夏夜の華を君に
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本編
夏夜の華を君に
〜1〜

俺が目を覚ましたとき、そこには見たこともないような空間が広がっていた。よく分からないような機械が大量に置かれていて、俺はなぜか透明な籠ような物に囲まれていた。それにしても周りが騒がしい。

「博士!実験成功です!」
「えぇ。これでまた一歩、古代ポケモンの研究が進むわ」

透明な籠が開き、一人の人間が俺を抱き抱えると、真っ直ぐ俺の目を見た。その目は、けして怖いものではない。どこか安心できるような懐かしいようなそんな感じだった。

「これからよろしくね。“アーケン”」

これが俺の出生、いや、復活した時の話だ。
それから俺はいろんなことを知った。今俺が住んでいる所は研究所と言うらしい、俺のご主人は、俺のような古代ポケモンの研究をしている科学者で、俺もたまにその研究を手伝っている。
そんなことを知って一体何になるのか、俺にはよく分からないし、興味もない。でも、ここの生活も悪くない。飯はうまいし、すごく快適な空間もある。それに、俺以外の仲間もいるしな。まぁ、そんな環境だったからだろうか?俺はどんどん成長していき、“アーケオス”に進化した。

『なぁ、また外の事を気にしてるのか?“アーケオス”』

俺が窓の向こうに広がっている空を見ていると、1匹のポケモンが話しかけてきた。
こいつは、“オムスター”。俺と同じ時期に化石から復活し、俺と同じように進化した…ある意味、友達だ。

『そんなに行きたいなら、壁でもなんでもぶっ壊して出ていきゃいいじゃねぇか』

簡単に言いやがって。俺だって、出来るならそうしたいさ。でも、俺が壁をぶっ壊して出ていったら、きっとご主人は悲しむだろう。それに、迷惑をかけることになる。それだけは避けたかった。

『俺は“あの人間”に迷惑をかけるほど、外に行きたいとは思ってない』
『痩せ我慢しやがって、昔はあんなに空を飛びたがってた癖によ』

確かに…俺がまだ“アーケン”の時は空を飛びたいといつも思ってた。何度も飛ぼうとしたし、その度に俺はいつも体にアザを作った。

『そういうお前はどうなんだよ』
『オイラか?オイラはな。海に戻りてぇな。そんでよ!海の中で自由に泳ぎまわるんだ!楽しいだろうなぁ!』
『じゃあ、壁をぶっ壊して出ていったらどうだ?』
『バカ言うんじゃねぇ!ここの連中には恩があるからな、出ていきたくても行けねぇよ!』

結局お前も同じじゃねぇかよ。そう思ったが、心に閉まった。こいつにこんなことを言ったところで、今の現状が変わる訳じゃない。
するとドアが開き、ご主人が入ってきた。

「“アーケオス”。こっちに来てちょうだい」

俺はこの言葉に反応して主人の元に行く。また研究の手伝いだろうか?
ご主人の後ろを黙ってついていくと、1つのドアの前にたどり着いた。ドアはご主人に反応して勝手に開いた。そしてその瞬間、俺は目の前の光景に驚いた。
目の前にはいつも見ている広い空に、俺が暮らしている空間に生えているものとは違う植物、そして明るく暖かい太陽の日差しが俺を照した。そう、今俺は憧れだった外にいる。
ご主人と同じ服を着ている人間が、俺の翼に何か変なものを着けた。

「“アーケオス”。今日は貴方の飛行距離を測りたいの。今日は自由に飛んできても良いから。でも、日が落ちる前に帰ってきてね?出来る?」

俺はご主人のその言葉を聞いて、頷いた。実験の内容は興味ないが、俺にとって重要なのは、自由に飛び回ることと、日が落ちる前にここにまた帰ってくることだけだ。

「うん、いい子ね。準備はいい?」
「はい。いつでも大丈夫です」
「よし、じゃあ行くわよ!お願い“アーケオス”」

ご主人のその言葉を聞いて、俺は思いきって地面を蹴り、自分の翼を羽ばたかせた。一気に高度を上げて、雲を突っ切る。風に乗るこの感じ、雲を切るこの感じ、全部が全部懐かしい。古代の時代とは違う環境でも、空を飛ぶ感覚は全く変わってない。
やっぱり、空を飛ぶのは楽しい。空から見るこの景色はいつの時代でも美しい。下には、どこまでも広がる青い海に、白い砂浜、そして綺麗な緑の森。俺は試しに、砂浜に降りてみることにした。
砂浜に降りて、海を眺めながら歩いてみることにした。どこまでも続いていく海を、こうして眺めるのも悪くないかもしれない。すると、俺の足に何かがぶつかり、転がっていった。

『なんだ…?』

見てみると丸い物体だった。紐もついていて、匂いを嗅ぐと薬草の臭いがする。あと、炭のようなそんな匂いも。なんだこれ?俺が研究所にいるときも、古代の時代にもこんな物は見たことがない。何が起こるか分からないと言う恐怖と、少しの好奇心が俺を襲った。
すると、遠くから何かものすごいスピードでこっちに近づいてくるのが見える。オレンジ色の…ポケモン!?土煙を巻き上げながら、オレンジ色のポケモンは丸い物体の手前で止まった。

『ゲホッ!ゲホッ!なんなんだよ…!』
『あったあった!良かったぁ〜!』

砂が目に入ってよく見えないが、オレンジ色の羽毛、黄色い鶏冠に黄色い嘴が目についた。
土埃が収まって、目に入った砂を取り除きもう一度見ると、丸い物体に体を擦り付けながら嬉しがっているポケモンがいた。

『……お前、誰?』
『ふぇ?』

ポケモンが俺を見て、少し沈黙が続いた。ビビって放心しているのか、今の状況についていけてないのか…どちらにしても、つぶらな瞳が俺と目を合わせていると、なんだか照れ臭い感じがした。
沈黙が続いた後に、先に話しを切り出してきたのは、ポケモンだった。

『えっと……君は?』
『俺は“アーケオス”。向こうの研究所に住んでる』
『へぇ…!研究所って、森の中にある建物だよね!?私、研究所のポケモン始めてみたよ!』

特に怖がることもなく、目を輝かせながらポケモンはこちらを見つめてくる。余計に恥ずかしくなるから、その目を止めてほしい。

『私“アチャモ”のフレイム。あ、フレイムって言うのは私のご主人が着けてくれたニックネームなの!気軽にフレイムって呼んでね!よろしく!』
『あ、よろしく…』

ものすごい勢いで自己紹介をされて少し困ったが、悪いやつではなさそうだ。第一印象的には、純粋で元気が命みたいなそんなやつ。でも、まだ安心はできない。外には悪いやつらが沢山いると、昔研究所の仲間に聞いたことがある。それはポケモンも人間も関係無い。小さいとはいえ、騙しているかもしれないと少し思っておかないと。…疑心暗鬼になり過ぎだろうか?
俺は試しに、丸い物体についてフレイムに聞いてみることにした。

『それ…お前の?』
『あぁこれ?これは、私のご主人が作った花火玉だよ』
『花火玉…?』
『そう。花火を作るもと…って言ったらいいかな?これに火をつけると綺麗な花火になるの。私のご主人は花火職人で、こういう花火を作る専門の人で、私もその手伝いをしてるの。ちなみにこれ私が作ったやつでね?あ、花火ってなかに入ってる火薬と、色を決めるための薬草によって大きさとか形とか色とかが決まるんだけど───』

博識に語り始めたフレイムの声は、俺には何を言っているのか理解できなくなり始めた。
花火…?なんだそりゃ。俺が生まれてからも、俺がこの時代に復活してからも、そんな言葉は聞いたことがない。この丸い物体が綺麗な物になると言うのだから、少し信じられなかった。

『───今回作ったのは小さめのやつなんだけど、色とか形とか意識して見たんだ。あー!早く打ち上げてみたいなぁ…!』
『その…さ。花火ってなんだ?』
『え?花火見たことないの!?』
『わ、悪いかよ!』

なんだかばつが悪くて、少しだけ不貞腐れる。それでも、フレイムは笑顔で俺に近づいて楽しそうに言った。

『ごめんごめん!別に嫌味で言った訳じゃないの。じゃあ、明後日この辺でお祭りがあるんだけど、一緒に花火見に行かない?』

突然の誘いに、俺は驚いた。と言うよりも、呆れていたに近い。まだ出会って数分しか経ってない相手を普通、『明後日お祭りがあるから、一緒に花火見に行かない?』と言えるだろうか?いや、俺が常識に囚われすぎているのか?それともこいつが常識はずれなのか?

『私ね。花火が好きなの。花火って、暗い夜空に綺麗な華を咲かせるんだけど、でも、その華は一瞬しか咲かなくて…儚いけど、それでも私たちの記憶にいつまでも残る。だから、私は花火が好き。だから、君にも見てほしいの』

フレイムはそう言いながら海の向こうを見る。それを見たからだろうか?フレイムの思いを聞いたからだろうか?まぁ、例えどちらだったとしても、俺が次に言うべき答えは変わらない。

『…いいぜ』
『え…?』
『そんなに言うなら、見てやるよ。その思い出に残る綺麗な花火ってやつ』

なんでこんなことを口走ったのかは自分でも分からない。行けるかどうかも分からないような無理な約束を、どうして自分は言ってしまったんだろう?それは、今よりももう少し後になってから自問することになるのだが、今は置いておこう。
フレイムは俺のその言葉を聞いて、目を輝かせながら聞いた。

『本当?本当に…!?一緒に花火見に行ってくれるの!?』
『あぁ。いいぜ』
『やっっっったぁぁ!ありがとう!』

そう言って、フレイムは俺の周りを回ったり跳ね回って嬉しさを爆発させた。なんだか、こいつが悪いやつだと少しでも思ってた自分がバカのように感じてくる。

『じゃあ、明後日の夜。この浜辺で待ち合わせね!えっと…“アーケオス”君は呼び辛いから……アー君って呼んでいい?』
『別にいいけど…』
『じゃあ決まり!明後日、約束だからね?』

そう言って、フレイムは花火玉の上に乗って上手いこと転がしながら、来た道を走っていった。…本当に嵐みたいなやつだった。…まぁいいか。それより、俺はご主人の為に飛ばなきゃな。
俺はまた空に飛び立ち、その浜辺を後にした。そして、俺が事の重大さに気づくのは研究所に帰ってからだった。


────
──────

『お前さ。本当に救い用のないバカだよな』
『そこまで言う必要ないだろ!?』

今日あったことを“オムスター”に話した。そしたらいきなりこの言いぐさだ。まぁ、自分でもどうしてあんな約束をしたのかと悩んでるのだが。

『なんで出気もしないようなことを約束したんだよ。バカか?バカなのか?いや悪ぃ、バカだったな』
『そんなに連呼するなよ。流石に傷つく…』

…そんなこと言われなくたって、自分がバカだと言うことぐらい分かってるさ。でも、他人にその事を言われるのは傷つくし癪に障る。
俺が意気消沈していると、“オムスター”は半ば呆れたように聞いてきた。

『んで?お前はどうしたいんだ?』
『は…?どうしたいって…そりゃあ』

そういいかけて俺は言葉につまった。
約束は…守りたい。でも、俺のご主人には迷惑をかけたくない。どちらも守りたいだなんて…そんなこと出きるわけがない。俺はどちらかを犠牲にするしかない。それしか選択肢がない。今の俺に、決めることが出きるだろうか?

『なぁ、お前さ。そのフレイムってやつとの約束が本当に大切ならさ。こんな薄っぺらい壁なんて、破壊してでも行けば良いじゃねぇか』
『簡単に言うなよ…』
『だって簡単な話じゃねぇか』

いつもよりも真剣な顔つきで“オムスター”がそう言う。その顔を見て、冗談で言ってるつもりではないのがよくわかった。

『空を飛びたいって言う、お前の欲は今日叶ったわけだ。んで、その次に見つけた欲が花火を見たいって言うやつだろ?なら、誰かに迷惑かけるとか、約束がどうこうじゃなくてさ』
『そりゃあ、そうだけどよ』
『それにさ、欲がなくなったら、ポケモンも人間も終いなんだ。ま、お前がどーしても叶えたいってんなら、オイラが協力してやるよ』
『なんで…お前がそこまで…?』
『なんでって…オイラ達の仲だろ?ほら、ダチ公ってやつ?ったく、それぐらい気づけよなバカ』

“オムスター”はそう言いながら俺に笑いかけてくる。
…あーあ。なんでだろう。なんで───

『だから、バカって言うなよ…!』
『にしし…いーや、お前はバカさ』

───なんで…こいつはこんなに良いやつなんだろう?
お互いに笑っているのに、俺の目から涙が流れた。それを見て“オムスター”がまた俺をからかう。でも、今は不快には思わない。そして、俺は決心した。

『俺、決めたよ』

俺は流れた涙を拭って、濡れた羽を乾かすために一度翼を大きく広げた。

『悪ぃけどよ。俺の欲のために頼むわ。ダチ公』
『おうよ。ダチ公』

決行は明後日の夜。自分の欲を叶えるために、俺はあいつとの約束を果たす。まぁ、ご主人には怒られることになるとは思うが…背にはらは変えられないだろう。
期待を抱きながら、俺はいつものように空を見上げた。




〜2〜

そして、時は過ぎて明後日の夜。今日はフレイムとの約束の日だ。作戦は“オムスター”が『オイラに任せろ!』って言うから、任せていたのだが…正直心配で仕方ない。
作戦担当の“オムスター”を待って、数分してからやって来た。

『わりぃわりぃ!遅くなっちまったな!』
『さてダチ公…ついにこの日来たが、作戦とか決めてんのか?』
『作戦は…ねぇ!』
『お前の顔面に“竜の息吹”ぶちこんで良いか?』

流石に怒りが押さえられなかった俺は、“オムスター”に向かって“竜の息吹”をぶつけるために力をためる。
流石にヤバイと思ったのか、“オムスター”は慌てて止めに入った。

『まぁまぁ落ち着けって!作戦なんかなくても、ここから出る方法は簡単だろ!』
『じゃあ、作戦は任せろとか言うなよ!どうせ壁をぶち壊して終わりだ!とかそんなもんだろ!?』
『貴様……なぜ分かった!?』

もうこいつには呆れてものも言えない。こんなのが俺のダチ公か…先が思いやられるのはどうしてだろう。
ため息をついた俺に、“オムスター”はニヤニヤと笑う。

『なーんてな。それだけじゃないわけないだろ?』
『他に何すんだよ』
『ここの連中が来るのを遅らせるために、俺がドアの回路を破壊する。そしたら、お前が壁をぶち壊して終わりさ。どうよ、この俺様の灰色の脳細胞が考えた天才的な作戦!』

灰色の脳細胞はどうでも良いとして、珍しくこいつにしては頭を使ったな。まぁ、それ以上の最悪の出来事を回避する方法は、灰色の脳細胞でも思い付かなかった…と言うことだな。
俺はその作戦に乗って、お互いの位置についた。これぐらいの壁なら“ドラゴンクロー”で一発だ。

『さぁ行くぜ!良いか?ダチ公』
『あぁ。いつでも来いよ!』

俺がそう言うと、“オムスター”はドアの回路に向かって水を放つ。電子機器に水は禁物と言うほどだ。少し放電しながら小さな爆発を起こした。それに反応してか、研究所内でアラームが鳴り響く。
それを見て、俺は速攻で“ドラゴンクロー”を壁に放ち、壁はいとも簡単に崩れた。そして翼を大きく広げて夜空に飛び立つ。今日は月も出ていて、周りが見えて助かった。

「博士、大変です!“アーケオス”が脱走しました!」
「なっ…!とりあえず他のポケモン達を落ち着かせて!私は“アーケオス”を探しにいってくるわ!」
「はい!お気をつけて!」

開かなくなったドアの向こうから、人間達のそんな声が聞こえる。“オムスター”は、夜空に小さくなって消えていくダチ公の姿を見ながら、少しだけ羨ましく思った。

『頑張れよ…ダチ公』

ダチ公のそんな声も届くことはなく、俺は約束の浜辺に向かって迷い無く進んだ。フレイムはもういるだろうか?待っているだろうか?もし待っているなら、急がないと…例え先に着いたとしても、俺が待てば良いだけだ。根拠はないが、なんとなくあいつはもういる気がする。浜辺で俺を待っている気がする。色々と待ち遠しくて、空を見上げている気がする。
俺はあっという間にあの浜辺について、浜辺に降り立つが、フレイムの姿はどこにもなかった。…杞憂だったのだろうか?でも、そんなことはないはずなのに。浜辺は広い、少し歩いて探してみよう。俺はふと、月が照らす海を見た。

『綺麗だ…』

夜の海はこうも幻想的で美しいのか…昼間も悪くはないが、夜の方が俺は好きだ。光が海に反射して、月が鏡のようにうつる。空にあるはずの星は、月の光に打ち消されて、ほとんど見えなかった。
砂浜を歩いていると、向こうにオレンジ色のポケモンが月と海を見ているのが見えた。俺はムードを壊さないように、静かに近づいた。

『あ…』
『よ。フレイム』
『アー君!』

俺に気づいて、フレイムは俺に駆け寄ってくる。フレイムの顔は一昨日と変わらず明るい。月の光のお蔭でよりいっそうはっきり見える。

『来てくれたんだ!』
『約束したからな』
『うん!ありがとう。約束…覚えててくれて』

フレイムは相変わらず明るかったが、なんだか少し悲しそうに見えた。よく見たら、うっすらと目に光るものが見えた。これはふれて良いものだろうか?一歩間違えば、デリカシーのないやつだと思われるだろう。

『花火は…もうすぐ始まるのか?』
『うん。もうすぐだよ』
『そうか…』

なんとも言えない沈黙が、俺達を包んだ。耐えられないわけではないが、なにか話した方が良いのでないのだろうかと、気になって仕方ない。でも、何を話せば良いのだろ?
すると、フレイムが海に向かって砂浜に座ると、静かに話し出した。

『あのねアー君…私ね、アー君の事少し疑っちゃった』

ど言うことだろう?フレイムの隣に座って、俺は優しく話しかけた。

『ど言うことだ?』
『アー君、研究所のポケモンだって言ってたでしょ?だから、もしかしたら研究所から出てこれないんじゃないかって、帰ってから気づいちゃって…』

こいつもこいつで、気にしていたのか…。でも、帰った後なら俺にその事を伝えるのも至難の技だろう。

『それでね。私、ここで一人で待ってたら、どんどん不安になってきちゃって……怖くなっちゃって…』

フレイムの目には涙が今にも溢れそうなぐらいたまっていた。きっと少しでも動けば目から流れていくだろう。月の光でよりいっそう光っている。しかし、フレイムはその涙を拭って、また笑顔を向けた。

『でもね!アー君が来てくれて私すっごく嬉しかったんだ。アー君本当に優しいポケモンよね』
『俺が優しいって何で分かるんだよ。俺はただ、花火が見たかっただけだし』

俺がそう距離を放すとように言うと、フレイムは距離を近づけるように笑顔で話す。

『でも理由はどうあれ、ここに来てくれたじゃん。だから、アー君は優しいポケモンだよ。初めてあった私との約束守ってくれてありがとう!』
『…当たり前だろ、そんなこと』
『え?』
俺達友達なんだし…俺がそうしたいから、そうしてるだけだし…その…

俺がそう言うのと同時に、夜空に花火が打ち上がり始めた。月と共に夜空を明るく照らす花火は、一つ一つは儚く消えても、俺には永遠のように感じた。

『綺麗でしょ?花火』
『あぁ。綺麗だな。これは…思い出に残るはずだ』

ため息が出るぐらい綺麗だ。確かに、これは自慢もしたくなる。目を離したくなかったが、フレイムをチラリと横目で見た。フレイムも花火を見るのに夢中になっている。その目には、もう花火以外は写ってなかった。

『なぁ』
『なに?』
『もっと近くで見て見ないか?』
『え?』

俺はフレイムを半強制的に背中にのせて、花火が輝く空に向かって飛び立った。空で目の前に広がる花火も、これまた良いもんだ。

『すごい…!すっごく…綺麗』

フレイムが嬉しそうにそう言った。俺はただその言葉を聞きながら、少しだけ思いに馳せる。

『ありがとうな』
『アー君…?』
『花火…見るのを誘ってくれて』

うん。とフレイムが言い、俺達は花火が終わるまでずっと静かに見続けた。儚くても、心に残る夏夜の華。色も、大きさも、形も全てが1つとして同じものはない。

『あ…ねぇアー君。花火始まる前に何か言ってたよね?小さくて聞こえなかったんだけど…なに言ってたの?』
『え!?あ、いや…別に大したことじゃないさ…!』
『そうなの?変なアー君』

今更さっきの事を掘り起こすのは、流石に恥ずかしい。友達…な。こいつとも本当の友達になれるんだろうか?いつか、“オムスター”の事も紹介したいし…もっと、いろんな事を知りたい。俺の事も…知ってほしい。って、俺何考えてんだ!?俺の事も知ってほしいって…はぁ!?

『アー君!』
『今度はなんだ?』
『また、来年も一緒に見てくれる?』

フレイムがそう言ったのを聞いて、俺は思わず後ろを振り向いた。フレイムと目が合って、フレイムは優しく俺に微笑んだ。目には花火が綺麗に写っていて、思わずドキッとした。俺はフレイムの目を見ながら、自然と答えていた。

『あぁ。そうだな』

この2匹が恋に落ちるのは、もう少しあとのお話。
夏夜の華が、2匹の行く末を照らすように華を咲き誇った。

〜夏夜の華を君に〜完
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■筆者メッセージ
文字数:8666文字

いつも冒険系を書いているので、少しだけこう言う恋愛に憧れていました。書こうと思っても、中々上手くいかずに泣いてる日々ですがね…。まぁ、そんなのは良いとして、本当はもう少し甘くしたかったんですが、主人公の意識しはじめで止めました。この続きは…またいずれどこかで。
星夜 ( 2016/12/20(火) 20:27 )