3話
〜1〜
僕とフェル、そしてレヴェンテは、とりあえず軍の仮の基地に向かっていた。そこになら、沢山のポケモンがいると判断したからだ。
「…本当に戦争するんだね」
「それを、俺らが未然に防ぐんだ。1匹も死なせるわけにはいかない。あいつらに罪はねぇんだ」
そうだよね。犠牲が出る前に早く止めないと…。それには、一刻も早く情報を集めて、王を説得するんだ。
フェルは、僕とレヴェンテの前を歩きながら、何か考えている様子で黙りコクってた。
「フェル?どうしたの?」
「……この戦争を起こす引き金を引いたのは、一体誰なのかしらね。世界が滅んだら、自分達も消えてしまうかもしれないのに…何が目的なの?」
そう言えば…この戦争を起こさせた張本人が他にいるって言ってたね。謎が増えていくばかりで…解決は全然されていかない。情報が少なすぎるのもあるけど…僕自身、迷宮の中でグルグル回ってる見たいな感じがしてるからだと思う。
「さぁな…?でも、今は目の前のことだけでに集中しようぜ」
「…そうね」
この2匹は本当にこの世界を救いたいんだ。…でも、僕はあんまりピンときてない所がある。この世界は、僕の今まで生きてきた世界じゃない。世界の危機とか言われても、うのみにはできてなかった。だって、そんなのは所詮、ゲームやアニメの話だと思ってたから。
「…?」
「どうしたの?」
「何かいる」
フェルはいきなり立ち止まり、先の方の道影を睨み付ける。あそこに誰かいるんだろうか?もしかしたら、この島に住んでるポケモンかもしれない。
道影から出てきたのは、“バンギラス”と“ワルビアル”と言うポケモンだった。
「あの…ちょっといいですか?」
「うん?…お前ら。どこかで見た顔だな?」
「え?」
僕はもちろん、フェルやレヴェンテは“バンギラス”と“ワルビアル”の面識はないみたいだ。自分達が知らないだけかもしれない。
「…アッ!?む、紫の水晶使いと黒の水晶使い!」
「それに、コイツ…まさか!」
「貴方達、何で水晶の事を知ってるの?今の時代、水晶の事を知ってるのはごくわずかのポケモンだけよ?」
「「…あ」」
フェルが紫の水晶使いで、レヴェンテは黒の水晶使いだと断定した2匹は、フェルに突っ込まれて、顔色を変えながらもうダッシュでここから逃げ出した。
…あの2匹。もしかして…!
「追いかけるぞ!」
レヴェンテのその一声で、僕達も大急ぎであの2匹を追いかけた。速さ的にはそこまで速くない。そのお陰ですぐに行き止まりに追い詰めた。
もしかしたら、この2匹から何かしら情報を得られるかもしれない。まさか、こんなに早くチャンスが巡ってくるなんて…。
「さて、もう逃げ場はないぞ。お前らの持ってる情報を洗いざらい吐きやがれ」
「…チッ!こうなったら…行くぞ!」
「おう!」
そう言って、2匹はバトルの体制に構えた。
それを見たフェルとレヴェンテは、同時に水晶を取り出した。フェルは紫、レヴェンテは黒だ。僕も急いで水晶を取り出す。
「死者の追魂よ。その者の身体を、思考を、魂を食い尽くせ!
死者の行進!」
レヴェンテが魔法を発動させると、“バンギラス”や“ワルビアル”は普通に技で対抗してきた。2匹同時の“破壊光線”だ。
レヴェンテの魔法と、2匹の技は混ざりあって大きく空中で爆発した。黒い煙が視界を遮って、何も見えない。
「「“悪の波動”!」」
すると、今度は煙の中から出てきた“悪の波動”が僕たちを襲う。直撃はなんとか避けたが、それでもかなりのダメージだ。
「厄介だな…。フェル!」
「光よ。全てを照らし、邪気なるものを打ち払え!
光の流星!」
流星群のように降ってくる光は、“バンギラス”達を巻き込んで一瞬で辺りを消失させる。全てが終わった後によく見ると、“ワルビアル”が倒れていてピクリとも動かない。もしかして…死んで…え?
「くっ…!」
瓦礫の中から、“バンギラス”がゆっくりと起き上がって、どうやら1匹だけ無事だったみたいだ。
すると、どこからか不思議と声が聞こえてくる。
「いやー。君達やるねぇー!」
“バンギラス”を遮るように、目の前に“ニャオニクス”と言うポケモンが出てきた。毛の色は青が多いのから見て、性別は♂みたいだ。
「流石、水晶を扱えるだけのことはある」
「ミハル様…!」
ミハル様と呼ばれた“ニャオニクス”は、黒い笑顔を浮かべたまま“バンギラス”の方を振り替えって近づいた。
「君も良く頑張ったよ。お疲れ様」
「は…はい…!」
「でも君。…もういらないや」
そう言って、“バンギラス”の肩に手を置くと、強い光を発して“バンギラス”を跡形もなく消してしまった。
「あいつの仲間じゃないの?」
「仲間?君さぁ、なんか勘違いしてるよね。僕の仲間は僕だけよ?」
様ってついてることは、あの“バンギラス”よりは少なくとも上の存在みたいだ。なんだか…少し怖い。オーラと言ったらいいかな?なんだか、雰囲気がものすごく怖く感じた。これが殺気って言うやつなんだろうか?
「まぁ、彼らも頑張ってたけどね〜。でもさ…いくら頑張っても、勝てなきゃ意味ないよね?いくら努力しても、結果が出なかったら意味がない。ほら、論より証拠…って、良く言うでしょ?」
ミハルがそう言うと、レヴェンテの心に触れたのか、怒りを押し殺しながら言った。
「ふざけるなよ。今自分がしたこと分かってるのか!?」
「じゃあ、聞くけどさ?そう言う君達はどうなの?敵だから、襲ってきたからって、殺していい理由には…ならないよね?結局、君達がやってることも、僕がやったとこも、同じじゃないか」
そう言われて、フェルとレヴェンテはにも言い返せなくなってしまった。確かに…いくらどんな理由があっても、殺したことには変わらない。でも、大きく違うことが1つだけある。
「…違うよ」
「うん?」
「…違うよ。貴方がやったことと、フェルやレヴェンテがしてきたことは…まるで違う。フェルやレヴェンテは、誰かを守るためにやってるけど、貴方がしたことは、ただの自己中な理由で、使えない道具のように命を粗末にしただけじゃないか!」
必死だった。と言うか…実際に怒ってた。仲間をこんな風に悪く言わないでほしい。あんな風なポケモンと同じにしないでほしい。僕はだから、思いきって言い切った。
「…なんか…そう言うのムカつく。何?じゃあ君は、犠牲の上で誰かを殺しても良いってこと?仕方ないとか、だってとか、そう言う言葉を吐く偽善者が、1番嫌いなんだよ!」
そうじゃない。もちろん、犠牲の上での死だってダメに決まってる。だからって言って、消してミハルとは絶対同じじゃないって、心の中で思った。
「あら。珍しいわね。貴方が怒ってるなんて」
そう言う声が聞こえ、僕はすぐに顔を上げた。
岩の上に、ものすごくきれいなポケモンが座っている。あれは…“ニンフィア”っていうポケモンだったかな?
「何しに来たんだい?君には別の仕事があるじゃなかったの?」
「事情が変わったのよ。それに…貴方のことが心配だったから、見に来てあげたの」
「余計なお世話…!」
ミハルは嫌そうな顔を隠すつもりもないようで、顔を歪めながらそう言った。話を聞く限り、あの“ニンフィア”とミハルは仲間のようだ。
“ニンフィア”は、優雅に飛び降りて、きれいに着地した。僕を見て、笑顔を浮かべたが、ミハルのものとはまた少し違う…妖美な感じがする。
「初めまして。私はエルです。どうぞ、お見知り置きを」
とても礼儀正しく、到底悪いポケモンには見えないが…ミハルとの会話から、エルは敵…と言うことになる。
「君達が…この戦争を起こしたの?」
「勘違いしないで?私達は、背中を押して上げただけ。この戦争だって、いつかは起きていたことなのよ」
エルたちがやらなくても、この戦争はどのみち起こっていたのか。でも、もしかしたら、この戦争は起こらなかったかもしれない。期間の間に、もしかしたら解決してたかもしれない。その機会を壊したのは、エルたちだ。
「お前らの目的はなんだ。何で世界を壊すような事をする!」
「さぁね。なんだろう?敵にこっちの目的を明かしたら、それはそれで面白く無くなっちゃうから、言わないでおくよ」
ミハルがそう言ったのと大体同じぐらいに、アヤとランドが血相変えて走ってきた。
「ケルマ!」
「アヤ!ランド!」
「大丈夫!?怪我とかしてない!?」
「だ、大丈夫。て言うか何でここが分かったの?」
アヤは、僕の肩をつかんでこのまま大きく揺さぶる。うぅ…脳みそが揺れてる…グワングワンするよ。
「爆発した音が聞こえたから走ってきたの。でも…無事で良かった」
「…ん?」
ランドがエルの方を見ると、僕の元に来たときよりももっと驚いた顔で、エルを見た。信じられないと言う顔をしている。アヤもランドの方を見てから、その視線の先を見て、驚愕した。
「エル…!」
「え?知り合い?」
「知り合いもなにもあったもんじゃないわ…!」
アヤとランドは…エルと会ったことがあるの…?僕がランドたちとエルを交互に見るなか、エルはランドを見て少し悲しそうな顔をした。
「エル…お前…なんで?」
「貴方には関係ないことよ」
「んな分けねぇだろ!エル…!こっちに来い!」
「……ごめんね。ランド」
エルはランドにそう言うと、ミハルに耳打ちをした。何を話したんだろうか?それを聞いたミハルは、ニヤリと笑って僕たちに顔を向けた。
「じゃ、僕たちはこれで帰らせてもらうよ。もう用はないしね」
「待て!エル!」
ランドは…エルに向かって手を伸ばしながら、エルに向かって行った。もう少しと言うところで、ミハルの“テレポート”で2匹は消えてしまう。
「エルーーーー!!」
ランドの虚しい叫び声が、赤く染まった空に響いた。