2話
〜1〜
男性メンバーは、ラピスの捜索を続けていた。
一体どこにいったんだよ…。本当に一瞬でいなくなったんだよな。西州に入るか入らないかで消えたから。
「いたか?」
「見つからなかった…。どこに行っちゃったんだろう?」
「どう考えても誘拐だよな。自分から行くわけねぇし」
「……ラピスに一体何のようがあるんだろうね」
誘拐なら、俺が一番狙われそうな感じなんだけどな。暗殺まで出てるんだ。今さら誘拐なんてめじゃないさ。
すると、後ろの方に1匹の“マニューラ”がさっそうとあらわれる。
「お前がソルト・カーテリアスだな」
「そうだ。もしかして、あんたがラピスの誘拐犯か?」
「……リーダーが待ってる。そこの仲間と一緒に来てもらおうか」
行きたい。ラピスが待っているなら、何があったとしても。
みんなに顔を合わせると、みんなが頷いてくれた。
「分かった。行こう」
そう伝えると、“マニューラ”が背を向け、いかにも付いてこいと言わんばかりに、走り始めた。元々素早い動きが得意なポケモンだからこそ、スピードが速い。早く行かないと、見失ってしまう!
みんなで急いで走る。一体どこに行くんだ?
「サファイア、大丈夫か?」
「うん、まだなんとかなりそう。旅に出て、身体が強くなったみたい」
「でも、無理だけはするなよ?」
「うん。ありがとうユーリ」
サファイアは成長しているみたいだな。仲間が成長するのはすごくうれしい。
…もし、俺の村を壊滅した奴を見つけたら。俺は…平常心でいられるだろうか?殺したいと言う思いが強くなってしまうかもしれない。そうなってしまったら…俺は。
「ソルト?どうかしたか?」
「あ、いや。なんでもない。それより、急ごう」
今はそんな事を考えても仕方がない。それより、ラピスを何とかするのが先だ。どんな奴だか知らねぇけど、仲間を誘拐するなんて良い度胸してやがる。
そこに、1つの廃墟が見えてくる。“マニューラ”はそこで止まり、廃墟の中に入っていく。
「これって…入って良いのか?」
「良いんじゃない…かな?何も言ってないけど…ついてこいの雰囲気だし」
「よし、行くぞ」
あれ?俺、さっきから行くって単語何回使った?行くしか言ってなに気がするんだけど…。まぁ、いいか。
廃墟の中は使われた痕跡があった。中は暗く、蝋燭の明かりで何とか見えるぐらいの、光が全く入って来てない。
奥の扉を開けると、ちょいきつめのグルグル巻きにされたラピスと、“クリムガン”、“チャーレム”、“ヘルガー”、“ギガイドス”がいた。
「ご苦労だったな、カラナ」
「あんたが、誘拐犯の首謀者?」
「まぁ…そうだな。ソルト・カーテリアスだな」
「そうだけど?で?誘拐犯の首謀者さんが俺に何か用か?」
「ラピスちゃんが話してくれないから、直接本人に聞こうと思ってな。あんた、過去に帝国に村を殲滅されなかったか?」
何でそれを知ってんだ!?その事は、まだママさん、パパさん。それと仲間全員しか知らないはずなのに…。
どう頑張っても驚きの表情を隠しきれない。
「やはりそうか…。なら、あんたに相談がある。俺達と手を組んで、帝国を潰さないか?」
「帝国を…潰す?」
「そう。ここにいるのはみんな、帝国に村や町を壊滅されたその生き残りだ。つまり、あんたと同じってことだ。どうだ?」
みんなの視線が俺に向かってくる。どう答えるか、きっと気にしてるんだろう。
でも、俺の答えは、もう決まってるから───
「もちろん!」
「まじか!?「断る!」え?」
「だから…あんたらとは組まないっていってんの。俺は、帝国を潰すことなんて興味がない。て言うか、俺の目的は、村を壊滅した首謀者を見つけて両親の墓の前で謝らせることだから、ムリ。それに、もう仲間はいっぱいいるしな」
「なるほど…交渉決裂ってことか…。じゃあ」
そう言おうとしたときに、ドン!と言う音が聞こえてきた。
なんの音だ?外を見るために、閉まっていた窓を開けると、帝国のマークが見えた。って!帝国!?
「何でここを!?ちっ!逃げるぞ!あんたらも早く逃げろ!」
「で!何で私連れていかれるのー!!??」
「あ!こら!ラピスを返しやがれ!」
「ソルト!急げ!」
「捕まっちゃうよ!!」
クソ!ラピスが何でか知らないけど連れてかれちまった!帝国に捕まらないことを願うしかないのか!?
帝国にバレないように、窓から逃げ出す。
そこに咲いていた花は、真っ白で綺麗な百合の花だった。
〜2〜
ラピスは、“クリムガン”のハベルにひきつられ、帝国軍から逃げ出していた。どうして連れたんだろう…?今のラピスにはそれの事しか頭にない。
「わりぃな。でも、あんたは絶対帰してやるから。それだけは信じてくれないか?」
「……うん」
実は…悪いポケモンじゃないのかな?ただ、顔が厳ついから怖い風に見えるだけなのかも…。
「ネスレ!ラピスちゃんを頼む!」
「あいよ。こっちだ。ついてきな」
“チャーレム”のネスレの後ろをついていく。どこに行くんだろう?
すると、後ろの方から悲鳴が聞こえてくる。誰かが犠牲になったんだ。この声は…あの“ヘルガー”の声!
「チッ!もう攻めてきた!ここに隠れてな!」
そう言われ、茂みのなかに放り込まれる。すこしだけ見えるように草を掻き分ける。ネスレはそこにたたずみ、まるで守っているかのようにも見える。
「ねぇ、あなたたちがやろうとしてるのって…復讐だよね?」
「そうだよ。だからなんだってんだい?」
「復讐をして、何か手に入るの?」
その質問をすると、ネスレはすこしだけ黙り混んでしまった。考えてるらしい。
「何が手に入る訳じゃないさ。私たちは私たちの意志でやろうとしてる。それだけ」
「意志…?」
「そう。あんたらだってそうだろ?自分の意志で決めて、ここにいる。そうじゃないのか?」
確かに、私がソルトと一緒に旅をしたいって思ったのも、色んなポケモンたちに、世界の事を知ってもらいたいって思ったのも自分。
誰かに命令されたからじゃない。私が自分で決めたこと。でも──
「でも、復讐なんてしたら。どんなに正当性があっても、それは無意味になっちゃうんだよ?それが正義だったとしても、殺しは犯罪だよ?」
「それは、帝国だって同じじゃないか!あいつらは、自分達が法律で守られてるから好き放題できる!でも、殺しは犯罪だ。それが、見逃されてるって事なんだよ!」
「でも!殺しなんかしたら、帝国と同じになっちゃうんだよ!?復讐は、結局復讐しか生まない。例え、それで喜んでくれるポケモン達がいたとしても、そんなの間違ってるよ!」
「じゃあ、どうしろってんだい!!!教えてくれよ、まだ16にしかなってないお嬢ちゃん!私たちはどうしたらいいだい!?」
私はその言葉を言われて、何も答えられなかった。どうしたら良いかなんて、そんなの私だって分からない。何が悪くて、何が良いかなんて。そんなの、私には決められなかった。
「私たちにはね…それしか方法がないんだよ。でも、あんたは違う。あんたは幸せな子だ。その幸せを私たちは奪わない。何だか…死んだ妹と話してるみたいだ」
「妹がいたの?」
「そう。生きてたら、ちょうどあんたと同い年の可愛い妹がね。だから、私は妹の為にやってる。それが、私の生き方」
そこに1つのドスが効いた声響き、空気が張り詰めた感じになった。
「仲間…。絆…そんなのは幻想にしか過ぎない。どれだけ仲間を集めても、どれだけ絆を深めても、我には敵わぬ」
なんだろう、冷たい声だ。暖かみが感じられない、まるで氷みたいな…そんな声。何だろ、すごく怖い。
「やっとおでましかい?メラニウムス帝国宰相。ギラン・メラニウムス!あんたの事を待ってたんだ!姿を現せ!」
「その必要は無い。私が現れなくても、貴様が死ぬのは変わりない」
「何だって!?」
「“シャドウダイブ”!!」
その攻撃は、ネスレの影から放たれた。槍のように鋭く尖り、ネスレの心臓を一突きする。
血が飛び散り、張り詰めた空気は消えていった。ラピスはそれを感じとって、ネスレの側によった。
「ねぇ!確りして!ねぇってば!」
「……マレン。ごめんね…私…かたきうてなかったよ…」
途切れ戸切だったが、そう言っているのが聞こえた。一粒の涙を流して、ネスレは目を閉じた。
「あ…あぁ。いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ラピスのその叫び声は、森中に響き渡る。そこで、ラピスの意識は途切れた。ネスレの横に咲いていた百合の花は、血の色で真っ赤に染まっていた。
ラピスの意識が途切れる寸前に、ソルトの声が聞こえた。
「ラピス!!」
でも、もしかしたら、幻聴かもしれない…。