1話
〜1〜
………。
……………。
……う。うぅ…。どうして?身体中が痛い気がする。目の前はまたしても闇しかない。ヤバイ…もしかしたら、今度こそ本当に死んだのかもしれない。
…いや、あり得ないか、実際僕は今こうして喋ってるし、なんとなく意識がある。ただ、現実じゃないところにいるだけだ。ダメだよ。早く目を覚まして。早く…。
「う…」
目を覚ますと、目の前には空があった。でも、なんとなく…空が赤い。明らかに、僕が最後に見た記憶と場所が違う。
「起きたの?」
その声に反応して、僕は体を起こしてみた。
目の前には…“ピカチュウ”。でも、アヤじゃない。腰に剣はあるけれど一本だし、首からは紫色の水晶をぶら下げてる。
「君は…!」
「構える必要はないわ。私は、貴方と今戦うつもりはないから」
敵意は…ないみたいだ。それでも、まだ完全に安心するわけにはいかない。彼女は僕達を襲ってきた張本人なのだから。
一回落ち着こう。周りには僕と彼女しかいない、景色も違うと言うことは…ここはもう知らない場所と考えた方が良いかもしれない。
「いくつか、僕から質問をさせてくれないかな?まず、君の名前は?」
「フェル・ムーンよ」
「フェルだね。あと、君は…何を知ってるの?」
「…貴方のこと。そして、世界のこと」
「それじゃあ、最後。その君が知ってること、すべて教えて」
ただ、この質問だけはすぐには返ってこなかった。表情は無表情で、何を考えてるのかが変わらない。そして、少しの間の沈黙が終わった。
「貴方のことは話せないけど、世界のことなら話せるわ」
僕のことは…話せない?でも、これ以上追求できないな。そう思うと、僕はこの世界のことは全然知らない。僕のことも大切だけど、この世界のことを知ることも大切だよね。
「そっか。じゃあ…この世界について詳しく教えて」
「分かったわ。はい」
そう言って、フェルは僕に紫の水晶を渡した。…これをどうしろと?
「使い方はわかるわね?力を解放すればあとは、大体分かるから」
「え、あ…うん」
フェルの言う通りに、僕が赤い水晶を使うのと同じように力を解放してみる。すると、いろんなビジョンが頭の中に広がってる。
この世界は、ポケモンだけの世界。昔は魔法が主な主動力で、魔法を使えるポケモンが多かったらしい。今は科学が発展して、魔法を使えるポケモンは限られてきた。だから、この水晶を作って、魔法の存在をなくさないようにしたらしい。
「うわっ!」
急激に現実に引き戻されて、少しだけフラついた。それでも少し分かったような気がした。
「どこまで見た?」
「え?」
「その水晶にはこの世界の成り立ちの記憶しかないの」
「うーんと。この世界の魔法について…かな?」
「そ。なら、あとは、歩きながら話すわ。こっちよ」
また歩きながらの説明!?みんな歩きながらが好きなのかな?それとも…時間がないから…この世界は…いったいどうなってしまってるんだろう?
「この世界は…4つの島国で成り立ってる。一つは雪国のフローズスト。二つ目はこのフレイメル群島。三つ目はこのフレイメル群島と今戦争中のライメイ島。四つ目は唯一魔法が発展しているマリージア」
「ちょっと待って!?今戦争って言った!?」
「言ったけど?この世界のことに関したら、小さなことよ」
大問題な気がするんですけど…!戦争に巻き込まれたらただじゃすまないよ。しかも国同士の戦争なら、尚更だ!
でも、僕はそれよりももっと気になってることがある。
「ねぇ。僕と一緒にいた“マニューラ”と“ピカチュウ”は?」
「さぁね?殺してはないけど、貴方が気になるなら追ってくるでしょ」
二人はいない…てことは。もしかして…。
「僕誘拐されたの?」
「誘拐じゃない。あそこにいても、なにも進展しないと判断したから連れてきただけ」
「それを誘拐って言うんだけど…!」
フェルは特に何も気にしない様子で、たんたんと事を進めていく。もしかしたら、フェルはあんまり感情的になりにくいタイプなのかもしれない。
「ねぇ。これからどこに行くの?」
「この国の王のところよ」
小さいことって言ってたわりには気になるのかな?それにしても…ここは暑い。まるで溶岩が近くで流れてるみたいだ。
でも、僕はものすごい光景を目の当たりにすることになる。少し開けたところにつくと、川の代わりに溶岩が普通に流れていて、橋は石で作られ、火山と思われる山からは煙が出ていた。
「溶岩…」
それから、僕たちは何も話をすることはなかく、ただひたすら歩いた。何もかもが珍しく感じた僕はキョロキョロと周りを見回す。
この島には、炎タイプのポケモンが多いみたいだ。他にも、岩タイプに地面タイプ、そしてかくとうタイプ。暑さに強いポケモン達が暮らしてるみたいだった。
「ついたわよ」
僕達がたどり着いたのは、岩で作られた大きなお城…と言うよりも砦のような感じの建物だ。ランドのアジトも岩でできていたが、そんなものとは比べ物にならなかった。
ランドは自然にできた洞穴に住んでいるだけで、自分で作った訳じゃない。でもこの岩の砦は、明らかに人工物だった。全体的に四角く、窓も四角い。ただ、完全に開きっぱなしで窓みたいにガラス張りではない。
「うわぁ…」
「…」
僕が感動に浸っていると、フェルはまたスタスタと歩き出す。僕はあわててフェルの背中を追った。
砦の中は少しひんやりしている。日が入る所が少ないからだろう。日陰のお陰で少しだけマシになった気がした。長い廊下を歩いていると、とある一室についた。部屋にはドアではなく、布が上から垂れ下がっている。
「レヴェンテ?いる?」
「…入れ」
フェルは扉の前で中にいるポケモンに許しを得ると、布をめくって中に入った。もちろん、僕もそれに続く。中には、“ボーマンダ”と言うポケモンがいて、あまりの迫力に少し後退りしてしまった。
「そっちはどう?」
「予想通りだ。アイツ、話を聞く耳なんてこれっぽっちも持っちゃいねぇよ」
「そう…まぁ、分かっていたことではあったけど…正直辛いわね」
この2匹は何を話してるんだろう?アイツ?話?説明されてないせいで、何を言ってるのか全くわからない…。すると、レヴェンテと呼ばれた“ボーマンダ”が僕の方にやっと気づいたみたいだ。
「あの時の…」
「え…あの?」
「いや、何でもない。俺はレヴェンテ。お前と同じ水晶使いだ」
どうやら、悪いポケモンではないらしい。そして、僕と同じ水晶使い。レヴェンテさんはどんな魔法が使えるんだろう?
「僕はケルマです。よろしくお願いします。レヴェンテさん」
「さん付けも敬語もしなくていい。これからは、長い付き合いになりそうだからな」
「あ、うん。分かったよ。で、そろそろ僕にも説明してくれない?君達は…何が目的なの?」
長い沈黙の後に、フェルが重い口を開いた。
「───私達の目的は、この世界を救うこと」
そして、これから少しずつ僕の明らかになっていくことになる。そのきっかけが、ここから始まる。