4話
〜1〜
それから僕らは、2手に別れていたのを元に戻して、5匹全員で軍の仮基地に向かうことにした。そんな中、さっきの騒動のせいでみんなの空気が重たくなっていた。特に、ランドとアヤは深刻だ。
「はぁ…」
「…」
うぅ…!ど、どうしよう!重い!重すぎるよこの空気!フェルやレヴェンテは特に触れることがないまま、平然としている。この空気に挟まれてワタワタしてるのは僕だけだ。気になるけど、今は話を聞けるような雰囲気じゃないし…早く仮基地につかないかな…?
「お、見えてきたな。あれが仮基地だ」
レヴェンテがそう言って指差したその先には、ものすごく広い荒野に、テントがたくさんある場所だった。火山地帯だからか、木とかはほとんど生えておらず、あったとしても、葉は一切ついてはいなかった。そんな場所に、所狭しとテントが置かれてる。
「広いね…!ここが、仮の本拠地」
「さっ!情報収集だ。今は余計なことは考えるなよ」
アヤとランドに念を押すように、レヴェンテはそう言った。でも、あくまで2匹の顔は見てなかったけどね。なんだか複雑な気分なまま、僕らは行動を開始した。
「うーん。誰なら話してくれるかな?」
仮基地内は、ものすごく慌ただしい空気だった。戦争が近いからだろう。武器を運んだり、物資を分けていたり…到底、話ができるような感じじゃない。
「隊長とか?」
「ねぇ。ちょっと」
フェルは、近くを通った“モウカザル”に話しかけた。“モウカザル”は、方に角材を背負って、その場で足踏みをしてる。
「なんすか?」
「隊長さんがいるテントはどこ?」
「隊長…大佐のことっすか?大佐なら、中央のデカイテントにいるっすよ」
「そう。ありがとう」
「どういたしましてっす。じゃ」
そう言って、“モウカザル”はどこかに走り去っていった。…悪いポケモンではなかったね。働き者の良いポケモンだ。
「中央の大きなテント…あれかな?」
真ん中ら辺に一際目立っ大きなテントが立っていた。サーカスのテントほど出はないが、かなりの大きさだ。どれだけのポケモンが入るのかな?
「よし、行くか」
余計なことは考えるなとレヴェンテに言われたアヤとランドは、何も話さない。考えるな…といった方が無理みたいだ。
エルと二人…いや、主にランドとは、どんな関係なんだろうか?ランドのあんな切羽詰まった顔を見たことがなかったから…よりいっそう気になる。
「近づいてみると、やっぱりおっきいね…」
「入ろう」
大きなテントの入り口は、まるで大きく口を開けた化け物に見える。すべて布で出来てるテントは、入り口が隠れないように、木の柱で支えられている。
「失礼しまーす」
恐る恐る中を除いてみると、沢山のポケモンがこれまた忙しそうに動いている。中央の大きな机で、地図を広げて作戦会議をしてるポケモン。物資を整理していたり、いつでも出れるように武器を持って待機してるポケモンなど、ここもポケモンでごった返してる。
「…話聞けそうにないね」
「そうね。でも、ここで引くわけにはいかないわ。私達には時間が無いんだから」
フェルはそう言って、中央の大きな机に向かっていった。そこには、一際違う雰囲気を漂わせる“ゴーリキー”と言うポケモンが地図を睨み付けている。あれが、大佐なんだろうか?
すると、一部のポケモンがフェルに気付き、銃や剣を突き立てる。
「何奴!そこから一歩でも動いてみろ!その喉元を切り裂くぞ!」
「止めろ…!」
静かだが、どこか怒りを含んでるような声が辺りに響いた。その声は、あの“ゴーリキー”からしたものようだ。
「武器を降ろせ」
「ですが…」
「聞こえなかったか?降ろせ」
ものすごい剣幕でもう一度そう言うと、流石に武器を向けていたポケモンたちは怯んだのか、武器を納めた。
「すまない客人。だが、今はいつ戦争が起こるか分からない状態。部下たちも緊迫した状態なのだ。その辺のご理解を…」
“ゴーリキー”はそう言うと、少し頭を下げた。それに続き、周りにいるポケモンたちも軽く頭を下げる。
「大丈夫よ。一応理解はしてるつもり」
「ありがとう。私はゲルガ。今は長に代わり、ここの区間を仕切っている者だ」
「私はフェル・ムーンよ」
「フェル殿。先程から入り口にいるあのポケモンたちは…貴殿のお仲間かな?」
「ええ。そうよ」
ゲルガと名乗った“ゴーリキー”は、僕たちの方を見た。フェルが僕らに向かって頷いて、なんとなく入っても大丈夫だと言ってるように思えた。
「行くぞ」
「あ、うん!」
レヴェンテがそう言って、フェルの元へと歩き出す。僕もそれに続いて、ランドも続いたが、アヤだけ1人そこから動こうとしない。
「アヤ?」
「私、外で見張りしてる」
そう言ってバツが悪そうに外に出ていってしまった。見張りって…いるのかな?て言うか、どうしたんだろう?
「ほら、行くぞ」
「え、あ…うん」
ランドに背中を押されて、フェルの元へとやって来た。ゲルガからは、威厳が漂ってる。そういう風に感じた。
「初めまして。ケルマです。こっちがレヴェンテと、ランド」
「私はゲルガだ。それで…貴殿たちは、何をしに?」
僕は不意にフェルの顔を見た。フェルは静かに頷き、後のことは僕に任せると言ってるように見える。ある意味、任せられても困るけどね。
「あの…どうして、フレイメル群島と、ライメイ島が戦争してるのか気になって」
「長には会われたか?」
「ええ。でも、話を聞く間もなく追い返されたわ」
はぁ…。とため息をつきながら、首を左右に振った。僕は会ったことがないけれど、一体どんなポケモンなんだろうか?長と呼ばれるぐらいだ。とても強いポケモンなんだろう。
「申し訳ない。長は気難しいお方ゆえ、どうしてもそのような態度をとってしまう」
「あ、大丈夫です!お気を使わずに…!それで…どうして戦争を…?」
ゲルガは重い沈黙の中で、何か決心したように僕たちを見つめて、口を開いた。
「……単純に申せば、兄弟喧嘩だ」
「兄弟喧嘩…?」
「そう。何がきっかけかは分からぬが、ライメイ島を治めている弟君と喧嘩をしたご様子でな」
兄弟の小さな喧嘩で、国を上げての大戦争に繋がったって言うのか。身勝手な戦争に、沢山のポケモンたちが巻き込まれようとしてる。…それが、今の現状か。
「こりゃ、迷惑な話だな。自分達の喧嘩に国を巻く混むか普通」
「それが、普通じゃないからこうなったのよ」
はぁ…。と、レヴェンテがため息をついた。ため息をしたくなる気持ちは僕も良くわかる。これが、世界のバランスを崩してる原因の一部なのだ。気が遠くなるような話でもある。
「…こうなったら、ライメイ島に行くしかないわね」
「は…?」
フェルがそういった一言に、なぜかランドが反応した。フェルが不信な目付きで、ランドを睨み付ける。
「何?何か不味いことでもあるの?」
「あ、いや。別に…」
なんか…珍しくランドが負けてる気がする。ランドは、いつも明るくヘラヘラしてて、何があっても僕たちの雰囲気を返るようなそんな感じだったけど。どう見ても今は違う。エルとのことがまだ効いてるんだろうか?
「そ。なら良いけど。それじゃあ、邪魔したわね」
フェルはそう言って、テントの中から出ていった。それに、レヴェンテとランドも続き、僕は最後にゲルガにもう一度頭を下げてから、フェルたちの後を追った。
外では、アヤが本当に見張りをしていて、僕たちの帰りを待ってた。
「どうだった?」
「ちょっとしか情報が得られなかったよ。だから、ここと戦争をしようとしてるライメイ島に行こうと思って」
「え…?」
アヤもまたランドと同じように、ライメイ島と言う言葉に反応した。ライメイ島に何があるんだろうか?
「どうかしたの?」
「え!?あ、だ、大丈夫よ!ライメイ島に行くのよね?」
「うん…」
「なら、早く行かないと!ね?」
そう言って、アヤはいつものように笑顔で僕の背中を叩いた。でも、その笑顔は僕にはものすごく無理してるように見えて…辛そうに見えた。