2話
〜1〜
フレイメル群島にある以前ケルマたちが訪れた砦。その中の地下牢で、蝋燭がゆらゆらと揺れている。この薄暗い地下牢で、アヤは密かに目覚めていた。手枷と足枷を取り付けられていて、壁に張り付くような形になっていた。
「……」
なんとなく、ここがどこなのか分かる。きっと、あいつの仕業だ。別にこんなことしなくても、こっちから行ったのに。そんなに待てないのか。
かなりご丁寧な対応に、アヤは呆れていた。あいつが私のことを好きなのは知ってる。でも、このやり方はどうなんだ。
すると、誰かが地下に降りてくる足音が聞こえ、やって来たのは“リオル”というポケモンだった。
「やぁ俺のマイプリンセス。いい子にしてたか?」
「やぁ私のマイプリンス。とりあえずここから出せ。そしたら、あんたのその顔に一発お見舞いしてやるよ」
「相変わらずアヤは怖いな。でも、そこがまたいい」
“リオル”はアヤがいる牢屋の鍵を開けて自分も入る。アヤは目できっぱりと嫌だと伝えてる。目で訴えると言うのはこういう感じなのかもしれない。
「にしても、相変わらず可愛い」
「あんたは相変わらずいい趣味をかましてるわね、リオン」
リオンと呼ばれた“リオル”は、アヤの頬に手を添えて、自分の顔をアヤの目と鼻の先までに近づけた。
「仕方ないだろ?こうでもしないと、アヤはすぐにどっかに行こうとする」
「そりゃ嫌いだからね」
「でもやっと俺と結婚してくれる気になったんだろ?それってやっぱり俺が好きだから?それとも、戦争を回避するため?」
「答えは1つしかないでしょ」
「まぁ、俺はどっちでも良いさ!アヤが俺と結婚してくれるなら、俺はそれでいい」
ますますアヤは呆れた。じゃあ、なんで聞いた。どっちでも良いなら聞くなよ。結局理由なんてどーでもいいんじゃん。
「あっ。そうだ」
「…?」
「俺さ。どうしたらアヤが俺だけを見てくれるか…いろいろ考えたんだ」
リオンはアヤの顔を真っ直ぐに見つめて、優しく笑ったつもりだった。しかし、アヤにとってみたら、それは何よりも怖いものはない。殺気に満ちて、こんな恐怖を感じたとこはなかった。
「アヤの周りにあるもの。アヤの大切な物があるから、俺を見てくれない。なら…俺が全部壊してあげる。そしたら、俺のことだけ見てくれるだろ?」
「……あんた。やっぱり狂ってる」
「アヤを手に入れられるなら。俺はなんだってするさ。それが…俺の生きる理由だから」
リオンはそう言ってアヤがいた牢屋から出ていく。その顔は、笑顔だがものすごく黒かった。
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ケルマたちは、“デスマウンテン”の頂上で行き詰まっていた。ヒントもなしに探せと言う方が無理だろう。
「どうしよう…せめてアヤの居場所だけでもわかったら…!」
見て分かる通り、ものすごく焦ってる。こんなことをしている間に、もしアヤに何かあったら…!
その時、どこからか声が聞こえてきた。
「結構苦労してるねー」
「…!?あの時の!」
祭壇の上で空中に浮いているポケモンは、僕らは見覚えがあった。フレイメル群島であったミハルと言う“ニャオニクス”。どうして彼がここに。
僕らはとっさに水晶を構える。
「あっ!構えないでよ。今日は、戦いに来た訳じゃないからさ!」
「じゃあ、何しに来た!」
「うーん。ヒントをあげに?君たちのお仲間の居場所。知りたくない?」
ミハルはお得意の作り笑顔で僕らにそう話してきた。どういうことだ?というか、信じれるのか?もしかしたら罠かもしれない。
「あっ、知りたくない訳ないか!」
「それ、本当なの?」
「それを決めるのは君たちじゃない?どう理解するかは任せるさ」
「…どうする?」
みんなの視線が僕に向く。常に思うけれど、どうしてこう言うのを決める権限が僕にあるんだろう?と言うか、僕に聞く必要ある?リーダーでもないし、この中ではきっと、僕が最年少だ。
「え…あ…じゃあ、一応聞こう?」
「うんじゃあ話すね?お仲間の居場所だけど、フレイメルのどっかにいるよ?多分、君たちも行ったことがある場所さ」
「…!まさか…!」
「あ、もしかして知り合い?なら話しは早いね。その誘拐したポケモンは、お仲間の婚約者さ」
婚約者?もしかして、アヤが昨日言ってたリオンってポケモン?ランドの驚いた顔が、すごく焦ってる顔にも見えた。
「僕は連れてきてって言われて連れていっただけだから、恨むならあクソ犬にしてよ?」
「お前がやったのか!」
「そんなことより、気を付けな。アイツ、バカだけど殺るときはなんの躊躇もないから。しかも、力もかなりある。精々殺されないように頑張ってね」
それだけ言って、ミハルは“テレポート”でどこかに行ってしまった。でも、とりあえず行動できるところができた。罠かもしれないけれど。
「罠かな?」
「いや、その可能性は低いな」
ランドがハッキリとそういった。何か確信があるらしい。
「なんで?」
「リオンは、本気でそう言うことをするやつだからだ。アヤの為なら、殺しも喜んでやるだろうよ」
確かに、それなら可能性の方が高いね。あったことないけれど、本当にアヤが好きだって言うのが伝わってくる。歪んだ愛情というのは、こういうことなんだろうな。
「行くぞ。目指すはフレイメルだ」
「その件なんだけれど」
すると、フェルがそう切り出してきた。どこか遠くを見ながら話してる。
「私、ちょっと違う方に行きたいの。任せても大丈夫かしら?」
「大丈夫!私もレヴェンテもいるし!」
「ならもう行くわね。時間がないから」
そう言ってフェルは僕らの顔を見ないで、そのまま山を降りていった。どこに行くんだろう。まぁ、フェルのことだから何かあるんだろうけど。
「じゃあ、僕らも行こう」
僕がそう言うと3匹とも頷いた。僕らはアヤの剣を背負って山を降りる。大切な仲間を助けに行くために。それが、今の僕らのやるべきことだから。