番外編!鏡の中の勇者たち(中編4)
〜1〜
なんとか敵を退けた僕達は、これからのことを話していた。
それにしても…ミラフェルが敵だったのはビックリしたな…しかもメチャクチャ強いし…。
「これから…どうする?」
「どうするもこうするも…帰るのが先決でしょ?」
「じゃあ王都に行くの?」
ミラアヤが心配そうな顔で言った。
いつ見ても…僕の知ってるアヤのようでアヤでない、そんな違和感がずっと漂ってた。ふとした瞬間に見ると、まるでアヤの本心を除いてるかのような錯覚に陥る。
まぁ、そんなことは無いのだろうけど。
「だからこれに乗ったんでしょ?」
何の音もなく僕たちを運ぶそれは、真っ直ぐ目的の地に向かっていた。
僕たちのいる部屋を見る限り、木箱が積んであるから、倉庫か物置だろう。
「でもこれ…不法侵入なんじゃ」
「このまま帝都に着けば、不法侵入と不法入国の両方の罪に問われるでしょうね」
「うぅ…」
ミラランドの冷静な分析に、ミラアヤが肩を落とす。ついでに耳も垂れ下がった。
何も知らずに、帝都行きだと聞いて乗ったのは良いけれど…この乗り物?は何なんだろう。
「所で、僕達が乗ってるこれって?」
「F20-5wmj69。古いタイプではありますが、帝都でよく使われる荷物運搬用の貨物機ですね」
「一応…空飛んでる?」
「えぇ。高度20000メートルまでは上昇可能ですから、それぐらいは飛んでるのではないかと」
所謂、人間の世界で言うジャンボ機の更に巨大版みたいなやつだ。動力源は魔力だと思う。ここに来て、いきなりガソリンって言う単語は出てこないと思うしね。
「で…不法侵入と不法入国の罪を被りたくないのに、なんであんたたちが乗ってるのよ」
アヤの嫌味に聞こえるような発言が、奥にいるポケモンたちに突き刺さった。と言うか…わざと嫌味に言ったんだろう。
「しゃーねぇだろ。アヤが行くって言うから」
「だ、だって!リラアヤさんたち、まだこの世界のことまだ知らないところあるだろうし…それに、助けてもらったのにまだ恩返ししてないから」
優しくて純粋な女の子の発言だ。アヤがふてくされるような顔で、ミラアヤの方を見る。
「別に、恩返しなんてそんなことしなくていいから」
「で、でも!困ってるポケモンは放っておけないよ!」
「別に困ってもない」
「あう…そうだけど」
アヤがミラアヤを突き放すように、冷たく言っている。
僕には分かってる。こう言うとき、アヤはわざと自分から相手を突き放す。傷つけたくないと言う、優しい心の裏返しだ。
そんなアヤを見て、セクトがクスクスと笑っている。
「ちょっとセクト!何笑ってるの!?」
「フフ…別に?ただ、アヤが素直になれないのが可愛かっただけだよ」
「なっ!べ、別に…素直になれない訳じゃ…!」
「はいはい。分かってるって」
もう!と言ってアヤが完全にそっぽ向いた。
僕達とミラケルマ達が合わさって、大体戦力的には2倍。この世界のことをよく知ってるミラケルマ達がいるかいないかで、戦うときもかなり変わるだろう。
「協力してくれてありがとう。君達がいれば、こっちとしてもかなり有利になると思う」
「だぁーかぁーらぁー!俺は、別に好きで協力してるんじゃねぇってーの!俺には俺の目的があんだよ。お前らと一緒に行くのはその次いでた!」
「それでも全然良いよ!ありがとう」
チッ!とミラケルマは軽く舌打ちをして、顔を背けた。こっちもこっちで素直になれないタイプみたいだ。
「俺が…もしお前らを裏切っても、恨みっこなしだぜ?」
「え…?なんか言った?」
別にー!と言って、ミラケルマはそれから何も言わなくなった。
それからどれだけ経ったろう?お互いにコミュニケーションを取ろうとしているのか、みんな話していたが、僕にはもうそんな気力がなくて…自分から話すこともなかった。(話しかけられもしなかったけど…。)
この部屋には唯一1つだけ小窓があった。窓が開くことはない。完全はめ殺しだ。
その窓の向こうは、なんだか何処と無く濡れていて…その時僕は外で雨が降っているのに気がついた。
「雨だ…」
その声が聞こえたのか、ランドも窓の方をみる。
「あーあ。濡れるのやだなぁ」
「女かお前は。私は別に気にしないけど」
「お前は女の欠片もないな」
「うっさい!」
あぁ…またいつものケンカが始まった。そう思うと、僕たちはどこにいても常にこんな調子だ。そりゃ、帰りたいし焦ってもいる。でも、何て言うか…根本的なものは何一つ変わらないんだろう。
すると、ガシャン!と言う音と、縦に揺れる大きな振動が起こった。
「どうやら、着いたみたいですな」
優しいお爺さんのミラレヴェンテがそういった。お爺さんって言っても、大体40代後半ぐらいだ。喋り口調や雰囲気がそう感じさせるんだろう。
お爺さんって言うより、おじさんの方がいいかな?
「よし!じゃあさっさとお城に入って、鏡をゲットしよ!」
「そうだね。じゃあ…行こう!」
誰もいなくなった貨物船から外に出ると、ザーザーとまではいかない雨が降っていた。
火は水に弱い。これだけ湿気っていたら炎が出るかもわからないな。
「ほら!あれがお城だよ?」
ミラアヤが指した方向を見ると、そこにはなんとも言えない複雑な構造をしたお城が建っていた。部屋がつき出していたり、外階段がいくつもあったり、家?みたいなのがいくつもあったり…とにかく、僕たちの常識には当てはめていけない…そんな建物。
「うわぁ…私の実家よりよりおっきいかも」
「まぁ、僕たちの世界の物と比べるべきじゃないと思うけどね」
「リラアヤさんのお家は豪邸なの?」
そう言えば、僕たちのことはあんまり話してなかったかも。アヤ自身が、自分が王女であることを喋りたくないみたいだし、その辺に関しては触らないようにしていた。
「まぁね…一応オヒメサマ、だし。ガラじゃないけど」
「はぁ!?お前王女だったのかよ!」
アヤが棒読みでオヒメサマと言ったのは、お姫さまである自分が嫌いだからだ。だから剣を持ち、その剣を振るい続ける。か弱いお姫さまで居たくないから。
ミラケルマが言った一言は、アヤの怒りを呼び覚ますことになる。
「なに?私がお姫さまで何か悪いことでも?」
「あ…いや、何も…ないです」
アヤのものすごい気迫が、ミラケルマをタジタジにする。きっと普段は使ってないだろう敬語も使うほどだ。
「ほら!そんなのどーでもいいから、とりあえず入るところから始めよ?」
「そうですね。まだ王都にも入っていませんし…」
ミラランドが言った一言に、僕らは同時に反応した。フェルが僕たちの代わりに代弁してくれる。
「ここが王都じゃないってどう言うこと?」
「そもそも、僕たちの目の前にあるものその物が王都なんです」
「え…?」
僕は一瞬思考が停止した。僕たちの世界では、街が周りにあって、その奥か中心にお城がある。よくある典型的なパターンのお城だ。
でも、この世界でのお城は…お城と街が合体したようなそんな感じなんだろう。
「あれは、下部分が王都、その上がお城です。緊急時の時に王都ごと避難できるようになっているんです」
「もはや、俺達の想像を斜め右上を通過してるな」
レヴェンテがそう呟いたのを、アヤとランドが頷いた。魔法は大抵なんでもありだし、これだけの魔力があれは街ごと移動するもの造作も無いんだろう。
「スゴすぎ…」
「さて、関心するものよいですが、そろそろ行きますかね」
「……待て」
ミラセクトが重い口を開いた。
あんまり話す方じゃないミラセクトが話したと言うことは、かなり重要なことなんだろう。
「どうしたの?」
「…誰か来る」
僕たちの真っ正面。王都の方から2匹のポケモンがやって来る。1匹は傘をさし、もう一匹は雨にも動じずそのまま歩いてくる。
「あら…結構男前なのが揃ってるじゃない」
「……」
僕たちに近づいてきたのは、“ルカリオ”と“コジョンド”と言うポケモンだった。“ルカリオ”の右目には大きなバッテン傷がついていて、“コジョンド”がしているメイクはかなりケバい。
「誰…?」
「私はリュミエール王国零の四騎士。“妖天のビレス”」
「……“鋼天のガオン”」
零の四騎士…て言うことは、ミラフェルの仲間って言うことか。
「あなた達ね。異世界から来たのは」
「だったら?」
「そうね…倒すって言うのが妥当なんじゃないかしら」
そう言って、ガオンとビレスから殺気が発せられた。それを感じ取って、僕らは水晶と剣を同時に構える。
そして、僕たちの1番前に、出たのは4匹のポケモンだった。
「あら。貴方達が私達の相手をしてくれるの?」
「ランド…レヴェンテ」
ランドとレヴェンテ、もちろんミラランドとミラレヴェンテも、僕らの壁になるように前に立つ。
「ケルマ、先に行け。この雨じゃ火の魔法も役に立たねぇからな」
「俺達も後で合流する。ここは、俺達に任せろ」
そう言って、ランドとレヴェンテはもういつでも戦える状態になっていた。
「僕達もお供いたします。それこそ、地獄の底まで…ね」
「セクト。アヤとケルマを任せましたよ」
「……分かった」
ミラランドとミラレヴェンテも戦う体勢になっている。って、ミラランドがなんか恐ろしいことを言ってるんだけど。
「地獄の底か…おもしれぇ!とことん付き合ってやるよ!ほら!お前らもボケってしてねぇでさっさと行け!」
「もう…相変わらず勝手なんだから。行こ」
アヤがそう言って、王都に向かって駆け出す。それに続くように、僕達もアヤの背中を追いかけた。
僕はふと後ろを見る。そこには、緊迫した状態の味方と敵の姿があった。
「ケルマー!おいてくよ!?」
「今行く!」
アヤにそう返事をして、僕は押し殺せない不安を抱きながら、王都に向かった。
〜2〜
ランド達の間には、なんとも言えない緊迫感があった。
どちらかが動けばまず負ける。そう言ってるようにも聞こえる。雨は5匹の身体と傘を濡らし、少しだけ強くなった。
誰もそこから微動だにしない状況が、しばらく続いたが、誰かが水溜まりを駆ける音を境に、ランドとガオンが同時に動く。
「“剛来波”!」
「“
氷の泉”!!!」
波動と氷がぶつかり合い、どちらも相殺する。
ランドはミラランドに視線を送りながら、レヴェンテと距離を取るために左側に向かって走った。
「……乱闘を避けるか」
そう呟いて、ガオンもランドの後を追う。ミラランドもランドの背中を追った。
「なるほど…貴方達が私の相手をしてくれるのね?」
「結果的にそうなりましたな」
ビレスはレヴェンテとミラレヴェンテを見て、少しだけ笑った。その笑顔は妖美で大人の色気をかもし出している。
「ふぅ〜ん。ま、悪くないわね。貴方達みたいなポケモンで結構タイプよ?」
「悪いが、俺にはそんな趣味はない。さっさと終わらさせてもらうぞ」
そう言って、レヴェンテは一気に決めようと大空に飛び立つ。
ミラレヴェンテとビレスは、レヴェンテの後を目で追っていた。
「光をも飲み込む闇よ!すべてを飲みこみ、永久の闇に変えよ!“
奈落の影球”!!」
レヴェンテの魔法がビレスに真っ直ぐ向かっていく。魔法は全く微動だにしないビレスに当たり、小さな爆発が起きる。
だが、次に目にしたのは、何事もなかったかのように立っていたビレスの姿だった。
「なっ…!」
「もう…そんなに焦らないの。もっと楽しみましょう?…ねぇ?」
ただただ妖美に怪しく笑うビレスに、レヴェンテは苦笑いするしかなかった。
あれでも、けして手を抜いた訳ではなかったが、それを受け止めたとなれば、かなりの強敵になるのは目に見える。
ミラレヴェンテは、レヴェンテとビレスの状況を静かに見守っていた。
雨が止む頃、この戦いの終わりが見える。