4話
〜1〜
カルスはティータイムを終えると、残っていた書類の仕事を片付けていた。こんな奴ではあるが、仕事はしっかりとやっている。
カルスにとって、少将としての仕事は自分を高い位置に置くための物にすぎない。元々、お金持ちのお坊っちゃん育ちなので、お金には困らない。父親は、メラニウス帝国の大将。母親は、東州一の不動産店取締役社長だ。なに不自由なくこの位置にたどり着くことが出来た、と言うところだろう。
「エステール将軍閣下!失礼いたします!」
「なーに?僕今忙しいんだけど」
ドアを開けて入ってきたのは、門番だった。一度敬礼をしてから前に進み、用事を話始める。
「将軍閣下!屋敷の前で怪しい者たちを発見したため、連行いたしました!」
「だ・か・ら?そんなの僕に聞かないでよ。勝手に処分しておいて」
「そ、それが…。中央州から届いたリストにのっているポケモンと、そっくりでして」
その一言で、カルスの興味が沸き立った。機嫌も持ち直したのか、珍しいぐらい笑顔になる。
「へぇ〜。なるほどねぇ〜。もう取り調べしたの?」
「いえ、まだですが」
「ならさ。僕がやるよ。丁度、良い紅茶もあるし。案内してきてくれる?」
「はっ!」
門番はそう言って、もう一度敬礼をしてから出ていった。カルスは、ひらひらと手を振ってご機嫌に門番を見送る。
門番にとって、カルスと会話すること事態が脅威だった。下手したら、自分の首が飛ぶ事になる。あの将軍は、使えない部下を容赦なく切り捨てる。自分にとって利用できるかどうかしか考えていないのだ。
だからこそ、生きたかったら余計なことはしない。言うことは必ず聞く。この2つは、絶対条件だった。たとえ、自分が非道な事をすることになったとしても…。
〜2〜
「なぁ、ソルト…さん?だっけ?あんた、将軍になんか用でもあるのか?」
「あぁ、物凄く重要な用事がな」
将軍に聞けば、俺の村を壊滅させた奴をあぶり出すことが出来るかもしれない。まぁ、あくまで殺したりはしない。墓の前で謝らせるだけだ。出来るなら、ついでに牢屋にぶちこむ。それが目的だ。殺しなんかしたら、お世話になったポケモンたちに会わせる顔がなくなってしまう。
「……ねぇ、ソルト?ソルトがしたいことって…なんなの?」
ラピスが不意にそんな質問をしてきた。いつかはラピスにも、話さないといけないことなのだろうが、今は話したくなかった。
「……わりぃ。今は話せない。でも、いつか、いつか話すよ。そのときは、俺が覚悟したときだから。しっかり聞いてほしい」
そう言うと、ラピスは俺に寂しそうな顔をした。でも、それはすぐに優しい笑顔に変わった。
「分かった!ソルトがそう言うなら、私、ソルトが話してくれるまで待ってるね」
「…あのー?俺の事忘れてない?」
「「あ、忘れてた」」
すっかり空気になりつつあったライトが、顔を赤くしてこっちをチラ見していた。なんか、あったか???
「あのな〜。そう言うのは、ふたりっきりの時にやってくれよ」
「ご、ごめん…」
この2匹はなんの話をしてるんだ?こいつら見てると、ますます分からなくなる。
そこに、地下の階段を歩ってくる音が聞こえてくる。姿を見せたのはあの門番だった。
「おい!そこの“ミジュマル”と“フォッコ”!エステール将軍閣下がお呼びだ!出ろ!」
そう言って、牢の鍵を開けた。今日はつきまくりだ、まぁ、うまく情報を聞き出せたらだけど…。
俺とラピスは、前に門番。後ろに軍人を置かれた状況で長い廊下を歩く。初めて屋敷の中を歩ったが、本当に広い屋敷だ。部屋数も多いし、まるで迷路みたいに感じる。前を歩っていた門番が、ある一室で止まった。ここが将軍の部屋なんだろう。
「良いか、エステール将軍を怒らせたら最後だからな。なるべく機嫌を損ねないようにしてくれよ?」
そう俺たちに忠告して、目の前のドアを開けた。
中には、大きな机で仕事をしている“エモンガ”がいた。羽ペンをインクに戻して、こちらに微笑む。
「やあ、ようこそ!僕はカルス・エステール。メラニウス帝国の少将をしてるんだ。よろしくね?まぁ、立ったまんまじゃなんだから、どうぞ。あ、君たち、部屋の前で警護をお願い」
「はっ!」
「さ、どうぞ」
おそるおそる中に入り、真ん中にあった高そうなソファーに座った。
カルスは紅茶の用意をして、カップに紅茶を注ぎ、俺たちに差し出した。そして、先に切り出したのはカルスだった。
「で、僕がどうして君たちを呼んだか。分かるかい?」
さて、どう返したものか…。ここは素直にしておいた方がいいな。
「いいえ。全く」
「実はねぇ。君たちに聞きたいことがあるんだ〜?」
「聞きたいこと?」
「そう!今朝さぁ、障壁が何者かによって壊されちゃったんだよね〜。あれさー。壊したの君たちじゃない?」
「一体どこにそんな根拠が?」
「これさ」
カルスが出してきたのは俺とラピスが写っているリストだった。流石、中央州は報提供が早いな。
「右目の下に傷がある“ミジュマル”と、その幼馴染みの“フォッコ”。どう見ても、君たちにしか思えないんだけどなぁ〜」
「……もし、そうだったとしたら?」
「そうだったら、君たちを中央州に強制返還するだけ。そうすれば、僕の仕事がひとつ片付くってもんだ」
なるほど、こいつは仕事が片付くことしか考えてない。それで片付くなら、どんな卑劣な方法でもかまわないってところか。
「ここでうそをついても仕方ないか。そうですよ?確かに、障壁を破壊したのは俺達です」
「はい!これで、僕のお仕事しゅうりょー!じゃあ戻って良いよ?明日強制返還するから」
「あの…。質問したい事があるんですが、いいですか?」
「うん?まぁ、少しならいいよ?」
その言葉を聞いて、俺はラピスに耳打ちをした。
「ラピス。先に戻っててくれないか?俺も後で行くからさ」
それを聞いて、少し戸惑ったのかそわそわした顔でこっちを見たが、ドアの外に追いやった。
さて、これで聞きたいことが聞ける。
「で?僕に聞きたいことってなに?」
「その昔、この近くの村ができる前に、ある村がありましたよね?」
「あぁ、そう言えば父上がそんな事言ってたような。で?それがどうしたの?」
「俺が聞きたいのは、その村を壊滅させた首謀者が誰か…。と言うことです」
その質問をしたときに、カルスの目付きが変わったように感じた。あの愛想が良い笑顔が、冷たい冷徹な顔つきに一瞬で変わった。
はりつめた空気の中で、カルスが真実を話し出す。