6話
〜1〜
「ライメイ王家第一王女、国王ラネールの娘。アヤであるぞ!」
「ええ!?」
あ、アヤが王女様!?
僕もセクトも、もちろん2匹の門番も、驚愕の顔をしていた。門番は戸惑った様子で、お互いの顔を見た。
アヤは、それを見たからか、懐から何か紋章がついたブローチを取り出した。
「ほ、本当にアヤ様?」
「でもこれって……王家の紋章…」
「そこを通してくれるかしら」
「「は、ハイッ!どうぞっ!お連れの皆様も!」」
門番は手に持ってた槍を戻し、地面に槍の後ろを同時に叩きつけた。カン!と言う音と共に扉が開く。
「さっ!入ろ?」
そう言って、アヤはスキップしながら入っていく。僕たちはそれを追いかけた。
中は広いエントランスに奥に階段があり、左右に続く扉、何よりも目についたのは大きなシャンデリアだった。
「うーん。相変わらず綺麗だねー」
「すごい…床がピッカピカ」
「そりゃ、毎日磨いてるもん」
当たり前と言うように、アヤは平然とそう言った。
すると、階段の上の方から誰かが大急ぎでかけ降りてくる。そのポケモンは階段の踊り場で立ち止まると、息を上げながらアヤを見つめた。
「アヤ様…!」
「久しぶり。エド」
エドと呼ばれたそのポケモンの種族は、“エルレイド”と言うポケモンだった。モノクルをつけているところから、なんとなく執事のような気がした。
「お久しぶりです。そちらのお方がたは…?」
「私の仲間で……友達?」
「俺に聞くなよ」
友達かどうかは曖昧だったからなのか、アヤはランドに問いかけた。ランドは居心地悪そうに素っ気なく返す。
「うーん。じゃあ、友達」
「じゃあってなんだ」
「それは失礼いたしました。私、アヤ様の執事のエドワードでございます」
「はじめまして。僕はケルマです。こっちがフェルとレヴェンテ、ランドとセクトです」
「ま、ランドははじめましてじゃないけどね」
アヤがランドに聞こえるよう、わざとらしく大声でそう言った。ランドは更に居心地が悪くなったのか肩をくすめて小さくなろうとしているみたいだった。
「ランド様は、アヤ様がまだとても小さい頃からのお付き合いですから」
「ランドはうちの壁登って私の部屋までよく遊びに来てたもんねー?」
「頼むからもうやめてくれ…」
ランドは顔を真っ赤にして俯いた。男心もかなり繊細なんだよ。うん。なんとなく僕も分かる気がする。でも、今ここで慰めたら余計に酷くなりそうだからやめておこう。
「そういえば、みんなは?」
「他の皆様でしたら、もうそろそろでご到着になるかと」
エドワードさんがそういうのと同時に、階段や左右の扉からメイドさんやコックさん、さらに他の執事さんたちもやって来た。
「姫様!見ない間にお綺麗になられて…!私は…私は…!ピィー!!!」
「私、ピィーって言いながら泣くメイド長初めて見ましたよ…」
「あはは…泣かないで?ね?」
アヤの胸で泣くメイド長は、泣き止む事がない。他にも、アヤの周りを取り囲むポケモンたちとアヤはとても仲が良いみたいだった。
「みんな…変わらないね」
アヤは優しくそう呟いた。その表情はとても軟らかく、安心しているのがすぐに分かる。アヤは、このポケモンたちの中で育ったから、優しいポケモンになったんだと思う。そのポケモンの性格は、子供のうちにどんな生活をしていたのかに…よるものらしい。
すると、一匹のメイドが慌ただしく階段をかけ下りてきた。
「アヤ様。ラネール様が謁見の間まで来るようにと」
「分かった。今行く」
アヤはメイドにそう笑顔で言ったが、すぐにその顔は曇ってしまった。アヤとお父さん…この二人にはどんな隔たりがあるんだろう?
「っとその前に…エド、今日はうちに泊まるからみんなに部屋を用意してあげて。私の大切な友達だから、手抜きは許さないからね?」
「はい。極上のスイートルームをご用意させていただきます」
極上のスイートルームか…こう言う所じゃないと滅多に泊まれないよね。でも、そうなるとよりいっそう居心地悪くなっちゃうポケモンが…。
「……」
「ランド。何でムスってしてるの?」
「別にしてない」
「なに?スイートルームが嫌?それなら一緒に寝る?」
「馬鹿にしてんだろお前!」
ランドが顔を真っ赤にして怒っても、アヤには何の効力も発揮しない。逆に笑っちゃってる位だ。ランドをからかって楽しんでる。
「さ、パパ様の所に行きますか。みんなもついてくるでしょ?」
「当たり前でしょ。何のためにここまで来たと思ってるのよ」
「ま、だよねー」
アヤが軽く笑いながらそう言うと、ボソッと小さな声で呟いた。僕にはかすかに聞こえるぐらいの声。みんなに届いてるかは分からないけど…アヤは確かにこう言った。
「そんな理由もなかったから、私だって来てないもん」
「え…?」
その言葉に、僕は思わず反応してしまった。反応せずにいられなかった。だって、その時のアヤの声の感じは、どう聞いても憎しみと怒り、そしてほんのちょっぴりの後悔が混じってたから。
「さっ!ちゃちゃっと終わらせて、後はゆっくりしよー!」
「そんな時間も惜しいわ」
「働きすぎも体に悪いでっせ?フェルの姉貴?」
「その呼び方止めて」
もはやフェルにも敵意を向けることなくいじり始めた。今までの愛称の悪さが嘘のようにアヤは平然と笑ってる。少し…怖いくらい。
「アヤって、いつもあんなテンションなの?」
セクトが僕の耳元で誰にも聞かれないように訪ねてきた。ついさっき会ったばっかりだから、まだよく分からなくて当然だ。
「いや…そんなことはないよ?ただ、今は少し無理してるんだと思う」
「やっぱり?なんか…あんなにキラキラした笑顔なのに、すごく辛そうに感じる」
あんなに辛い無理した笑顔を見るのは、こんなにも自分も相手も辛いなんて…。相手を心配して笑うけど、心には嘘をつけないから…隠しきれない。
それを見て相手も笑顔で返すけど、その笑顔も辛い…分かってるから、分かってるから…よりいっそう心が痛い。
すると、ランドがいつになく怖い顔でアヤに話しかけた。
「…アヤ」
「なに?」
「もう、笑うな」
「…は?」
アヤにしてみたらその言葉はものすごく心に刺さった。気づいてるのは知ってる。でも、だから…だからこそ、気づかないで、気づいてないフリをして。そうじゃないと───
「もう、そんな辛い笑顔は止めろ」
「何が?私、辛くないよ?」
「じゃあ…何で泣いてんだよ」
────押さえ込んでた物が、全部出てきちゃうじゃん。
「うぅ…!ランドの馬鹿!!アホ!何で乙女心が分からないの!?悪魔!鬼!ランドなんかだーーーい嫌い!!ケルマの方がよっぽど可愛いげあるし、良い子だし、理解してるし、善人だもん!!」
「そこまで言われるとは思ってなかったわ!?」
「ランドなんか、干からびて道端で行き倒れて死ぬのがお似合いよ!!」
「俺の扱い酷い…」
「でも…ちょっとだけ、好き」
アヤはランドに自分の押さえてるものすべてをぶつけまくった。ちょっとだけ?そんなわけないじゃん。大好きだよ。だーーーーい好き。愛してはないけど、大好きだよ。友達として…ね?
「ありがとう」
「…おう」
うん。これでいい。ランドが愛してるのはエルだもん。私も大好きだけど、別に愛してないしね。だから、たまに勘が鋭いこいつが恨めしく思う。
全く…変なところで気づきやがって…。
「アヤ…大丈夫?」
「うん!スッキリ爽快もう大丈夫!よし、じゃあ行こっか」
ぜーんぶ。スッキリしたところで、私達は進んでいく。
これから先にあるのは地獄。それが分かってるのは、多分私とランドだけ。でも、どんな地獄でも、見なきゃいけないから…だから、もう…目は背けない。
だって、私には一緒にいてくれる仲間であり、友達がいるから。