番外編!シーザとエレスのあの世の約束
〜1〜
シーザとエレスが出会ってから、15年の年月が過ぎた頃。エレスにも、シーザにも立派な家庭が出来。2匹には息子が1匹ずついた。
誰も言わなくてもわかると思うが、ソルトとカルスだ。カルスは13歳。ソルトは6歳。今日は、ソルトの6歳の誕生日だった。
シーザ達が準備をしている間、エレスはと言うと…。メラニウムス帝国の宰相。ギランに呼び出されていた。
「村の殲滅…ですか」
「そうだ。我々の計画の為に、あの村は邪魔だ」
「しかし。あの村は、封印の地を守るための役割を担っている場所。その様なことをしてよろしいのですか?」
「すぐに障壁を建てる。そこには問題は無いだろう。ただ、あの封印の地を守る奴等が邪魔なのだ。入れろといっても、入らせぬの一点張りだからな」
「で、その村の殲滅を私に指揮しろと…?」
ギランは、相変わらず書類に目を通しながらエレスと会話する。
殲滅する村は、シーザ達が住む村だ。出来ることなら、自分はこの殲滅に関わりたくない。そう、エレスは考えていた。
「そうだ。何か不満なことでも?」
「それぐらいのことでしたら、私ではなくてもよろしいのでは?」
「あそこは、我々の計画の始まりの場所。貴様のようなやつがやる方がいい。それとも…。他に殲滅戦に関わりたくないことでもあるのか?」
完全にこちらの事を読まれている。これは…回避することは不可能だな。
「いいえ。そのような事は…」
「期待しているぞ」
「はっ。仰せの通りに…」
エレスはそう言うと、ギランの書斎から出た。
これから、殲滅戦を開始する…。
〜2〜
そして、シーザは…。家族と幸せな時間を過ごしていた。
「ソールト!お誕生日おめでとーう!!!」
「父さん。テンション高すぎ…」
「良いじゃないか!今日は1年に1度のソルトの誕生日だぞ!?それに、6歳の誕生日は、今日しかできないんだ!今を楽しまないでどうする!」
「分かったから座りなさい!」
「はい…」
マリンに怒られ。シーザは、少しだけシュンと落ち込む。
と、言っても。ご馳走が食べられるなんて、1年に3回だ。シーザ、マリン、そしてソルトの誕生日。その時だけは、マリンはいつもより奮発してご馳走を作る。
「今日のご馳走は一番すごいな」
「もう。それ、この前の私の誕生日の時も言ってたわよ?」
「いいんだよ。お前のごはんは一番おいしいんだからさ」
「もう。調子いいんだから」
「デレデレしてないで、はやく食べようよ」
子供にそんな事を言われてしまい、2人で顔を真っ赤にする。
デレデレしているとは思っていなかったが、子供からはそう見えるんだろうか…?
「じゃ、じゃあ。ご飯を食べよう!」
「「「いただきます!」」」
そう言って、ご馳走に手を出そうとしたときに、変な音が外から聞こえてくる。
なんだ…?この音?…!ヤバイ!!
「ふたりとも!伏せろ!!!」
「え?」
ドン!!と言う音とともに、家の屋根がバラバラに砕け。マリンとシーザは、ソルトを守るために、覆い被さるように庇った。
瓦礫の中から顔を出すと、周りは赤い炎で包まれ、軍人が剣や銃でどんどんポケモンを殺していっていた。
「ソルト!マリン!」
ソルトは気絶しているだけみたいだったが、マリンの体は冷たく。息もしていなかった。
「……シーザ」
「エレス…。お前…」
いつの間にか後ろに立っていたエレスに、シーザは驚きを隠せない。かし、すぐにどうしてここにいるのか、その理由を悟ったような気がした。
「悪いな。上からの命令なんだ」
「殲滅しろ…っか?」
静かにエレスは頷き、シーザの目を真っ直ぐに見る。
シーザの心は、ものすごく落ちついていた。愛する妻を殺されたのに、どうも怒りが沸き上がってこない。それどころか、エレスに殺されても悔いはないとも感じていた。
「ソルト君だけはなんとか助ける。それは本当だ」
「なんだ?お前は俺の息子を犯罪者にしたいのか?」
「ふっ。それはその時にならないと分からない。それに、私は軍から抜ければただの大量殺人鬼だ。きっと死刑だろう」
「…死にたいのか?」
「………そうだ」
その言葉は、エレスの本心だった。自分で大切な友を殺すならば、このまま自分も死んでしまいたい。そう考えていた。
「俺がお前に殺されるのは決まっていることだから、もう諦める。でも、今お前が俺と一緒に死ぬのは許さない」
「…?」
「だってそうだろ?なんで男と一緒に死なないといけねぇんだよ。それなら、もっとかわいいねぇちゃんと死にたいわ」
「悪かったな。私が可愛い女性じゃなくて」
「それに、お前は俺の倍以上に生きられるんだろ?だったら、人生のすべてを捧げてからあの世に来い。それまで待っててやる」
いつもと変わらない笑顔が、ものすごく心に刺さって…痛い。
どうせなら、思いっきり怒ってくれて良かったのに。殺してくれれば良かったのに。こいつは、本当に変わった奴だ。
「この世じゃお前に勝ったこと無いからな。あの世で、お前と一戦交えたいんだ。それぐらいいいだろ?」
「あの世でも、同じ結果だと思うぞ?」
「それは分かんないだろ。…だから、生まれ変われって神様に言われても、俺はお前をずっと待ってる。約束だ」
「あぁ。約束だ」
最後に聞いた言葉は、エレスのその声だった。苦しいと言う感覚はどこにも無かった。ただただ、楽になったような。そんな感覚。
シーザの心臓を、エレスの雷が貫く。なるべく苦しまないように、殺した。顔は笑顔のままだったが、その目には綺麗な涙が溜まり。頬を濡らした。
そこに、1匹の軍人がやってくる。
「エステール大将!殲滅し終わりました!」
「そうか…。なら、撤収だ。メラニウムスに戻るぞ」
「はっ!!」
若き軍人はそう言って、颯爽に走り去る。
そのあとに続くように、エレスもゆっくりと歩き出す。その瞬間に、ボソッと呟いた。
「……この大馬鹿者が…!私に勝てるわけないだろ…!」
雨が降り始め、頬を濡らすのが涙なのか雨粒なのか、分からない。
ただ、この雨が全ての始まりを告げるのは、エレスにも分かっていることだった。