番外編!鏡の中の勇者たち(前編)
〜*〜
ある日のこと。アヤが珍しいものを僕らの元に持ってきた。
「それって…鏡?」
「違う世界を映す鏡なんだって」
違う世界?それって、反転世界みたいな、もうひとつの世界への扉みたいなものなのかな?
すると、ランドが興味無さそうに吐き捨てた。
「んなもん本物なわけねぇだろ」
「私だって本気にはしてないわよ。でも、ただの鏡として使うなら、いいんじゃないかなって。綺麗だしさ」
確かに綺麗な鏡だ。丸い手持ち鏡で、後ろにはサーナイトが祈っている彫刻が彫られている。なんだか、神秘的な感じがする。
「でも、多少の魔力が残ってるみたいだよ?使うときは気を付けてね?」
「ありがとうセクト。そうするよ」
セクトがアヤの持ってる鏡を覗きこむ。すると、強い白い光が鏡の中からできた。え!?な、何!?
「なっ!」
「眩し…!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
光が収まると、そこまでいたみんなは消えてしまった。残っているのは、サーナイトが祈っている彫刻が彫られた、あの鏡だけだった。
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そのまま僕はどこかもわからない空間に来ていた。目の前も後ろも、右も左も闇。僕は足が地面についてるんだろうか?空中に浮いているんだろうか?わからない…。
「みんなは…?そ、そうだ!みんな!」
みんなはどこ?僕はみんなを探すために前に進む。でも、前に進んでる感じが全く感じられない。
すると、僕の前にキランと光るものが見えた。近づくと、アヤが持ってた鏡だった。
「鏡…」
その鏡からは、まるで僕を読んでいるかのように光を発している。僕はその光に吸い込まれるように鏡に触れた。
次に目の前に現れたのは青い空。白い雲。そして、キラキラ輝く太陽だった。頭がいたい。グワングワンする。
起き上がると、みんなも地面に倒れていた。
「っ!み、みんな!起きて!起きてって!」
「うぅ…ケルマうるさい…」
「あ、ご、ごめん。大丈夫?」
次々にみんなが起き上がる。最初に立ち上がったのはフェルだった。相変わらず強いな…頭が痛くないんだろうか?
「どうした?フェル」
「ねぇレヴェンテ。なんか変じゃない?」
「変って何がだ?」
フェルはレヴェンテにそう言った。レヴェンテはフェルの方を見ると、空中に岩が浮いている。岩…と言うよりも浮島みたいな感じなサイズだ。かなり大きい。
「…確かに変だな」
「うわっ!スッゴい!何これ!」
アヤが興奮した様子で浮島をみる。目をキラキラさせて、アヤが武器以外に興味を持ったのは初めてかもしれない。
「…もしかして、僕たち。異世界に来ちゃった…とか?」
「いやいやいや!あり得ねぇだろ!」
「あり得ないなんてあり得ない。…そんな言葉、どっかで聞いたことあるな」
もしかしたら、本当に違う世界に来ちゃったのかもしれない。だとしたら、どうやったら帰れるんだろう?僕らには、まだやらないといけないことがあるのに。
すると、向こうの方から何か声がしてきた。
「おい!お前ら!」
そこには、柄の悪そうな“ブースター”、腰に2本の剣をついている“ピカチュウ”、そして、眼鏡をかけた真面目そうな“マニューラ”がいた。2本の剣って、まるでアヤみたいだ。でも、実際その“ピカチュウ”はものすごく気が弱そうだった。
「そこ、俺たちが通る道なんだけど」
「はぁ?なんだ?お前ら」
なんだろう?この3匹のポケモンを見てると…どこかで見たことがあるような感じがした。
「君達は…一体?」
「あぁ?俺はケルマだ。こっちがアヤで、ランド。そう言うお前らは誰だよ」
「ええ!?ぼ、僕!?」
“ブースター”が言うには、自分がケルマで、気の弱そうな“ピカチュウ”がアヤ。真面目そうな“マニューラ”がランドだそうだ。
「俺達がもう一匹!?」
「ウッソーー!?」
もちろん。柄の悪い僕達は、どう言うことなのか全く分かっていない。不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「ど、どうしよう!これじゃあ…」
「これじゃあ?」
「なんて名前呼んだらいいか分かんないじゃん!」
「そっちかよ」
アヤのボケに、息を合わせてランドがツッコミをする。やっぱり、この二人は愛称がいいみたいだ。
「で?お前ら誰だよ」
「あ、僕はケルマ。こっちがアヤで、ランド。フェルに、レヴェンテ、セクト」
「……はぁ?」
柄の悪い僕は、そう言い捨てた。まぁ、そう言うのが妥当なのかもしれない。
「お前ら頭大丈夫か?」
「信じてくれるか分からないけど…僕らは異世界から来ちゃったみたいなんだ」
「そう言えば…聞いたことがあります」
今まで全く話さなかった真面目ランドは、ようやく口を開いた。もしかしたら、僕らの様子を伺っていたのかもしれない。
「この世のどこかに、異世界に繋がってる鏡があるそうです」
「鏡ぃ?んなもんホラだろ」
「でも、僕たち…その鏡で来ちゃったんだけど…」
柄の悪い僕は、もう完全に疑いの目を向けている。だって…本当のことだから仕方ないよね?
「そもそも。お前があんなもんを持ってくるから」
「私だって、本物だなんて思ってなかったもの。仕方ないでしょ?」
「もしかしたら、こんなことにならなかったしれなかったのになぁ」
「ランド…それは喧嘩と思っていいんだな?」
「あ…にーげろ」
「ランド!!!」
またいつもの鬼ごっこが始まった。ランドがアヤに構うのは、楽しいからなのかもしれない。アヤはそんなことないと思うけど。
「け、喧嘩はダメですよー!」
気の弱そうなアヤが、ランドとアヤに向かって言う。こっちのアヤはおしとやかって言うか…腰の剣が似合わない。
「大丈夫。そのうち止まるわよ」
「…とにかく、ここでは落ち着かないので移動しませんか?僕らが集まる場所があるので、そこに行きましょう」
真面目ランドが親切に笑顔でそう言った。反対って…怖い。その時の僕はそう思った。鏡の中で繰り広げられるこの騒動は、一体どこで終わるんだろう?
いつも見てるはずの違う空が、それを知ってる気がした。