4話
〜1〜
「はぁ、はぁ…。ユーリ、生きてる?」
「何とか…」
シュトゥルムとユーリは、あの爆発の後、とある部屋に飛び込んだ。すこしでもマーチャントから離れるために。
「どうする?このままじゃ、そのうち見つかるよ?」
「どーするって、倒すしかねぇだろ。なんとかしないといけねぇんだからよ」
「それはそうだけど…。作戦も無しに倒すのは不可能だよ」
ユーリは必死に頭を回転させていた。ここからの打開策をなんとしてでも見付けないといけない。そのプレッシャーからなのかもしれない、全くいい案が浮かんでこなかった。
「……ダメだ!いい案が浮かんでこねぇ!」
「何処にいるのかなー?面倒くさいけど…出てこないなら、見つけるよー」
部屋の外からマーチャントの声がする。元々浮かんでいるため、足音は聞こえないが、ドアを破壊する音で近づいてくるのが分かった。
これこそ絶対絶命と言うやつだ。どこにも逃げ場の無い部屋に追い詰められて、このままじゃ死ぬのは確実になってくる。
「やばい…どんどん近づいてくる」
「……シュトゥルム」
「なんだい?まさか、このまま心中しようなんて言わないよね?君と心中するぐらいなら、僕は戦うよ?」
「誰がお前と心中なんかするもんか、俺の作戦にかけてみねぇかって言おうとしたんだよ」
「……?」
二人が作戦の事を話している間にも、マーチャントはどんどん近づいてきていた。お菓子を食べながらドアを破壊して、二人を探す。廊下には、バリバリと言うお菓子を食べる音と、ドアを破壊する音が響いていた。
そして、ある一室のドアを壊す。そこは武器庫だった。ライフルに普通の拳銃、刀に、ミサイル。なんでもあった。
「武器庫…か。さーて、ここにはいるかなぁ〜?」
「いるさ!!!!!」
ユーリの大きな声が、部屋中に響きわたるのと同時に、シュトゥルムとユーリはマーチャントの横から飛び出した。
「“十万ボルト”!!!」
「“ワードビジョン、雷”!!!」
二つの電撃がマーチャントを襲う。これは流石に効いたのか、地面に倒れ込んだ。顔から行ったため、かなり痛そうだ。
「はぁ、はぁ…。上手くいったか…やっぱり俺天才かも」
「何言ってるんだい?確率はかなり低かったじゃないか、運でなんとかなったんだよ?」
「うるせー。運も実力のうち!」
そう言って、ユーリはズンズンとドアから出ていく。シュトゥルムもそれに続こうとしたが、背中に痛みを感じた。その前に、バン!!と言う音がし。火薬の臭いがする。
「あ……れ?」
シュトゥルムは、そのまま膝をつき、冷たい床に倒れる。生暖かい血が妙に心地いい感じがした。真っ赤な血が床に広がっていき、どんどん体に感覚が無くなっていく。そこに、ユーリが戻ってきた。
「シュトゥルム!!」
「馬鹿だね。僕がそう簡単にやられると思った?」
シュトゥルムの後ろには、ライフルを持ったマーチャントが浮いている。そのライフルからはまだ煙が出てきていた。
「クソがぁぁぁぁぁ!!!!」
何も考えずに、ユーリはマーチャントに突っ込んでいった。それでも、マーチャントは余裕でライフルを構えて、銃を放つ。
急所は外れたが、ユーリの足に直撃した。前に倒れていき、シュトゥルムの横の方に寝そべる。
「ぐっ……!」
「分かった?これが、実力の差ってやつ。僕を侮るからそうなるんだよ。仲間が冷たくなるのを見ながら、自分も逝けばいいさ」
「おい!シュトゥルム!聞こえてるか!!シュトゥルム!」
マーチャントが部屋から出ていく時にも、ユーリはシュトゥルムに向かって叫び続けた。それでも、シュトゥルムは返事を返さない。
「シュトゥルム!!!!!」
そう、ユーリが叫ぶ声が部屋と廊下に冷たく響きわたった。
〜2〜
そして、先を急いでいるラピスとサファイアはと言うと、大きな扉の前で立ち往生していた。
「サファイア?どうしたの?」
「分からない。でも…この扉の向こうから、僕の名前を呼ぶ声が聞こえるんだ」
「え?聞こえないよ?それより、先を急がなきゃ」
「ごめんラピス。僕、どうしても気になるんだ。この扉の向こうを調べ終わったら僕も追いかけるから、先に行ってて」
そう言って、サファイアは部屋の中に入っていった。ラピスは、どうしょうか迷ったが、サファイアを追いかける方を選び、部屋の中に入る。
部屋の中は、大量の檻が置いてあった。檻には、衰弱しているポケモン達が入っている。
「何…?これ」
「分からない…。何でこんなにポケモン達が…。うん?」
サファイアは、ある一つの檻に近づいた。そこには、“ルリリ”と言うサファイアの進化前のポケモンが衰弱した状態で、サファイアを見つめている。いや、何かを呟いていた。
「お…ゃん」
「え…?」
「お兄…ちゃん…た…すけ……て」
「お兄ちゃん?サファイア、どう言うこと?」
「…アルファ?うっ!!!」
サファイアは、頭を押さえて倒れ込んだ。かなりの激痛なのか、声も出ない状態で苦しんでいる。ラピスは、サファイアの横に寄り添って、背中を擦った。
「サファイア!?大丈夫!?」
「アル……ファ。弟…。軍…。実験…っ!」
苦しんでいたかと思ったら、それは直ぐに消えてしまい。サファイアは、体をむくっと起きあがった。
その顔は、何か思い出した顔だった。
「思い出した……。僕は…僕は…」
「本物のサファイア・アストラじゃない」
後ろの方から声がして、振り返るとマーチャントがこちらに近づいてきていた。
本物のサファイア・アストラじゃない?どう言うこと?
「だって君は、サファイア・アストラのコピーにしか過ぎないんだから」
「ちょ、ちょっと待って!!どう言うこと?」
「昔、メライウムス帝国は、ポケモンのコピーを作る実験をしていた。それで、完成したコピー達に、感情、知識を与えて。どれだけ本物に近いコピーを作れるか…そういう実験をしていたのさ。でも、中々成功しなくてね。そんなときに、唯一の最高傑作になったのが、そこの“マリル”と、“ルリリ”だったって訳」
どうしてマーチャントがそんなことを知っているのかは謎だったが、サファイアの顔が優れないのは確かだった。どうやら、間違いはなさそうだ。
「そうだよ…。僕は…そんな軍が嫌になって、アルファと一緒に脱走しようとしたんだ…。でも、アルファは捕まっちゃって、僕は川に落っこちて…。何で…こんなに大事な事を今まで忘れてたんだろう?」
「サファイア…」
「ごめんねアルファ…。僕、もっと早く向かえに来ればよかったよ…。ごめんね…」
サファイアの目からは涙が溢れ、床を濡らした。
そんな光景を、マーチャントは詰まらなさそうにお菓子を方張りながら見ていた。
「お涙ちょうだいは終わった?じゃあ、君たちもあの2匹の所に送ってあげるよ」
「じゃ、じゃあ。ユーリとシュトゥルムは…」
ラピスがそう言うと、マーチャントはニヤリと笑った。その顔を見たサファイアは、拳を握り、体を震わせながら、マーチャントに攻撃をし始めた。
「“バブル光線”!!“アクアテール”!!“水鉄砲”!!!」
連続で技を放つが、マーチャントにはいっさい通用していなかった。
手で技をすべて弾き飛ばし、余裕の表情を浮かべる。
「はぁ…はぁ」
「もう終わり?じゃあ、君から逝くって事だね」
そう言って、膝をついたサファイアに近づく。そこに、ラピスが割り込むようにサファイアの前に立った。そして、マーチャントを睨み付ける。
「…何?邪魔しないでよ。後でちゃんと始末してあげるからさ」
「ラピス…逃げて」
「嫌だ」
ラピスの足は、ガクガクと震えていたが、絶対に退こうとはしなかった。
「退いたら?その“マリル”は死にたがってんだからさ!!」
マーチャントの強い打撃がラピスの体に直撃した。それでも、ラピスはサファイアの前から退こうとしない。
「ラピス…もう良いから…。そこを退いて…」
「嫌だ」
「僕はもう良いから!ラピスだけでも早く逃げて!!」
「やだ!絶対退かない!もう嫌なの!私のせいで、誰かが死ぬのはもうたくさん!守れたはずなのに、守れないなんてもう嫌だ!!」
マーチャントの“シャドーパンチ”が、ラピスの体を捕らえた。そして、そのまま壁に叩きつけられる。
それでもラピスは立ち上がった。自分の仲間を守るために。きっと、ソルトもそうすると思ったから。
「良く言ったラピス!!」
「その言葉、僕の記憶に刻み付けておくよ!」
そう、叫ぶ声がマーチャントの後ろから響き。雷がマーチャントに向かって落ちた。
その後ろには、ユーリとシュトゥルムが肩を組んでお互いを支えながら立っていた。
「なっ!あの傷でどうして生きてる!?」
「焼いて塞いだのさ!2回気絶仕掛けたけどね!」
シュトゥルムのお腹には、火傷の後がくっきりと残っていた。ユーリの足には包帯が巻かれ、なんとか立っている状態だ。
それでも、二人は攻撃を止めない。
「“雷”!!」
「ワードビジョン、岩石!!」
「ガッ!!!」
マーチャントに攻撃させる隙を作らないように、攻撃を連続で続けた。それでも、マーチャントも黙ってやられるわけではない、振り返り、二人に渾身の一撃を放つ。
「“シャドーパンチ”!!!」
「“雷パンチ”!!!」
ユーリの“雷パンチ”が、マーチャントの“シャドーパンチ”を食らう前に、技を決めた。マーチャントは、ゆっくりと後ろに倒れていき、今度は確実に気絶する。
そして、ユーリとシュトゥルも倒れた。
「ユーリ!!!」
サファイアがユーリの側により、体を支える。ラピスは、シュトゥルムの看病をしていた。
「ユーリ!何であんな無茶したの!?」
「あはは…。だってよ、俺たちがなんとかするって言ったろうが」
「だからって、あんな無茶しなくても!それに…僕…本物のサファイアじゃ…」
「良いんだよ。偽物だろうが、本物だろうが、そんなの関係ねぇだろ?今は生きてる。それに、俺達にとって、お前がサファイアなんだよ。自信もてって」
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」
ユーリの胸の中で涙を流すサファイアの顔は、どこか救われたようなそんな表情だった。
1つの真実を知って、さらに強くなる絆を他所に、1匹の“ミジュマル”は独りで暗闇の中に突き進んでいた。