1話
〜1〜
「はぁはぁ…」
俺とラピスは、村に戻ることなくそのまま進むことにした。
ライトは分かれ道の時に、俺からの伝言を残してそこからさようならだ。伝言と言っても、たいしたことではない。「泊まるのはまた今度にします」そう、ライトの両親に伝えてほしいと言っただけ。
「ねぇ、まだ走るの?」
「そろそろ休むか。もう夜だし、今日は野宿だな」
道端で休む訳には行かないからな、少し横によって、木の下で休むことにした。
夜なら、帝国の奴等も動けないだろう。朝になったら急いで身を隠せるような所を探さないとな。
ラピスは、もうすっかり軽くなってしまったリュックの中身を見ていた。
「まさか、10本あった特性ダイナマイトがあっという間に全部無くなっちゃうなんて」
「仕方ないだろ?あの別荘吹き飛ばすのに、1本じゃ足りなかったんだからさ」
9本あったダイナマイトも全部使ってしまった。つまり、俺たちの武器が1つ無くなってしまったと言うことだ。これはかなり辛い、結構あれ便利だったんだけどな。
「ねぇ、手を出しただけで、首が飛ぶような少将さんに手を出したから、私たち帝国に狙われるのかな?」
「そうだな。追われるんだからそうなるだろうな。……怖いか?」
「怖くない…っていったら嘘になるけど、独りじゃないから。まだ頑張れる」
そうは言っても、ラピスの身体は震えていた。死ぬかもしれない、それ以上の恐怖は今はないだろう。
俺は、ラピスの身体を自分の方に引き寄せた。
「ソルト…?」
「怖いなら、怖いって言っていいだ。無理する必要はないんだぞ?」
「……ありがとう」
「大丈夫。お前だけは、俺が守ってやるから。絶対に…!」
横を見ると、ラピスはすっかり寝てしまっていた。
そう言えば、俺、さっきかなりハズい事を言ってしまったような……。うわー!!ハズ!俺が守ってやるからって!な、何でそんな言葉がいきなり!?
その事が気になって、今日の夜は中々寝付けなかった。何度も寝返して、結局、5回目で朝になっていた。
「ふわぁぁぁぁ。結局、5度寝してしまった…って、それどころじゃねぇ!急いで移動しないと!ラピス!起きろ!」
「う、う〜ん。もう朝なのー?」
「寝ぼけてる場合かよ!早くしないと、帝国が追っかけてくるぞ!」
「そうだった!急ごう!」
軽くなったお陰で、早く動けるようになった。
俺は、ここから先に行ったことがない。ここから先は未知の領域だ。一体、どんなことが待っているんだろう。妙なドキドキが心の中を駆け回った。
〜*〜
「おーい、サファイア!買い物に付き合ってくれ」
「うん。今行くよ!」
“プロード”よりも、少し大きな村…いや、町にくせ毛が目立つ“ピカチュウ”と、可愛らしい“マリル”が住んでいた。
「今日の昼はシチューにでもするか」
「えーっと、じゃあジャガイモと、人参と、玉ねぎとお肉だね」
すると、くせ毛の“ピカチュウ”が町の門の前で、何かを見つけた。そこには、“ミジュマル”と“フォッコ”が生きだおれていた。
「お、おい!大丈夫か!?」
「お…」
「あ?」
「お腹すいた…」
「「…………え?」」
〜2〜
「う…ん?ここは…どこだ?」
確か…町に着いたと思ったら、急に目の前が暗くなって…。あ!ら、ラピス!
がばっと起きあがると、どこかの家みたいだった。木で出来た家で、俺はベットの上で寝ていた。
「あ!ソルトが起きた!」
右を見ると、ラピスがシチューをほうばっていた。ラピスの前に“マリル”が、その横にくせ毛の“ピカチュウ”が、こっちを見ていた。
「お、おま!なに食ってんだよ!」
「ソルトの分もあるよ?」
「そうじゃねぇって!何で俺たちここに?」
「あ、えっとね。ユーリとサファイアが、私たちを介抱してくれたの」
なるほど、ここはこの“ピカチュウ”と“マリル”の家、と言うことか。とりあえず、挨拶だけでもしておこう。
「えっと、助けてくれてありがとな。俺はソルト・カーテリアス」
「どういたしまして。僕は、サファイア・アストラです。よろしくお願いしますソルトさん」
「俺はユーリ。ユーリ・スティス。取りあえず飯でも食っとけ。腹へってんだろ?」
そういって、ユーリはシチューを皿にもって差し出してきた。
確かに、異常なぐらいお腹がすいている。昨日も朝も何も食べてないからなのだろう。
「いただきます」
具沢山のシチューを一口口のなかに入れる。そして、舌にものすごい衝撃が走った。
「うまい…!」
「でしょ?ユーリが作ったんだって。料理上手とか最高だよね」
「嫌でもやってれば、出きるようになるってもんさ」
そう言えば、ユーリもサファイアも、姓が違うってことは兄弟…ないよな。
「ユーリとサファイアは、兄弟じゃないよな?」
「まぁな。こいつが川で流れてたから俺が保護したってところだな」
「でも僕、身体が昔から弱いせいで、ユーリには迷惑をかけてばっかりですし、どうして川を流れていたのか記憶がないんです」
へぇ、もうすでに家族みたいな感じか。ユーリは俺たちよりも年上みたいだし、兄弟って言うよりも親子の方が近いか?
「で?あんたたちは旅をしてるのか?」
「うん。って言っても、昨日出たばっかりなんだけとね」
「お二人は生まれは何処なんですか?」
「え?あーー?そ、それが…ねぇ」
ラピスは、俺たちが障壁の向こうの中央州から来たことを話す。
もちろん2匹とも驚いていたが、黙ってくれると約束してくれた。あ、ついでに俺たちが帝国に追われてる事も。
「帝国…か」
ユーリは帝国と因縁があるのか、小さな声でそう言った。でも、何があったかは触れてはいけない気がして、そこには触れなかった。
今日は1日かくまってくれると言うので、泊まることにした。これが、運命だとは思ってなかった。もちろん、この時は…。