5話
〜1〜
不思議な黒いオーラをまとい、リオンが僕たちに襲いかかってくる。リオンが持ってる斧と同じ黒い色。それは夜よりも深い…ただの闇のように僕は見えた。
「アハハハハ!!」
「ったく!手間がかかりすぎ!大人しく…しろ!!」
アヤは双剣でリオンに向かっていくが、リオンの尋常なパワーに手を焼いていた。僕らもアヤの回復をしたり、援護をしたりしているが全く歯が立たない。
「消エロ!消エロ!全部消エテ無クナレ!」
「っ!」
「焔よ!敵を殲滅のために、焦がれる力を!“
紅炎”!」
アヤに攻撃が当たりそうになるのを、魔法で援護する。自己回復能力を持ってるリオンに、あんまり効果は無いけれど…アヤをサポートするなら、話は別だ。
「…成り行きで突っ込んではいるけれど、弱点が見つからないんじゃあんまり意味はないか」
「“ダークバースト”!」
僕が魔法でリオンの隙を作ろうとしても、リオンの闇の魔法で弾かれてしまう。僕は武器が使えないから、こうやってアヤを援護するしかない。
たまに思う。僕もゲームみたいに職業を変えられて、誰に教わることもなくどんどん技とかを覚えられたらいいのに…って。でも、そんなこと考えても、今の状況は変わらないし、僕は僕の出来ることを、僕の視点で考えるんだ。何か、僕にも見えるものがあるかもしれない。
「ハァッ!」
「フンッ!」
「天の光よ。命の輝きをその手に“ホーリーキュア”」
アヤの体力が減ってきたと思ったら、セクトが自然と治癒をする。ある意味、その辺に関してはリオンとほぼ互角だ。
……そう言えばリオンのあの黒いオーラ、リオンが持ってる黒い斧と同じ色をしている。目の色も、斧にはめれている赤い宝石と同じ色だ。もしかして…弱点って。
…試してみる価値があるかどうかは分からない。でも、このままじゃなんの進展もないなら、やらないといけない気がする!
「アヤ!リオンの斧の赤い宝石を狙ってみて!」
「え!?な、なんで!?」
「いいから!」
僕の推理が正しいなら…きっと何か起きるはずだ。
アヤは横目で僕を見たら、困惑した顔でリオンの方に目線を戻した。
「…分かった。信頼してるよ!」
アヤはリオンから一旦引いて、勢いを着けてまた懐に突っ込んだ。リオンはそれを見て、大降りに斧を降る。
「その癖。あんたの悪いところだって、何回も言ったの…もう忘れたの?」
そう言って、アヤはリオンの斧を瞬時に避けた。
リオンの斧は勢いが余って教会の床に突き刺さった。深く突き刺さったせいで抜きたくても中々抜けない。
そこを、アヤが斧にはめれている赤い宝石を狙って剣を振るった。宝石はほんの少しだけ欠けて、キラキラと光る。
「ガアァァァァァァァ!!!!」
自分の体を傷つけられているかのように、リオンが悲鳴をあげた。赤い宝石から黒い煙が漏れだしている。やっぱり、あそこが弱点だったんだ。
アヤがそれを見て、一気に畳み掛けるのか体制を整えて、力を込めて剣を振るった。
「“魔神光牙斬”!」
アヤの持つ双剣から青と赤の光が走り、それがリオンもろとも宝石を叩ききった。
剣から放たれた閃光は、教会の壁をバッテンに切り裂く。壁の向こう側の外がよく見えるようになって、外の風が教会内に吹いてきた。
「ガ…ァ」
ぶっ飛んだリオンは、地面に叩きつけられて、そのままピクリとも動かなくなってしまった。リオンがまとっていた黒いオーラが散り散りに飛び散り、空の彼方に消えていった。
「はぁ…疲れたぁ〜」
「お疲れ様。それにしても、ケルマよくあそこが弱点だって気づいたわね?」
「うん。リオンの目と同じ色だったから…もしかしたら…って」
「偉い!ケルマ偉い!よくやった!」
そう言って、アヤは僕の頭を目茶苦茶になで始めた。雑だけど、優しい寛治があって、けして嫌な感じはしない。…雑だけど。
「う…!」
「おっ?おはようランド、あとレヴェンテも」
ランドとレヴェンテがゆっくり体を起こした。完全に完治しているからもう動いても大丈夫みたいだ。
「感謝しなさいよ?あんたたちが倒せなかったリオンを、私が倒してあげたんだから」
「お前…」
「何よ?」
「泥だらけだだし、なんか臭うぞ?早く風呂入れよ」
「うっさい!そんなこと言われなくても入るわ!」
いつもの二人のこの会話は、どことなく僕らの笑いを呼び寄せる。この二人だからこそ出来ることだ。
すると、ドンッ!と言う音と共に、ものすごい地響きが起こった。それは僕たちを簡単に宙に浮かせるほどだ。
「ななななに!?地震!?」
「地震にしては変だな。まさか…!」
レヴェンテのその嫌な予感が的中してしまった。教会から出てランドに氷付けにされたポケモンたちの向う側。つまり、外では飛んでもないことが起こっていた。
「おいおいおい。ジョークにしては笑えねぇぞ」
僕たちが情報収集をした仮基地の方で煙が上がっている。それに、なんだか騒がしい。よく見ると、大砲が海の方に向かって放たれているのが見えた。
「まさか、戦争が始まったなんて言うんじゃないでしょうね!?」
「そのまさかだろう。どう言うことだ?ライメイ島が攻めてきたって言うのか?」
「違うな…」
後ろを振り返ると、さっきまで倒れていたリオンが壁に手をついて、なんとか立っている状態だった。
「どう言うこと?」
「父上さ。元々、平和のために条約を結ぶわけがなかったんだ。あの人ならやりかねない」
「じゃあこれって、平和条約を結ぶって嘘をついて、相手を油断させる罠!?」
リオンのお父さん。この国の国王は、初めから条約を結ぶつもりなんて無かったんだ。元々、ライメイ島を自分の物にするつもりでこんな計画を…でも、それじゃあライメイ島が…!
「グッ!」
「リオン!」
リオンが倒れそうになったのを、アヤがすかさず支える。リオンの体はボロボロで、早く治療しないといけない状態だった。
リオンは力を使い尽くして、気絶してしまったみたいだ。
「…これからどうする?」
「フェルと合流しよう。行き先は分かってる」
「じゃあそうしよう?ランドとケルマはレヴェンテに乗って?アヤとリオンは私に!」
「え…?」
「助けるんでしょ?その子」
「……うん。ありがとう」
アヤがリオンを連れてゆっくりこっちに来る。
それにしても、フェルはどこにいるんだろう?確か、何か気になることがあるって言って、別行動をとったきりだ。
「そうだランドにケルマ」
「なに?レヴェンテ」
「リオンが持ってた斧を持ってきてくれるか?ついでに、アヤが堂々と破壊した宝石の欠片も集めてほしいんだ」
「分かった。行こ?ランド」
「へいへい」
僕とランドは、教会内にまた入る。木片が粉々になって散らばってるから、気を付けないと怪我しそう…。
ランドは、リオンの斧を軽々と持って、ブンブンと振り回す。もちろん、僕は欠片集め。なるべく大きいのを選んで持っていった。
「これって案外軽いのな」
「もう!危ないから振り回さないでよ」
僕の頭上を通過していく斧が、ものすごく恐い。ランドに限って、間違って落とすなんてことはないと思うけど、もしも…って思うとね。
アヤはセクトの背中にリオンを乗せて、乗ろうとしていた。僕らもレヴェンテの背中に勢いよく乗る。
「よし!行くぞ!」
2匹同時に空に飛び立つ。僕たちが今目指すのは、フェルがいるところ。下には、戦争で大勢のポケモンたちが戦っている。なんとなく…地面が赤く見えた。多分、みんなが流した血の色だろう。
「見るな」
レヴェンテがドスの効いた声でそう言った。顔が見えないから、どうなってるのか分からないけれど、きっと恐い顔をしているんだろう。
「見たら…余計な感情が出てくる。今、俺たちが感情移入したところで、出来ることなんてなにもない」
「……そうだね。分かったよ」
僕たちが下に降りても、戦争は止められない。回復系の魔法が使えるのはセクトだけだから、傷ついた全員を救えるわけがない。と言うか、僕たちが行ったら、余計に混乱するだろう。
レヴェンテとセクトは雲の上に出て、少しだけスピードを上げた。
眩しいほど輝く太陽が、僕らを明るく照らしている。でもそれは、僕に厳しい言葉を投げ掛けているように見えた。
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空を飛んで、それほど時間がたってないように感じ始めた頃、レヴェンテとセクトが顔を合わせて、雲の下に降下していく。
雲の下には、海の上にポツンと1つ大きな島があるだけだった。
「あの島は?」
「この世界で、唯一の魔法が発展島。“マリージア”」
そう言えば、フェルが前に言ってたね。この世界には4つの島があるって…じゃあ、あれが最後の島なんだ。そして、あそこにフェルがいる。
「行くぞ」
“マリージア”の地面に、レヴェンテとセクトがゆっくり着地し、僕らは新たな地に足を踏みしめた。
さて、リオンを宿につれていかないといけないし、フェルも探さないとね。
「私、リオンを宿につれていくよ。セクト、治療するために一緒に来てくれる?」
「もちろん。じゃあ、男子メンバーでフェル探しお願いね」
「分かった」
アヤとセクトが宿に向かって足を向けようとしたときに、前からポケモンが歩いてきた。
「…アヤ?」
「え?」
アヤがそのポケモンに目を向ける。そのポケモンは、“サーナイト”と言うとてもきれいなポケモンだった。
「あら。やっぱりアヤね。久しぶり」
「ミク!?」
ミクと呼ばれた“サーナイト”は、とても妖美で、大人の笑顔でアヤに微笑みを返した。
この出会いが、更なる運命を引き寄せることを、僕らはまだ知らない。