5話
〜1〜
はりつめた空気の中で、カルスは重い口を開き、 真実を話す────
「あははははははは!www」
「は?へ?」
───はずだった。いや、正確にははずが無かっただな。
「あのさー。軍事機密を一般に話すほど、僕だってバカじゃないよ?」
そう、軍で起こったこと、軍が計画した作戦は軍以外の者は知ってはいけない決まりだった。
「な!話すって雰囲気だったじゃねぇか!」
「誰も話すなんて言ってないよ?それに、騙される方が悪いと思うけどね」
カルスはそう言って、紅茶を一口飲んだ。
そして、全く手をつけていない俺とラピスの紅茶に目をやる。
「紅茶、飲まないの?毒なんか入ってないって。同じポットで注いでたの、君見てたでしょ?」
「たとえ同じポットから注がれたものだったとしても、カップに毒が仕込んでない可能性は否定できない」
俺がそう言うと、またしても大笑いし始めた。
こいつは…頭が逝かれてるのか?どうも好きになれないタイプだな。
「君さ…。なんか勘違いしてるよね?」
「?」
「僕は、毒なんかで簡単に殺すような奴じゃないさ!僕はねぇ、殺すなら徹底してやるタイプなんだ。だって簡単に死なられたら、つまんないじゃないか」
「逝かれてるよあんた」
「うん!良く言われる〜。それに、僕が異端なことなんて子供の頃から知ってるしね?」
子供の頃から異端って、一体…。あーも!なんかここにいると俺まで異端になりそうだ!
「分かりました…。それじゃあ、俺はこれで失礼します」
「ん、じゃあバイバ〜イ!」
ヒラヒラと手を振って、ご機嫌良く見送る。とりあえず目を会わせないように部屋から外に出ると、門番じゃない別の軍人が扉の横で待っていた。そして、牢まで案内する。地下に下りる階段を下りて、ラピスとライトに合流した。
「ソルト!大丈夫!?」
「うん?なにがだ?別に変化はないけど…」
すると、ラピスがいきなり抱きついてきた。しかも声がなんだか涙声だし…え?お、俺なんかした!?
「ど、どうしたんだよ…?」
「良かった…戻ってきてくれて良かった…」
いや、そんな生死に関わるような事はないと思うんだけど!?たぶん…。
「だ〜か〜ら〜。そう言うのはふたりっきりの時にやってくれ!!」
「あ、ごめん…。忘れてた」
「ったくよ〜。俺の存在薄い事に腹が立つよ」
ま、ますますこの2匹が言ってることが理解できない。俺に感じない何かが、こいつらにはあるのか?
変な空気になった牢屋の中で、外はもう夕方になりつつあった。
〜2〜
ソルトが出ていった後に、カルスはすぐさま棚の中にあるファイルをあさっていた。探していたのは、ソルトが住んでいた村での事についてだった。
この屋敷近辺の出来事の書類は、大抵この屋敷に保管されている。10年前の事について書かれたファイルの中身を確認すると、カルスの顔は確信の顔に変わった。
「なぁるほどねぇ〜。そう言うこと…」
カルスは自分の机に戻り、通信機でどこかに連絡をするようだった。そして、通信機に写ったのは1匹のポケモン。
「なんだカルス。私が忙しいのは分かっているだろう」
「相変わらずお堅いねぇ。もっと気を抜こうよ!メラニウス帝国の宰相閣下も…ねぇ?」
「礼儀を知らないゲスが。この事も含めて評価させてもらうからな。で、用件を言え」
「実はね、10年前のあの村の生き残りを発見しちゃったんだよね。どうする?」
宰相は、少し考えてから書類に目を通しながらカルスに命令した。
「始末しておけ。やり方は貴様に任せる」
「了解いたしました」
少しぎこちない敬語を話して、通信機の電源を切った。
カルスの後ろにある窓からは、ちょうど夕日が沈むところがみえる。すべてを闇に包み込むように、カルスの顔も黒い笑顔だった。