7話
〜1〜
「いってぇーーーー!!!!」
「あ〜、ダメだよユーリ。暴れたら消毒できないって」
あ、ごめん。今!ユーリの消毒の時間で!押さえつけるのがやっとの状況なんだ!全く、消毒ぐらい我慢しろよな。子供じゃあるまいし。
「はい!終わったよ。後は包帯巻こうね?」
「……地獄だ」
「仕方ないだろう。キチンと消毒しないと、傷口から膿がわくぞ?」
サファイアは、慣れた手つきでユーリの身体に包帯を巻いていく。本当に13歳の子供なんだろうか?これも、やっていたら出来ることか?
「ふわぁぁぁ。もう、寝る時間だよ…。部屋に戻って寝よっと」
「そうだな。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
ユーリの部屋から出て、自分の部屋に戻る。
俺の部屋は門部屋だ。門にあるくせに、かなり広く作られている。中は普通だ。ベットと机、イスがある。あ、机の上に花瓶があって花が飾られているな。
部屋にはいって、ベットとにダイブした。別に何をしていたと言うわけではないが、疲れが出ていた。バトル祭りのダメージがまだ残っているみたいだ。
「はぁ〜。今日はさっさと寝れそう…」
電気を消して眠りにつく。
窓の向こう側には、大きな月と1匹のポケモンの影があった。月の明かりが俺の顔を照らし出し。1匹のポケモンは、俺の顔を確認する。
窓を静かに開け、ベットに近づいた。そして、俺の顔に手をのばす。
「“シェルブレード”!!」
相手は俺のいきなりの攻撃にビックリしたのか、避けきれず腕をかすった。
そくざにベットから跳ね起き、相手と間を開けた。
「あんた、俺に何か用か?」
「………ソルト・カーテリアスだな」
かなり間があったな。って、そこじゃないそこじゃない!なんで俺の名前を知ってるんだ?
「だから何?」
「大人しく一緒に来てもらおう。我々も手荒な真似はしたくない」
「はいそうですかって言って、ついてく奴がどこにいんだよ。知らないポケモンについていっちゃダメだって、お母さんに習わなかったのか?」
「…なら、仕方がない。無理にでも来てもらうぞ!」
そういって、ポケモンが攻撃していた。これは…“タネマシンガン”?
敵の顔が見えないのはやっかいだな。取りあえず、草タイプのポケモンに間違い無さそうだ。
ドアが破壊され、宿の中に大きな音が響いた。こんなに狭い場所で戦ったら、犠牲が出る。1回外に逃げるか!
廊下に出て階段を下り、外のドアを開けた。
「ソルト?どうしたの?」
ラピス、サファイア、ユーリ、レインが起きてきて俺を追いかけてきた。
俺は、いきなり襲ってきた奴の事を話す。
「それだと誘拐の可能性が高いな。攻撃してきたと見れば、相手は誰であろうと容赦はしないだろう。よし、町の皆を避難させるのを優先しよう」
「それなら、私宿主に伝えてくる!」
「僕は町の皆に!」
「俺も行く!レインさん、ソルトをおねがいします」
……俺、どうしたら良いんだろう。このまま隠れていて良いんだろうか?
レインが俺の顔をみて、優しく答える。
「ここで動いて犠牲が出る方が厄介だ。大人しくしておこう」
「はい…」
ガヤガヤと色んなポケモン達の声が聞こえてきた。みんな避難を始めたのだろう。
すると、いっきりシーンとした静まりが訪れる。町の皆の行動が迅速なおかげで、直ぐに避難が完了したみたいだ。
そこに、大きな翼の音が聞こえてくる。すこしだけこそっと見ると、“ボーマンダー”と言うポケモンがいた。その背中の上には、“ジュプトル”が乗っている。
「ソルト・カーテリアス!大人しく投降しろ!さもなくば、この辺りを壊滅する!」
この声は、あの“ジュプトル”の声だ。どうやら、あの“タネマシンガン”を打ってきたのはあいつらしい。どうする?出るか?
レインが俺の腕を引っ張り、ダメだと首を横に振る。
「……出てこないか。“ボーマンダー”!!」
“ボーマンダー”の大きな怒号と共に、“火炎放射”を放つ。
辺りは一気に炎で包まれ、空が赤く染まる。そこに、ラピスとサファイア、ユーリが帰ってきた。
「ど、どうするのこれ!?」
「取りあえず、あの“ボーマンダー”を何とかしないとな」
「……なら、俺を劣りにするってのはどうだ?」
「ダメだよそんなの!危険すぎる!」
「レインさん。付き合ってくれませんか?」
俺がそう言うと、レインは少しだけ悩んだ。確かに危険な事だからこそ、決めかねているのかもしれない。
「もしも、当たりそうになったらどうする気だ?」
「そこはほら。大人なんですから、どうにでもなるでしょ?」
すると、レインは小さな声で笑い始めた。心に火がついたのか、俺に話してくる口調もかわっている。
「なるほど。俺を顎として使うか。面白い!」
「お前らには、お願いがあるんだ。先回りして、俺たちがおびき寄せたら、あの“ボーマンダー”のお腹に思いっきり技をぶつけて欲しい」
「了解!」
「ったく、怪我人には堪えるわ!」
そう愚痴をこぼすも、ものすごい勢いで走っていった。
本当に怪我人かよ?
「そうと決まれば、早々に行くか。“火炎放射”だけに飽きたらず、“鋼の翼”を使ってきやがった」
“ボーマンダー”は“鋼の翼”で、民家を壊し始めた。もうほとんど壊滅している。これこそまさしく地獄絵図なのだろう。
草むらから飛び出して、“ボーマンダー”の前を横切る。
後ろから民家を破壊しながら追いかけてきた。ここまでは作戦通り。
後は…。
「今だ!!!」
「“火炎放射”!!」
「“バブル光線”!!」
「“十万ボルト”!!」
俺の合図と同時に、3つの技が“ボーマンダー”の腹に直撃し爆発した。
“ボーマンダー”はフラフラと旋回しながら、遠くの森のなかに突っ込んでいった。
やっつけた訳では無いが、これでしばらくは動けないだろう。
でも───
「ったく。完全に何も無くしやがって」
───町は壊れてしまった…。……俺のせいだ。
「俺のせいだ」
「お前のせいではない。こうなってしまったのは、誰も悪くないんだ。そう自分を邪険にするものじゃない」
「早く移動した方がいいんじゃない?またいつ襲ってくるか分からないし」
「そうだな。行くぞ?ソルト」
「あぁ」
町を出て、次の町を目指す。
俺にとって、この事件は忘れることが出来ないものとなった。誰も犠牲を出すことは無かったが、町を壊滅させてしまった。
誰も悪くないのは分かってる。でも、どうしても後ろめたい気持ちになる。可笑しいな。こうなることも分かっていたはずなのに…。
〜2〜
「あーあ。失敗したみたいですよ?エステール将軍?どうしますか?」
「報酬は渡さなくていいよ。別のやつ雇うから」
カルスはお馴染みのティータイムを堪能しながら、1匹の“ぺラップ”と話していた。
「それにしても、ビックリしましたよ。いきなり私を呼び出したと思ったら、バトル祭りの司会をしろだなんて」
「だってそう言うのは君が一番得意だろ?デュオ・ハレンガ中尉?」
デュオと呼ばれた“ぺラップ”は、ニコニコと笑いながらカルスのお茶を注ぐ。
「そうそう。タラ中将から仕事が来てますよ?来週までに片付けておくようにだそうです」
「あのおばはん…。僕にどんだけ仕事をさせたいんだよ。あ、デュオ。引き続き監視を頼むよ?」
「はい。おおせのとおりに」
そういって、カルスの部屋から出る。
こちらも大きく動き出そうとしていた。