3話
〜1〜
フレイメル群島の砦のようなお城に、僕らはたどり着いた。岩でできたお城は、相変わらず僕らを拒絶するかのようにそびえ立っている。
「ここのどこかにアヤがいるんだよね?」
「そう言うことになるだろうな。ま、大抵こういう時は、地下牢にいるんだろうよ」
地下牢か…どのみち、ここから入らないと行けないんだろうけど、どう考えても不法侵入なんだよね。泥棒と同じじゃないか。
「僕的に、不法侵入は避けたいんだけど…」
「アヤが心配じゃないのか?」
「そうじゃないけど、もっと平和的解決があるんじゃないかなって」
「アヤが拐われて、平和的も何もねぇだろ。やっぱり、正面突破で突撃しようぜ?」
ランドの言うことも判るんだけど…何て言うか、あんまり戦いとかそう言うのはできるだけ避けたいと思う自分がいる。好戦的なランドに対して、僕はどうも消極的だ。
「平和的に解決もできない。でも強行突破もダメとなったら…あれしかないね」
「セクト。あれはダメだ」
「ねぇ、あれって何?」
セクトがヤル気満々な顔をしているに対して、レヴェンテは苦笑いしていた。あれと言われても、思いあたる節はどこにもない。
「だって、やるならあれしかないじゃん」
「俺はもうごめんだ。あれだけは2度とやりたくない」
「だからあれって何!?」
嫌な予感しかないけれど、あれがなんなのかすごく気になる。まぁ、そのあれっていうのはセクトが考えだやつなんだろうけど。
「気にするな。知って得することなんかミジンコ1匹分もない」
「そんなこと言わないでよ!なんか良かったって思うことあるかもしれないでしょ!?」
「ないな。絶対ない」
ミジンコ1匹分も得しないあれって…一体?
ばっさりレヴェンテに切り捨てられたセクトは、頬を膨らませる。やっぱり、アヤに似てるところがある。でも、セクトとアヤの違いは、女の子らしさにある。セクトは上品な所があるが、こう言ったら悪いけど、アヤはお姫様だとは思えないぐらい女子の欠片もない。男勝りって言うんだろう。
「普通に侵入するぞ。面倒は避けたい」
「うーんと…じゃあ、あの窓から入らない?あそこなら手が届きそう」
僕が指差した窓の近くには岩があり、登りさえすればなんとか入れそうな感じがあった。切り立ってもいないし、きっと大丈夫だ。
「あっ!入る前に、話しておきたいんだけど」
「なに?」
「私、回復担当だから、傷ついたらすぐに言ってね?」
セクトは、首にかかっているピンク色の水晶に手をつけながら、笑顔でそう言った。セクトは回復か…。チーム的にだいぶまとまってきたと思う。
「よし。そうと決まったら行くぞ」
レヴェンテのその一声で、僕らは行動に移す。窓の向こうの部屋は物置のようで、棚の上に何か本や他の物があった。よくわからないビンや、高そうな壷。こう言うのを容赦なく割るポケモンがいるけれど、僕は割る気ないよ?ランドはどうか知らないけど。
「なんか…忍者になった気分」
「そうかぁ?俺的には潜入スパイだけど」
「二人とも、あんまり大きな声出したら気づかれちゃうよ?」
セクトに怒られながらも、僕はドアの布を少しだけめくってみる。廊下には誰一人いない。今のうちに移動しよう。
「よし!行こう!」
コソコソと廊下をジグザグに小走りで進んでいく。たまに来る兵士の目を掻い潜りながら、少しずつ進んでいく。でも、戦争前と言うこともあって兵士の見張りはかなり分厚い。
「兵士だらけだね」
「よし!ぶっ潰す!」
「ダーメ!そんなことしたら、私たちだけじゃ倒しきれないよ。軽い戦争はリスク大きいすぎ!」
「でも、ここを掻い潜るのは至難の業だよ?」
ある扉の前にいる兵士の数は大体10匹ほど。10だけならなんとかなるかもしれないけれど、ここからさらに増援を呼ばれると思うとゾッとする。
でも、あの扉の向こうに何かあるのは分かる。それも、かなり重要なやつ。
「あー。焦れってぇ…!凍らせる!」
「ランドダメだよ!」
「氷よ。全てを凍てつかせる絶氷よ。星の導きにより、我に力を!“絶対零度”!」
冷気が一気に兵士たちを包み込み、今までそこには無かった氷がいきなり表れた。火山の国には似合わない氷の中には、10匹の兵士がいる。
「よし。行くぞ」
「ごめんなさい。後で助けに来ます…!」
氷の中にいる兵士に頭を下げてから、僕らはドアを開ける。ドアの向こうは長いバージンロード。ステンドガラスがキラキラとキレイに輝く。どう見ても教会の中だ。
…来る場所間違えたかな?
「ようこそ!我が城へ。俺はリオン。よろしく頼むよ。あぁ!俺としたことが、君達に俺とアヤの結婚式の招待状を用意するのを忘れていたようだ」
「用意し忘れたんじゃなくて、用意する気がなかったの間違いだろ」
バージンロードの先には、巨大な大斧を持った“リオル”がいる。教会には全く似合わないその斧は、黒と赤の少し禍禍しいオーラをまとっていた。邪悪な…何か。でも、その肝心な何かが知らないんだけど。
「あぁ。そうとも言うな。でも、理解が早いのはこちらとしても嬉しい。さて…君達に選択肢をあげよう。“俺に跡形もなく無惨にぶっ殺されるか”、“そのまま一思いに首を切り落とすか”、あっ!“自害する”って言うのもありだね。さぁ。どれが良い?」
その黒い笑顔は、狂ったピエロのような笑顔だった。殺気も常に出し続け、殺人鬼と呼ばれるのは、こう言う風に見えるからなんだろう。
「結局、死ぬ以外選択肢ないのな」
「でも、それならそれで分かりやすいことはない」
「うん。私たちの答えは、1つしか無いもん!」
そう言って、僕たちはいっせいにかまえた。それを見てか、リオンは更にニタッと笑い大斧をこちらに向ける。
「なるほど。それが君たちの答えか。…ハァー。この教会。ちょっと全体的に白すぎてね。君達の血で、俺とアヤの結婚式に似合う綺麗な赤色に染めてもらおうか!!」
「ランド!」
「絶氷の氷よ。我を守る楯となれ!“氷の楯”!」
大斧を大きく振りかぶりながら、突っ込んでくるリオンと僕らの間に、大きな氷の楯が現れる。楯と大斧がぶつかり、キン!と言う音が響く。
「へぇ…面白い!」
「闇の鼓動よ。今我の力に響き、我が剣へと変われ!“
死の爪痕”!」
リオンの頭上から、黒い剣が無造作に降ってくる。土埃が舞い、リオンの姿が消える。すると、いきなり土埃が強い突風に寄って吹き飛ばされ、黒い剣は細々に割れて地面に散らばっていた。リオンは平然とした顔でこちらを見る。
「なっ!」
「無常の闇よ。全てを切り裂き、無に返せ!“
闇の突風”!」
黒い風の刃がランドが作った楯に向かい、思いっきりぶつかった。楯にひびが入り、真ん中から粉々に割れて、ランドを吹き飛ばす。ランドはその衝撃で壁に背中を叩きつけた。
「ガハッ!」
「ランド!」
「ケルマ!セクト!そこのドアが地下牢の入り口だ!早く行け!」
「分かった!行くよケルマ!」
「う、うん!」
ランドが指したそのドアは、バージンロードの先の祭壇の右側にあるドアだった。僕とセクトは、アヤの双剣を持って一心不乱に走る。止まったらダメだ!止まったら僕が死ぬ!
「行かるか!」
「死者の追魂よ。その者の身体を、思考を、魂を食いつくせ!“
死者の行進”!」
「っ!」
間一髪でレヴェンテが魔法を放ってくれたおかげで、僕たちはなんとかドアの前までやって来て、ドアを開けて地下に続く階段をかけ下りる。
「行かせないは…こっちのセリフだ」
「お前の相手は俺達だ!行きたかったら…俺達を倒してからにしろよ」
ランドはゆっくりと起き上がり、そう言いながらレヴェンテの近くに行った。リオンに睨みを利かせながら、口に溜まった血を吐き出す。もはや口の中は血の味でいっぱいで気持ち悪かったが、そんなことを言ってる場合じゃない。
「どいつもこいつも…俺の邪魔ばかりしやがって…!いいぜ…!そんなに死にてぇなら、殺してやんよ!!!」
殺気に満ちた目を見開きながら、リオンは斧を無造作に振り回す。周りにある椅子を破壊し、壁や床に斧の切り傷をつける。
レヴェンテとランドはそんなリオンに、向かって走る。
祈りを捧げる“サーナイト”に、その隣で、同じく祈りを捧げる“キルリア”や“ラルトス”の像は、どこか悲しみの表情を浮かべていた。