2話
〜1〜
「私達の目的は、この世界を救うこと」
この世界を…救うこと…?この世界は何かの危機にさらされているんだろうか?そして…その危機を起こそうとしている誰か。いや、組織がいる。僕の推理は大体こんな感じ。
「この世界には…バランスがあるの」
「バランス?」
「この世界が保つための大切な物よ。バランスは、ポケモン同士の怒り、妬み、恨み、そして殺意の影響をものすごく受けやすいの」
悪の感情に触れると、世界が崩れる。それは目には見えないけれど、僕達の中に必ずあるもの。それが沢山集まって、世界のバランスを守っていたんだ。
「小さな揉め事から、大きくなって、妬みや恨みに変わる。それが世界を崩壊の危機に向ける」
「それって…この戦争が、世界のバランスを歪めてるって言うこと?」
「それも入ってる。でも、この戦争を起こさせた張本人がいるはずだ。俺たちは、ソイツをあぶり出す」
…なるほど。でも、それと僕とどんな関係があるの?僕は、最後の鍵…って言ってたけど。つい前まで普通の人間だった僕にしてみたら、何でなのかが全くわからない。
「それと僕と一体どんな関係が…?」
「フェル。お前話してないのか?」
「私が何でも知ってるだなんて思ったら大間違いよ。ただ、情報が少なすぎるからまだ言ってないだけ」
僕の事を知ってるって言っても、まだ分かってない部分があるのか…。それにしても、僕って一体何なんだろう?…この表現が間違ってるのはよくわかってるけど。僕自身、自分の事がよくわからない。
「とりあえず…僕は、君達といた方がいい…ってことだよね?」
「まぁ、出来ればそうだな」
「分かったよ。しばらく君達と一緒に行動しよう」
ランドとアヤの方も気になるけど、今の優先順位はこっちの方が重要だ。それに、なんとなくだけど、またすぐに合流できる気がする。
「で…これからどうするの?」
「とりあえず、もう一度国王に当たってみるわ。でも、説得する材料が必要ね」
「情報を集めるか…まぁ、なんにせよ1回外に出ねぇとな」
レヴェンテはそう言うと、先に部屋から出る。次にフェルが出て、最後に僕が出た。この砦の構造がまだよく分かってない。下手したら迷子になってしまうほどだ。
外に出ると、聞きなれた声が僕の耳に飛び込んでくる。
「ケルマー!」
「アヤ!ランド!」
一体どれだけの時間が経ったのか分からないから、どれぐらい会ってなかったんだろう?とりあえず…久しぶりに見た顔だ。
「久しぶり…なんだよね?」
「そうさなぁ。大体、3日ぶりぐらいか?」
またすぐに会えるって思ってたけど、こんなに早くとは思ってなかったな。でも、2匹とも元気見たいで良かった。
アヤは僕の後ろに目をやって、フェルとレヴェンテを見た。その時のアヤの顔は少し怖いかおだった。
「アンタ…!ケルマをよくも拐ってくれたわね」
「拐ったなんて…人聞きの悪い。勘違いにもほどがあるわよ?」
「なんですって!」
「はーい。そこまでー」
アヤは完全にフェルに敵意むき出しで、フェルに突っかかろうとしたときに、ランドがアヤを羽交い締めにして止めた。アヤは手足をバタバタと動かして抵抗する。
「はーなーせー!!」
「ドウドウドウドウ。いいから落ち着けって。こいつらはもう敵じゃない」
「フーーッ!」
アヤを宥めるかのように、ランドはフェルとアヤを少し離した。フェルは、まだ完全に信用していないのか、目が鋭いように見えた。
同じ“ピカチュウ”同士でも、アヤはアヤは少し無邪気な所があって、感情豊かだ。もちろん、フェルはその反対。この2匹がお互いを信頼できるようになるにはまだしばらくかかりそうだね。
「そう言えば…ランドたちはどうやって来たの?」
「ソイツ。えーっと、フェル…だったか?が教えてくれたんだよ」
フェルが…?僕はフェルの方を見ると、フェルは目線をランドから僕に戻した。
「ヒントを出しただけよ。全ては水晶の導きのままに」
「水晶同士は繋がってて、反応しあうんだって」
アヤが追加の説明をつけてくれてようやく分かった。だから、ここまでやってこれたんだ。
「で?そっちは?」
「俺はレヴェンテ。水晶使いだ」
「私はアヤ。こっちがランドよ。ランドは水晶使いなの」
「よろしくなー」
ランドは普通にそう言ったが、どこか素っ気ないような…僕やアヤと話してるときよりもテンションが違う感じがした。確か…ランドは滅多に信用しないって、アヤが言ってた気がする。これがランドの普通…なんだろうか?
「あ、そうそう。僕らの方のことまだ話してなかったよね?」
「あぁ。世界の危機のことでしょ?」
「!?知ってたの?」
「まぁね。こっちにも情報網があるから」
そう言えば…ランド達が僕の事や水晶の事を何で知ってたんだろう?それも、情報網の所から来たってこと…?…自分の謎で手一杯なのに、更に謎を増やさないでよ。
「で、ここの国王とライメイ島の国王が何で喧嘩してるのか分からないから、説得出来ない…こんなとこ?」
「…何でわかるの?」
「女の勘…って言うのは冗談で、これも情報網の情報」
…その情報網で、僕の事も分からないの?知らないことなんてほぼないみたいな感じで、その情報網は…一体どこまで張り巡らされるんだろうか。
「じゃあ、何で戦争してるのかも知ってるの?」
「それは知らない」
「案外こいつの情報網も宛になんねぇだろ?」
「仕方ないでしょ?情報にもお金がかかるの!」
まぁ、ただで渡すなら、そのポケモンはいいやつだよね。結局…情報集めをしないといけないってことか。
「じゃあ、情報集めに行くか。手分けして探そう」
「そうね。私はレヴェンテと行くとして…貴方たちはどうするの?」
「俺はアヤと行く。どっちに来るかは、ケルマが決めていいぜ?」
え…!?い、いきなりそんなこと言われても…!ど、どうしよう。うーん。僕が迷っているとき、アヤはみんなに背を向けて、ランドの腕を引きながら歩って行く。
「あ、アヤ!?」
「ケルマはそっちにいて。その方が安全でしょ?」
「まぁ、妥当ね。2時間後にもう一度ここで会いましょう」
「…ケルマに傷つけたら、ただじゃおかないから」
そう言って、アヤはランドを引き連れてスタスタと行ってしまった。すぐに会えたのに、またすぐに別れることになるなんて…アヤは、まるで変な意地を張ってるみたいだった。…いや。その通りなんだろう。
「…じゃあ、行こうか」
「時間がない。なるべく急ごう」
僕とフェルとレヴェンテ。そして、アヤとランドで別れた2チームの情報集めが始まった。
その道中。アヤたちはと言うと…。少しピリピリしているアヤの横で、ランドが気まずくなっていた。
「あれで良かったのか?」
「何が?」
「本当は、自分がケルマを守りたかったくせに」
ランドがそう言うと、アヤはますます顔がしかめっ面になっていった。ランドは、入ってはいけない領域に入ってしまったと、今になって後悔した。でも、もう後戻りは出来ない。
「……悔しいけど。今の私じゃ、フェルには敵わない。この3日間の間も特訓してたけど、それで勝てるなんて思ってないもの。今は…今のうちは、ケルマはフェルと一緒にいた方が安全よ」
「妬いてんのな」
「い、いや!別に妬いてなんて…いや。はぁ。これは妬いてるわ」
いつも通りのアヤに少し戻って、ランドはホッとした。本当のことなら、ランドもケルマともう少し一緒にいたかった。久しぶりに会えて、とても嬉しかった。
「て言うか、ごめんねランド。なんか…あの場にいたくなくて」
「いや。ケルマが無事だったってだけで十分さ」
アヤがいつも笑って許してくれるように、ランドも笑って許す。これが、この2匹の関係だから。いつも…そうしてきたから。
「さーて!ケルマのためにも、いっちょ頑張って行きますか!」
「だなー」
2匹はこれからも共に歩んでいく。でも、その笑顔も…もう少ししてから壊れることを…2匹は知らない。