2話
〜1〜
壁で隔たれた世界で、真ん中に位置してると言われてる中央州。その中央州と東州の境目にある障壁の町が、ミストライル。別名“銀の町”。その町が、俺が今住んでいて、ラピスの故郷なのだ。
この町では、近くにある鉱山で取れる銀を主な特産品として扱ている。銀製品を買うならこの町で!という訳だ。農作物もそこそこだがとれる。この町では、自給自足の生活をするポケモンが多いのだ。
それもそうだろう。なんせ、市長がろくでなしの奴なんだから。
「そう言えばさ、市長さんって会ったことないよ?」
「ろくでなしって、ヒビキが言っても何の説得力もないしな」
まだ子供…では無いけれど、大人が言うには税金をガッポリ持っていくようなとんでもない奴だそうだ。勿論俺達は、市長なんかに会ったことがない。まぁ、子供嫌いなら子供の前には出てこないか。
「あっ!見えた!」
山の中腹にある市長の家。その辺にある家とは比べ物にならないぐらいでかい。何階建てなんだろうか?遠くから見た限りだとそうでもなかったが、近くで見ると要塞のように感じる。
「イーブイセブンは…?」
「ラピス!とおまけ」
お、おまけ!?しかもなんか冷めてるし!扱いの差が大きすぎるだろ!?
ビックリしている俺に何も気を留めることなく、ラピスはレイラと話をしていた。
「あ、レイラ。まだ入ってなかったんだ」
「まぁね…。入る入らないは別にどうでもいいのよ。それよりも、あの燃え盛ってるやつを何とかして欲しいな」
市長の家の門の前で、ヒビキとヨルが喧嘩…と言うよりもじゃれあっていた。
ヒビキの上にヨルが乗って押さえつけるような格好になっている。
「だぁー!放せよヨルにぃ!」
「だめだ!そうやってお前はいっつも他に迷惑をかけて!」
凄い勢いで暴れ回るヒビキを慣れた手つきでヨルが押さえつけていた。火を吐く勢いでヒビキはヨルに抵抗した。
この光景を見れば、きっと誰でも、ヨルは市長の家に入るのを止めようとしているように見える。でも、人生はそんなに甘くない。
「良かった。ヨルが市長の家に入るのを止めてくれれば、こっちはもう大丈夫だね」
「それが…そうでもないのよ」
「え?」
ラピスも俺も、この時はまだこの事実を知っていない。まさか、このヒビキの行動が、この町の運命を変えることになるなんて、その時は思ってなかった。
ついでに、ヨルのこの発言も。
「何の作戦もなしに市長の家に侵入するなんてできる訳ないだろ!俺にいい作戦があるんだが…のってみないか?」
「え…?」
「「「え〜〜〜〜!!!!!!??」」」
まさか、ヨルも乗り気だったなんて…。これはさすがに予想できなかった。
〜2〜
市長の家の門の近くにあった木の下に、全員で円を描くように座った。
「よっしゃ!良いか野郎ども!これから作戦会議を始める!」
「「「おお〜〜〜〜!!!!」」」
「「「「「お〜」」」」」
もうこうなったなら、どうにでもなってしまえ!と投げやりになってしまう。本気でやる気なの二匹。
なんだか楽しそうだからその場の空気に合わせようが二匹。
もう嫌だと思ってるやつら五匹。
ここの状況は今はこんな感じだ。
「入るのはいいけど、作戦は?」
「それなんだが、今回市長の家に入るのは、ソルト。お前に任せたい」
うん?聞き間違えじゃなかったのなら、さっき俺の名前が出てきた?
もう一度聞き直そうとヨルに詰め寄ると、俺が聞く前にヨルが話し始めた。
「今回のメンツを見る限り、おまえが俺の次に判断力と行動力が上だ。それに、ぞろぞろと一緒に行ったらそっちの方が怪しまれる」
こいつの悪いところはなんて言っても、その言葉一つ一つに説得力があるところだ。そこが少し気に入らない。まぁ、二十歳なんだから大人びた表現はだめとは言わないが、俺にもツッコませろよ。とつくづく思う。
「で?どうなんだ?」
「え!?あ、や、やればいいんだろ!やれば!」
「そうこないとな!」
「ねぇー、なんで私は一緒じゃないの?」
ラピスがヨルにブーイングを放つ。一体どんな魂胆だよ。
「お前、ドジだからな」
「え!?なに!?それが理由!?ヤダヤダヤダ!私も行くー!!絶対行くー!!!」
「ラピス!お前には他にやることがあるから大丈夫だ」
「何それ?」
「かなり重要だからなぁー。ラピスじゃないとできないんだけど、でもソルトと行っちゃうんだもんなぁー」
明らかに怪しいが、単純な思考の奴にはこれがかなり有効だ。長いつきあいだからか、ヨルはよく分かってる。
「重要?ソルトの手伝いができる?」
「うんうん!できるできる!」
「分かった!じゃあソルト!私が居なくてもビビらないようにね?」
「ふざけてるのか?お前」
おなかについているホタチでラピスの頭を殴る。眉間には当ててないから多分大丈夫だと思う。殴られたラピスは、頭を抑えてうずくまっていた。
「ううう・・・。事実だからって殴らなくても良いじゃん!」
「それ以上言ったら“シェルブレード”で切り刻むぞ!」
「ピギャーー!!!!」
固まってしまったラピスを軽く殴って、ヨルの方を向いた。
後ろの方でラピスがまだ固まっているのが、横目で見える。ちょっと睨みつけただけなのに、そんなに怖かったのか?
「で?俺は何すればいいんだよ」
「簡単さ。俺の指示で市長室まで行って、確実な証拠を持ってくる。それだけだ。あ、ほいトランシーバー」
「それってさ…不法侵入と泥棒だろ」
「もうこうなったらやるしかない!捕まったらヒビキに弁護でも頼め!」
「そんな無責任な・・・」
きっと、俺の裁判が始まる頃にはもう弁護士じゃなくなってるから意味ねぇって。はぁ、とっさにやるなんて言わなければよかった。
「で?私達はどうすんのよ?」
「他は、見張りだ。もし他の奴が来たら俺に知らせろ。あと、逃げ場と隠れる場の確保も忘れるなよ?あ、ラピスは俺と一緒な?」
「「アイアイサー」」
「よし、ソルト、準備は良いか?」
「あぁ」
「じゃあ作戦スタート!」
強い風が吹いたかと思った瞬間、木の下に居るのは俺だけになった。ラピスはヨルに引きずられていったのかもしれない。
と、それよりも早く市長の家に侵入しないとな。
本当は不本意ではないが、どこか入れるような場所を探す。大きなドアに窓がたくさんあるだけで、後は入れるような場所は見当たらない。
すると、トランシーバーからヨルの声が聞こえてきた。
「ソルト、どこか入れるような場所はあるか?」
「うーん、見た感じは無さそうだけどな」
「それなら屋根から攻めよう。煙突から入るんだ」
上の方を見ると、確かに煙突がある。て言うか、こんな要塞みたいな家をよじ登れって言うのか!?
「・・・・・登れない」
「だろうな。と、言うわけで助っ人を行かせたから」
「助っ人?」
すると、後ろの方からシュンと言う音が聞こえた。
後にはアメラが凛とした表情で立っていて、本当にモデルなんだと思った。
て言うか、助っ人ってアメラかよ!
「ほら、ぼさっとしてないで早く来なさいよ」
「あ、はい」
急いでアメラの隣に近寄る。次の瞬間、体がフワッと浮いたと思ったら、目の前には大きな煙突がそびえ立っていた。
「うわっ!何したんだよ?」
「“テレポート”よ。自由自在に場所を移動できる技。って言ってもそんなに遠い所までは移動できないけどね」
「へぇ、なるほどな」
「じゃあ後は自分でやってね?私これから仕事だから、あ!ヨル兄さんに言っといてくれる?じゃ!」
そう言ってアメラは、どこかに行ってしまった。あ、トランシーバーのスイッチオンにしたままだった。
「だってさ、さっきの話聞いてたろ?」
「全く・・・薄情な妹だ」
いや、そこじゃなくて、ただたんに興味がないって言うか、巻き込まれたくないだけのような気がする。
「それよりも、早く入れよ」
「あ、そうだな」
煙突をよじ登るぐらいだったら何とかなる。煙突の中は真っ暗だった。いかにもすすだらけになりますよーって言ってるように見える。覚悟を決めて煙突の中に飛び込む。真っ暗なその中は、どこまでも続いているかのように感じたが、ドン!と言う音とお尻に衝撃が走った。
「いちちち・・・」
「大丈夫か?すっごい音が聞こえた気がしたんだが」
「尻打った。あとちょっとだけすすだらけ。今が冬じゃなくて良かったよ」
「全くだな。で、そこはどこだ?」
まわりをよく見ると、どうやらリビングみたいだった。窓から外を見ると、目の前に森があることから、一階みたいだ。天井には大きなシャンデリアがあり、家具はどれも高そうに見える。
「一階のリビングだな。高そうなテーブルとか、ソファーとかがある」
「一階のリビングか、市長室はそこから二階に上がった右側の三つ目の部屋だ換気口がないか?」
暖炉の上の方に換気口らしき物がある。大きさは、俺が通るのでやっとな感じだ。ここから見ても掃除されているようには見えない。
「暖炉の上の方にあった」
「それは、暖気を家中に送り届ける為のダクトみたいなものだ。それを使えば市長室まで行けるはずだ」
「分かったよ。嫌だけど行く」
暖炉の上に登って、“シェルブレード”で格子を切り刻む。バラバラになって床に落ちるが、盗みを働くのだからバレるのは仕方がない。
中は埃っぽく目がしみるしくしゃみが止まらない。
「なんで俺がこんなことを・・・」
「まぁまぁ、そう言うな。そこを通れるのはお前ぐらいだったんだ」
おい!さっきお前の次に行動力と判断力があるとか何とか言ってたろ!まさか、これが目的か?
そんな事を考えていると、トランシーバーからはラピスの声も聞こえてきた。
「ねぇ、ヨルー?私は何するの?」
「え?あ、あーっ。そーだなー。俺の後でも守ってくれる?」
「それならヒビキにでもやらせればいいでしょ!ヨル、嘘付いたね?」
「い、いや!ら、ラピスさん?嘘じゃないって!本当本当!だって俺の後を守るのは、ソルトを守るのと同じでしょ!?」
「問答無用!“マジカルフレイム”!!」
「うわ!?何すんだよ!」
「動かないでよ!燃やせないでしょ!?」
「動かなかったら死じまうって!」
そんなやりとりが耳元で鳴り響く。こんな狭い場所でそんな大声を出されたら、反響はするしうるさいったらない。
「人の耳元で騒ぐな!切るぞ!いいな!?」
「あ!ちょ!ソルト!まっ」
ブチ!と音を立てて、トランシーバーからは声が聞こえてこなくなった。やっとこれで集中出来る。
ズンズンと前に進んでいく。二階に続いているのか、坂になっている。それほど急な坂ではないのだが、なんせ埃が伴う。目が開けられないほど痛みが襲ってくる。
二階に上がり、三番目の部屋に向かう。下の方に明かりが見えてきて、覗くと大きな机と椅子が置いてあった。
「ここか・・・。にしても長かった」
また“シェルブレード”で切り刻む。床にバラバラになった格子が飛んでいったのが見えた。
下に降りて、机の上に着地する。そして、顔を上げて部屋を見てみると、そこには想像を絶するものがあった。
「な、なんだこれ・・・」
思わず息をのむ。もしかしたら、知ってはいけないことを知ってしまったんではないか?いや、でも、これは俺の仮説にしか過ぎない。取りあえず、一回戻ろう。話はそれからだ。
そう思って取りあえず窓の外を見る。下ではラピスとヨルが追いかけっこをしていた。もちろん、遊んでいるわけではない。生死をかけた大勝負なのだ。少なくとも、狙われているヨルの方は。
「何やってんだあいつら」
ギャーギャー騒いでいるところを悪いが、ちょっとお邪魔するよ。
勢いをつけて窓ガラスを割って飛び降りる。下の方をみて“水鉄砲”でゆっくり降下した。
「うわ!冷たい!」
「よっと!お楽しみ中に悪いな。戻ってきたぜ」
「いきなりはヒドくないか?ビショビショだろ!?」
「へぇ〜。じゃあ私の炎で乾かしてあげようか?」
「あ、いや!そ、そんな事より!なんか証拠あったか!?」
「あぁ、その話でちょっと話したいことがあってさ。一回遊び場まで戻ろうぜ?」
ラピスとヨルはお互いに顔を見合わせて、?が頭の上に浮かんでいるように感じた。
そんな事はお構いなしに、遊び場まで歩き出す。俺が気づいた、まぁ、仮説にすぎないのだがその事をみんなに伝えるために。