、この話で、俺の心が変わるかどうかは分からない。
「その時の私は、完全に気が緩んでいてな。茂みの中からの殺気に気がつくことがなく、眠っていた。それに気がついたのは矢が放たれ、私の足に刺さった時でな。振り返るともうすでに、犯人は逃亡して、私はとりあえず軍に戻ることにした。その道なりの途中で、アイツ。シーザと出会った」
シーザは、俺の父さんの名前。シーザ・カーテリアスとマリン・カーテリアスの間に産まれたのが、俺だ。
母さんはの種族は“ジャローダ”。つまり、マームの最終進化型。マームとは違っておしとやかで、気高くて。少し、ツンっとした性格だった。あ、デレも待ち合わせてたけど。でも、母さんは俺には少し厳しめだった。父さんこそ、優しすぎた。そんな家に、俺は産まれ。温かい幸せな子供生活を送ると思ってたのに…。
「アイツは、私の足に刺さった矢を抜いて、いとも簡単に治療した。聞いてみれば、医者でもなんでもない。ただの酒場のウェイトだと、そう言った。ああ言う性格の奴は初めてだった。私自身を見てくれる。そんな奴は、アイツだけだった。嬉しかったよ」
「じゃあ…なんで殺したんだよ!そんなに大切な存在なら!なんで殺したんだ!!なんで道具なんて言うんだよ!」
「……私はこの世界でたった一人だと気がついたからだ」
「?」
たった…一人?どういう意味だ?
「私は、普通のポケモンよりも長く生きられる。そのせいで、私の知り合いは私より先に逝ってしまう。結局、私は一人。私は…世界にたった一人なのだ」
世界に一人…。そんなの…俺は耐えられない。でも。
「でも…なんで今俺にそれを言ったんだ?」
「さぁ?なんでだろうな…?いつの間にか口走ってた」
そう言うと、エレスは俺に置いていた足を退けて、その先に行くための道の前に通せん棒をする。
「これで話は終わりだ。ソルト・カーテリアス。我が君主の邪魔をするのであれば、私は貴様をこの命をかけてでも殺す」
「ふん!それは、民を犠牲にしてまでやることか?俺だって、譲れないものがあるんでね。さっさとそこを退いてもらうぜ!」
伝説のポケモンとのバトルが、今始まる。
そのころ、先を急いでいるユーリ達はと言うと、絶望の底に叩きつけられていた。
〜2〜
シュトゥルムの体をラピスが背負い、ユーリの体をサファイアが支えながら進む。
「ごめんねラピス。背負ってもらっちゃったりなんかして…」
「仕方ないよ。撃たれてんだから。私たちの所まで歩ってこられただけで大変なのに…」
とにかく、ソルトと合流しないといけない。1匹だけで訳も分からないような所に突っ込んで行っちゃうなんて…。
ラピスはそう考えながら、窓のついていない横が吹き抜けになっている廊下を歩く。そこに、声が聞こえていた。
「ユーリ!!」
「か、母さん!!」
「て言うか、ブレン叔父さんまで!」
“ピジョン”のブレンの背中に乗っているのは、“ライチュウ”と言う種族だった。
ユーリが母さんと叫んだと言うことは、あれがユーリのお母さん…。
「なんで来たんだよ!」
「なんでって…!心配だからに決まってるでしょ!?怪我してるじゃない!大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だから…!それより、危ないから早く非難しろ!」
「あっれ〜?なーんか鼠が紛れ込んでるんだけど」
これから進もうとしていた道の先の闇から聞こえてきたのは、あの馴染みがある声だった。ゾッと背筋が凍るような…。そんな声。
「あー。こんなに鼠を入れちゃうなんて…。あの能無しどもは何してるんだか…」
「エステール少将。仕方ありません。所詮は能無しですから」
可愛らしい顔をした“エモンガ”。カルス・エステールと、もう1匹は…。“ライチュウ”?癖毛がピン!と跳ねていて、まるでユーリみたいだ。
「失礼だな。ユーリとユーリのお母さんとサファイア以外は鼠じゃないよ!」
「そんなの知ってるよ!比喩だよ比喩!侵入者を鼠だって例えただけ!」
「いや…それは分かってるから」
「だったら何で言ったんだよ!!ったくもー!!イライラさせないでよね!」
シュトュルムのボケに、カルスはイライラしていた。黙ってれば可愛いのに…。と思ってしまうほど、カルスは見た目が可愛いのだ。
不意にユーリの方を見ると、敵意むき出しの状態で、癖毛の“ライチュウ”を睨み付ける。
「ガルシア・ハイラス!!」
「ユーリの知り合い…?」
「知り合いも何も…。私はユーリの実の父親だ」
「ゆ、ユーリのお父さん!?」
ユーリの怒りで漏れる電気が止まることがない。今ここに、因縁が2つぶつかろうとしていた。