10話
〜1〜
次の日、ユーリはどこか浮かない顔で一緒にご飯を食べていた。
「ユーリ?どうしたの?」
「……うん?あぁ、大丈夫だ」
いや、大丈夫じゃないだろ。返事するのにワンテンポ遅かったよ。ご飯も全く手をつけてないし、昨日の事をまだ引きずっているみたいだ。
そこに、宿のオーナーが声をかけてくる。
「あの…。ご飯、美味しくないですか?」
「え!?あ、いや!美味しくないから食べない訳じゃないんです!ちょっと悩んでて…」
ほら、オーナーに心配されてんじゃねぇかよ。ご飯が美味しくないって勘違いしちまってるし。
ユーリは、ものすごい勢いでご飯をたいらげていく。
「うっ…」
「あ!ユーリ!み、水!誰か水!って、僕水タイプだった!“水鉄砲”!」
そんなにかきこむから、喉つまりしてる!サファイアが、必死になってユーリの救命活動をやっているところに、シュトゥルムが外から帰ってきた。
「やぁ!おはよう。ちょっと良い話があるんだけど…それどころじゃないね」
「ユーリ!!戻ってきてー!!!」
「あ…。死んだ母さんが手を降ってる…」
「ユーリ何言ってるのさ!そのポケモン違うから!ユーリのお母さんまだ生きてるよ!ついてっちゃダメ!!」
何やってんだよ…。
ユーリが大きなこんにゃくを吐き出して、なんなくこの事件は終わった。それよりも、シュトゥルムが持ってきた良い話を聞きたい。
「で?良い話ってなんですか?」
「うん。メラニウス帝国の宰相が、西州に行くみたいだよ?」
その話…どっから持ってきたんだ?ちなみに、俺はまだシュトゥルムを信じきってない。
「西州に!?なんで今になって…」
「さぁ?憲兵からくすねた情報じゃ、どうしてかは言ってなかったよ?」
「て言うか、障壁をどうやって越えるの?」
みんながう〜ん。と悩む。って!みんな、先に気付かないといけない事があるでしょ!!憲兵からくすねたって、何なってんだよ!
「そう言えば、ソルトとラピスはどうやって東州に来たんだい?」
「私たちは、パパの特製ダイナマイトでドカン!と…。でも、軍のお偉いさんを別荘を壊すのに全部使っちゃって…」
「へぇ、ドカン!とねぇ。その特製ダイナマイトをラピスは作れないの?」
「パパの特性だから、私は作れないです。やっぱり帝国もドカン!とやるのかな?」
「あほ。お前じゃねぇんだから、そんな事しねぇって」
でも、不思議だ…。あの障壁をどうやって越える?
そこに、復活したユーリとサファイアが戻ってきた。あ、ついでにレインも今起きてきた。
「何だ?君らは知らないのか?障壁には扉があるんだぞ?」
「え!?」
レインが落ち着きはなった口調で、平然と話してきた。
障壁に扉がある…!?今までそんな話出てきたことがねぇよ!!
「いつ使われるか、誰も分からないような感じだからな。聞いたことが無いのは当たり前だ」
「じゃあ、西州に行こう!」
「なんでだよ?」
「一番偉いポケモンなら、いっぱい軍人さんも行くんだよね?それなら、追っかけた方が何をしに行くか見に行った方がいいんじゃない?…って言ってて、本当は私が西州に行きたいだけなんだけど…」
それじゃあダメだろ…。でも、行ってみる価値はあるか。うん?どうやって?
「どうやって行くんだ?」
「…忍び込もう!」
「バレたらシャレにならねぇぞ?」
…扉を先にくぐっちまうか?でも、何気にそれが一番無難な気がする。
「先回りしよう」
「先回り…?」
「そう、先回りして俺たちが先にくぐるんだ。それが一番安全な気がする」
「なら、そうするかい?僕らのリーダーが言ってるんだしね?」
うん?リーダー…?誰がだ?
「何ぽへらっとしてるのさ?これだけのポケモン達をまとめられる君が、リーダーに調度いいよ」
「昨日、話して決めたんだ。ソルトにリーダーをお願いしてもいいかな?」
みんなの視線が一気に俺に集まる。え?え?な、なんだよ。俺が…リーダー?そんなこんな雰囲気じゃ、断るに断れねぇじゃねぇか。
「わ、分かった!やれば良いんだろ?やれば!」
「そう来なくちゃ!さ、そうと決まれば障壁に急ご!」
宿賃を払って、外に出てから走る。
なんか走ってばっかだな。この調子なら直ぐにつくか?門を通って、障壁の扉がある森の中に入っていく。大きく果てしなく広い森だ。迷わないようにしないと…。
「うふふ…。みーつけた。あの子が最後の生き残り…。さっさと片づけて私が昇進」
誰が見ているか分からないから…。
〜2〜
「うわぁ〜。なんかやな感じの森」
森の中はどこかどんよりとした雰囲気が出ている。確かに、なにか出てきそうな感じの森だな。注意しないと…。
「はべ!!」
こういう風に、木の根本で転ぶはめになる。ちなみに転んだのはラピスだ。おでこが赤くなっていた。
「大丈夫ラピス!結構派手にいったけど!」
「いたたた。なんとか…大丈夫みたい」
さっさと抜けないと、帝国に先を越される。
うん?何だ?この感じ…。殺気…?
「“バブル光線”!!」
「な、何だ〜!!!!??」
草むらの中から、いきなり“バブル光線”を放たれる。ギリギリ避けられたが、当たったらどうする気だよ!って!違う違う!
「ソルト!“火炎放射”!」
「“十万ボルト”!!」
レインとユーリが草むらに向かって攻撃した。
そこから黒い影が飛び出し、太陽と重なって顔は見えなかったが、あのフォルムは“マリルリ”だな。
「“ギガインパクト”!!」
今度は“ギガインパクト”で、こっちに向かってくる。
なんで俺を狙うんだよ!あんたの事俺知らねぇって!恨みを買った覚えもないし!
「よっと!」
「“アイアンテール”!!」
直ぐに避けても、“アイアンテール”がしっかり俺の身体を捕らえた。
脇腹に直撃し、木に叩きつけられる。
「ガっ!!っう〜!!」
「あんた誰だ!?俺たちになんの用がある!」
「私はスイミル。帝国にそこの最後の生き残りを殺す様に依頼された、暗殺ギルド三鬼門の1人。大海のスイミル」
「あ、暗殺!?」
「そう、あなたは依頼人の敵。つまり私の敵。ただそれだけよ」
そう言って、スイミルは“バブル光線”を放ってくる。
スイミルだかイカスミだか知らねぇけど、俺達は今それどころじゃねぇってーの!!
脇腹を押さえながら避けるが、かなり効いている。
「“冷凍ビーム”!!」
スイミルの足下を氷らせて、逃げられなくする。それを見て、レインとユーリが一気に畳み掛ける。
「“炎のパンチ”!!」
「“雷パンチ”!!」
2属性の攻撃が、スイミルに直撃する。
爆発を起こして、そのまま木に叩きつけられた。んにしても、暗殺ギルドか。これじゃあおちおち寝てもいられねぇよ。
「行こう!っ!」
「ソルト、無理しないの。かなり強力だったし、後でアザができるかも…」
「俺なら大丈夫だ!それよりも、早く行くぞ!」
急いで障壁に向かう。
帝国も慌てているのかもしれない。そうそうに西州に行かないと!
かなり無理はしているが、そんなの今はどうでも良かった。みんなで束になって障壁に向かっていった。