番外編!鏡の中の勇者たち(中編1)
〜*〜
僕らは、柄の悪い僕たちがいつも集まっている場所にやって来た。その場所の看板には、『オーシャンピエロバー』大海のピエロの酒場と言う変な名前が書いてある。見た目は、木でできた木造の2階だけのお店。名前の通り、酒場だと思われる。
「さ、行こうぜ」
柄の悪い僕がそう言った。…なんだか呼びづらい。他になんか…呼び方ないかな?流石に、柄の悪い僕じゃ可哀想になってきたよ。
とにかく僕らは酒場の中に入った。中はそんなに広くない。丸い木のテーブルが5個あってイスは3つずつ、あとカウンターにその奥の戸棚にはお酒のビンが沢山置かれていた。
「よう。遅くなって悪かったな」
そこにいたのは、物腰柔らかそうな年老いた“ボーマンダ”に、目付きがかなりきつい“フライゴン”。…もしかして、レヴェンテとセクトかな?
「大丈夫ですよ。私達も今来たところですから。それで、そちらの方々は?」
優しそうに微笑みながら、レヴェンテと思われる“ボーマンダ”はそう言った。まさか、年齢も違ってくるとは思ってなかった。どう見ても、こっちのレヴェンテの方が年下だ。
「あー。なんて説明したらいいんだ?」
「僕が話すよ。あの…初めまして。僕はケルマです。あと、こっちがアヤで、ランド、フェルに、レヴェンテ、セクト。僕たち、この世界とは別の世界から来てしまったみたいなんです」
僕は改めてみんなに起こったことを話した。出来るだけ詳しく。これで信じてくれるかは、分からないけどね。
言いたいことをすべて言い終えて、誰かが切り出してくれるのを少しだけ待った。
「なるほど…それでこちらに。セクト殿はどう思われますかな?」
「……嘘ではないと思う」
「カンか?」
「……カンだ」
こっちのセクトはスッゴク無口みたいだ。というか、何より驚いたのは、声の低さ。多分、と言うより絶対男だ。うん。間違いない。
世界が違うだけで、性格に年齢、性別までもが変わるのか…。
「でも、セクトのカンってけっこう当たるし…大丈夫じゃないかな?」
「ま、良いけどよ。あんたらが悪い奴じゃないってーのは分かった」
「ありがとう。で…早速なんだけど、この世界について、色々教えてほしいな」
「あの空に浮いてる島のとことか特に!」
やっぱりアヤは身を乗り出して目を輝かせながら言った。そんなに興味があるのかな?
「珍しいね。アヤが武器以外に興味を持つなんて」
「うん?いやさ。あの浮島で、どんな鉱石がとれるのかなって!」
前言撤回。やっぱりアヤは武器のことにしか興味がなかったようだ。鉱石といっても、剣を鍛えるためのものだ。硬ければ硬いほど良いのだろう。それも、出来ればダイヤモンド級のもの。
「この世界は、主にこの世界に住むポケモン達は、この世界のことをミラーストと呼んでいます。そちらの世界がどうかは分かりませんが、ミラーストでは、魔力そのものが実態として存在しています」
真面目ランドがそう言った。この世界はミラースト。やっぱり、僕たちの世界とは話が違うようだ。
「実態…例えば?」
「あなた方が目にしたあの浮島。あれがその通りです。あれは、魔力の結晶そのもの。長い年月によって魔力が蓄積し、その魔力を元にして宙に浮いているんです」
「へぇ。こっちは魔法の方が発展してるのかな?」
「余るほどの魔力が膨大にありますからね」
あの浮島は魔力が結晶化したものなんだ。…と言うことは、あそこにアヤが求める鉱石は存在しないと言うことになる。
「あっ!いいこと思い付いた!」
「なにが?」
「名前だよ!ほら、やっぱり呼びづらいじゃん?だーかーらー!」
アヤがイスから勢いよく飛び降りる。
「名前の前に“ミラ”ってつけるのはどう?」
「ミラケルマ、ミラアヤ、ミラランド、ミラレヴェンテ、ミラセクト?」
「そーゆこと!」
「ネーミングセンス無さすぎじゃないか?」
柄の悪い僕。アヤのを使うとミラケルマは、頬杖をつきながらそう言った。なんだか、ランドに似てる気がする。
「ミラケルマの癖に生意気ー!」
「悪かったな!」
「じゃあけってーい!」
アヤはこの世界に来てからなんだかすっごく楽しそうだ。その点と言ってはなんだが、ランドは酒の方に夢中になっている。
多分話は聞いてると思うけど…お酒の飲み比べをしながら、アヤの方をボーッと見てる。
「私たちはどう呼んだら良いの?」
「あ…うーん。ど、どうしようか?」
確かに…片方が決まっても、もう片方が決まらないと呼びづらいよね。うーん。どうしようか?
「てきとーに名前の前に“リラ”ってつけるのは?」
「いい加減だな〜」
「でも、良いと思う!それでしよ?ね?」
これで、名前の問題は解消されたね。
すると、セクトは周りをキョロキョロと見渡しながら質問した。
「…そう言えば、ミラフェルってどこにいるの?」
「あれ?そう言えば…見てないね」
「……」
フェルはふと窓から外を覗く。何かあるんだろうか?僕が、ミラアヤの方を見ると、少しだけ震えてる気がした。他のみんなの顔も強ばっている。
「なに?なんかあるの?」
「…この世界にある。もうひとつの鏡がどこにあるのか、知りたくはありませんか?」
…?話をそらした?ミラランドが言ったその一言は、その話はしたくないと言ってるかのように冷たいものだった。
「そりゃあ、元の世界に帰れるなら知りたいけど…」
「その鏡を持っているのがフェルさんなんです」
「え!?」
ミラフェルが…この世界の鏡を持ってる!?どう言うことなんだろう?そもそも、ミラフェルは、味方なの?それとも…。
「いや。実際は、フェルさんが騎士として守っている城の中にある…といった方がよろしいでしょうか?」
「じゃあ…そのお城に行って探せばどっかにあるんだね!」
「行ったって無駄さ」
ミラケルマが、つまらなさそうにそう言った。いや、諦めている…そんな風な感じの声色だった。
「フェルには誰にも勝てねぇよ」
「やってもないのに、よくそんなこと言えるわね」
「やらなくたって分かるさ。フェルは、俺達の上の上を行ってる。勝機なんてどこにもない。ま、そう言うこった。お前らも諦めるこったな」
ミラケルマはそう言ったきり黙ってしまった。本当にもうこの世界から戻れないの?いくら強いからったって、僕らはここで止まるわけには行かないのに。
「諦めろって言われて、諦める奴がここにはいねぇよ」
お酒を飲みながら、ランドがはっきりそう言った。多分、みんなそうだと思う。諦めきれない。今諦めたら、僕らの世界がなくなってしまう。それだけは阻止しないと。
「そうねー。諦めが悪いのは、私達の良いところかも」
「ある意味でね…」
「僕らは、絶対元の世界に戻らないといけないんだ。その為なら、どんなに強い相手でも絶対負けない!」
「……口ではいくらでも言えるさ」
「ケルマ!ダメだよ。そんなこと言っちゃ!」
本当に諦めモードのミラケルマは、ふてくされたのか顔を背けた。…なんか、悪いことしちゃった。
そんな中、フェルは相変わらず窓の外を睨み付けていた。
「……来る」
「何が?」
「みんな伏せて!」
フェルがそう言った瞬間に、僕らは床に伏せた。2階が大破損し、瓦礫が上から僕らの上に降ってくる。頭をしっかり守って、なんとか僕は生き残れた。顔を出すと、みんなも出てきていた。よかった。みんな無事みたいだ。
「ふわぁ!び、びっくりしたぁ!」
「なんだ。全員生きてるじゃないか」
瓦礫から這い上がって上を見上げる。すると、上では“リザードン”とその背中に乗っている“ピカチュウ”がいた。“ピカチュウ”の手には赤くて長い槍が握られている。
「あっちゃー。もう少し威力強めた方が良かったですかね?」
「…まぁいい。自分の手で始末するだけだ」
なんだろう?あの“ピカチュウ”。口調も性格も違うけど、ものすごく似てる。顔も、それに体から漂う雰囲気も、僕にはすぐ分かった。
「うわぁ。最悪の展開だ」
「ま、まさか…!」
「あぁ。間違いねぇ。あれが、リュミエール王国零の四騎士“零天のフェル”だ!」
「ちょっとー!僕のこと忘れてないー!?“零炎のゼヘル”だよ!?」
「ゼヘル…少し黙れ」
「あ、はーい」
ミラフェルは、僕らを見下ろす。その目はとにかく冷たく、張り詰めたものだった。もちろん、フェルはそれにたいして睨み付けている。
ゼヘルと呼ばれた“リザードン”はゆっくり降下してきて、ミラフェルは、音もなく地面に着地した。
「お前たちが、異世界から来たポケモンか」
「だとしたら?」
「…殺す」
そう言って、ミラフェルは手に持つ赤い槍をかまえる。まるで血で染まったかのように鮮血の色をした真っ赤な槍だ。それを見て、フェルも腰の剣に手をやり、水晶を手に取った。
ほんの少しの短い時間がものすごく長く感じた。息をするのも苦しい。二人は多分同時に動いた。キン!っと甲高い音が耳に残る。剣と槍のぶつかった波動で、二人のフェルは後ろに引いた。
「なるほど。お前が異世界の私か」
「そうね。そう言うことになるのかしら」
「面白い…!異世界の私がどれ程の物か…私に見せてみろ!」
「来い!」
二人のフェルはお互いの力を確かめるようにぶつかり合う。長い槍を自由自在に操るミラフェルもすごいが、それに柔軟についていくフェルももちろんすごい。
「フェル対フェル…!?スッゴい!何この勝負!私見てたい!」
アヤは興奮した様子で、フェル対フェルの対決を観戦している。確かに、この勝負の行方は僕も知りたいけど…それより、あのゼヘルって言うポケモンも気になる。
僕がゼヘルの方を見ると、ゼヘルも僕の方を見て、ニコッと笑った。
「お楽しみのところちょーっと悪いんだけど〜。僕もそろそろ、殺らせてもらうからね?」
笑顔から発せられる殺気が、僕の水晶をかまえるのを躊躇わさせなかった。ランドも知らない間に僕の横に来ていて、その手には水晶が握られている。
「全てを焼き尽くす烈火の焔よ。今こそ我の前に姿を表せ!“炎舞迅”!」
「炎の魔法!?」
「絶氷の氷よ。我を守る楯となれ!“
氷の楯”!」
ゼヘルの魔法を、ランドが防ぐ。氷と炎ほど相性の悪いものは無いが、それでもなんとか防ぎきった。ても、水晶も持ってないのに、なんで魔法が使えたんだろう?
「へぇ。魔法が使えるんだ。ちょっと見くびってたかも」
「あいつ。水晶持ってねぇよな。なんで魔法が…」
「こっちの世界では魔力が溢れ返ってるんだよ?膨大な魔力があるのに使わない訳にはいかないでしょ?もちろん、すごい努力が必要だけどねー」
魔力が溢れているこの世界では、魔法は身近なもので、特有の魔力を持つポケモンは少なくないと言う。ただ、その特有の魔力を引き出すには、絶え間ない努力が必要らしい。
「……いきなり攻撃なんて、いい度胸してるじゃない」
「うわー」
ゆらっと立ち上がったアヤの周りからは激しいオーラが見える。怒らせたらいけないポケモンを怒らせてしまった。
「後悔先に立たずの言葉の意味、今お前に教えてやらぁ!!」
「俺もう知らねぇぞ。ケルマ、あと任せた」
「え!?ら、ランド!」
ランドはアヤのことを僕に押し付けてフェルの方に行ってしまった。アヤはゼヘルの方に勢いよく突っ込んでいく。
「そう言う真っ直ぐなの、僕好きだけどさ?そう言うのって…無謀って言うんだよね」
「ハァァァ!!!」
「あーーも!」
僕もアヤの方に加戦しに行く。アヤはゼヘルに剣を突き付けそのまま勢いよく切り込む。ゼヘルはそれを避けながらアヤに魔法を繰り出す。
「悠久の炎よ。全てを焼き払い、その力を今示せ!“
迦楼羅炎”!」
「全てを包み、灰に変える業火よ。今こそ我に力を!“
紅の波炎”!」
僕とゼヘルの魔法が混ざりあい、大きな爆発が起こった。黒煙に包まれながら、僕らの戦いはまだ続く。全ての行く末は、まだ誰も知らない。