番外編!鏡の中の勇者たち(中編2)
〜*〜
僕たちが、なんでこの世界に連れてこられたのか…その意味がまだよくわかっていなかった。でも、なんとなく、なんとなくだけど…僕は最初から分かってる気がしてたんだ。この出会いは、偶然ではなく、必然であることを。
「ハァァァァ!!!」
「おっと!全く…物騒だなぁ。女の子がそんなもの振り回してたらモテないよ?」
「うっさいわね!!あんたに関係ないでしょそんなこと!」
「あっ?図星?」
その一言がアヤの怒りに更に火をつけることになる。アヤの悪いところは、自分の怒りで歯止めが効かなくなり、相手の懐まで突っ込んでいってしまうところだ。そこを相手に思いっきり叩かれる。
「そこ!がら空きだよ!」
「っ!」
正直に言えば、アヤよりも数段に強い。こんなのかあと2匹残っているのか。
アヤは、瓦礫が大量に折り重なっている床を転がる。背中を強打しながらもアヤは勢いをつけて起き上がった。
「はぁ…はぁ…」
「あれ?もう息上がってる?なんか、僕を倒すとか言っときながらさ。これじゃあ拍子抜けだよね〜」
「はぁ…うっさい…!あんたは…私が絶対倒す!」
「ふ〜ん。じゃあやってみれば?まぁ…無理だと思うけど!」
アヤは無防備な状態でゼヘルに向かっていく。僕もアヤをサポートするために、近づく。
「ケルマ!来ないで!」
「え!?」
「ごめん。私…こいつは一人で倒したいの。だから、手出さないでね!」
「む、無茶だよそんなの!」
僕がそう言っても、アヤは真っ直ぐ向かっていく。アヤは元々、絶対諦めないタイプだけれど、これは流石に無理だよ…!
そんな中、ミラケルマたちを避難させるために、少しだけ別行動をとっていたセクトが戻ってきた。
「ケルマ!」
「セクト!」
「こっちは避難完了だよ!さっ!早く!」
ちなみに、レヴェンテの役割はただ避難させるだけじゃなくて、もう1つある。ある意味、逃げるためには必要なものなんだけど、それはもう少ししたら分かるから、言わないでおくね。
「アヤ!ランド!フェル!準備オッケーだよ!」
「えー!?なんか早くない!?」
「文句言ってねぇで行くぞ!」
アヤとランドはすぐに裏口に向かう。フェルも武器をしまってこっちに向かおうとするが、ミラフェルに邪魔をされる。
「行かせない!」
「フェル!」
「セクト!私のことは良いからそのまま作戦実行して!」
「…了解!」
フェルはミラフェルの相手をする。絶妙な槍さばきを見せるミラフェルに対して、フェルは落ち着いて対処する。こう言うときに慌てるほうが危険だと言うことを、きちんと理解しているからこその対応だ。
「おーっと!?僕がやすやす見過ごすと思う!?」
「あんたの相手は今度やってやるわよ!其まで首を洗って待ってなさい!」
アヤがそんな捨て台詞をはきながら、ランドに抱えられて裏口から出ていく。実はもたもたしていたせいで、ランドに抱えられてしまった。もちろん、お姫様だっこではなく肩に担がれて…。
フェルのことは心配だけれど、なんとかなると信じて僕らは酒場を後にする。そのまま真っ直ぐに近くの丘まで走った。
「レヴェンテ!」
「永遠の闇よ!全ての希望をのみこみ、絶望の対価へと変えろ!“
暗黒の重力場”!!」
レヴェンテの魔法が屋根の上から降り注ぐ。黒い丸い球は屋根に当たった瞬間に爆発し、酒場を完全に破壊した。酒場には、もはや面影など1つもない。ただの瓦礫の山だ。
「…フェル」
「フェルなら大丈夫。ああ見えて、フェル不死身だから」
セクトはそう言うが、いくらフェルでも本当に不死身な訳じゃない。幾度の危機も回避してきたフェルだが、今回ばかりはとすごく心配になる。もちろん、フェルを信じてない訳じゃないけれど、心配にはなるもんだ。…もしかしたら、かなりお節介なのかもしれないけれど。
すると、瓦礫の山から黄色い何かが出てきた。丸い球体で中には“ピカチュウ”がいる。“ピカチュウ”の首には紫色の水晶が光輝いている。
「フェル…!」
「ほらね?フェルって不死身なんだから!」
なぜかセクトが自信満々にそういった。フェルはこちらに向かってあるって来る。良かった…無事で。
「フェル!大丈夫!?」
「ギリギリバリアが間に合ったから大丈夫よ」
「そっか…良かった」
「さっ!今こそ私の出番だね!バトルメンバーのみなさん?治療するからこっちに来てー!」
セクトがみんなの治療にあっている中、僕はミラケルマたちの近くに行った。特に気になる傷はないし、大丈夫だと思ったからね。
「ったく。堂々と破壊しやがって。俺たちの溜まり場をどうしてくれんだよ」
「ご、ごめん…」
「チッ!あー!そう言うのほんとムカつく!」
ミラケルマは舌打ちをしながらそう言って、僕の元を離れた。な、なんか…悪いことしたかな?
僕はそんな風に不安にかられていると、ミラアヤが気づいたのか、僕の元によってきてくれた。
「ごめんね。ケルマ…本当はすっごく良いポケモンなんだけど」
「あ。いいよ。気にしてないから」
「多分…下手に謝ったりしないほうが良いと思うな。ケルマ、そう言うの嫌いなんだ」
「え?それってどういうこと?」
「そのうち分かるよ」
それだけ言ってミラアヤは、セクトと一緒にみんなの治療のサポートに入った。この中での一番の重傷者はアヤだ。背中を強打して、肋骨を折っていたがアヤはセクトの治療を必死に回避しようとしている。
「良いって!別にそんな痛くないし!」
「ダーメ!肋骨でも骨を折ってるんだよ!?十分重症です!ほら!背中こっちに向ける!」
「ヤダ!こんなの日常茶飯事だし、別に大丈夫だもん!」
肋骨を折るのが日常茶飯事って…それもどうかと思うけれどね。アヤは、ミラアヤたちに押さえつけられながら、セクトの治療を受ける。
実質、本当はすごく痛いはずだ。それでも平気なふりをするのは、みんなに心配をかけたくないと思うアヤの気持ちがあるからだ。
「はいっ!治療完了!」
「…別に良かったのに。セクトの魔力を無駄に消費させたくなかったし」
「何言ってるの。みんなに元気になってもらうのが私の役目だもん。その役目を果たせて、無駄だとは思ってないよ?私は、アヤにも無理しないで元気でいて欲しいの」
セクトがそう言うと、アヤはもう何も言わずに顔を地面に伏せた。照れ隠しなんだろう。そう言われなれてないから、どうしたら良いか、なんて返したらいいか分からないのだ。
「えっと…その……あ、ありがとう」
「フフッ。どういたしまして」
なんでもないいつものことだけれど、なんだか特別なことに感じるのはどうしてたろう?今いるのが、僕らの世界じゃないからだろうか?空に浮かぶ浮島が、妙に見慣れ始めてきた頃。僕らは…どこに向かうんだろう?