5話
〜1〜
「で、どうやっていくの?」
アヤがみんなにそう指摘する。言われてみたら、確かに…!としか言えなくなってしまう。
「レヴェンテ」
「仕方ないな…」
レヴェンテはそう言うと、自分の首を下げて、地面に伏せる。これって…乗れってこと?
「ほら。早く乗れ」
「え、良いの?」
「緊急事態だ。仕方ないだろ」
「じゃ、そーゆうことなら、遠慮なく♪」
レヴェンテがそう言うと、ランドは何の躊躇もなしにレヴェンテの背中に飛び乗った。その後に、フェルが無言でレヴェンテの背中に乗る。
「よーし!行くよケルマ!」
「うん!」
僕はアヤと同時にレヴェンテの背中の上に乗った。ドラゴンポケモンだから、固いのかと思ったが、案外柔らかい。乗り心地は悪くはなかった。
「それじゃあ、行くぞ」
レヴェンテはゆっくりと起き上がり、真っ赤な翼を羽ばたかせた。ある程度の高さまで飛ぶと、今度は斜めに上がっていった。
背中に乗っているとはいえ、しっかり捕まっていないと落ちそうになる。島が見渡せるぐらいまでの高さになると、そのまま平行にスピードに乗りながら飛んだ。
「死ぬっ!」
「なんか言った!?」
「全然聞こえないよー!」
声が聞き取れないほどの風圧で、下手したら舌を噛んでしまうかもしれない。フェルは分かっているのか、それとも興味がないのか分からないが、喋ろうとしない。
「着いたぞ」
レヴェンテは急ブレーキをかけて、後ろに仰け反った。またしても振り落とされそうになる。空の旅って、もう少し楽しいものだと思ってた。早すぎて一瞬で終わった気がする。
「あれがライメイ島だ」
ライメイ島上空には、小さな黒い雲が点々としている。あれは雷雲だろうか?ライメイの名の通り雷が多い地域なのかもしれない。だから、
雷鳴島。
「降りるぞ」
「そっと。そっとね?」
アヤがレヴェンテにそう言うと、レヴェンテはそっと静かに降りた。今度はジェットコースターのように急降下するのかとヒヤヒヤしたよ。
船を着ける桟橋の近くに降りると、その先には街があった。ここがライメイ島の首都なのかもしれない。
「ここは、ライメイ島の一番大きな街。“クロウム”よ」
「知ってるの?」
「まぁね。一応…ここ出身だし」
僕はずっとアヤはフローズスト出身だと思ってた。あそこで暮らしてるし…詳しいみたいだったから、てっきり。
後で知ったことだけれど、電気タイプポケモンは、ここ出身が大半らしい。でも、フェルは違うみたいだ。
「で、またここの国王様に会いに行くの?」
「その前に、ここにいる仲間と合流するわ。こっちよ」
もう1匹の仲間がいたんだ。今度はどんなポケモンなんだろう?同じ水晶使いだろうか?僕の想像はどんどん膨らむ。
僕たちはフェルに続いて街の奥にやってくる。そこにはホテルが多くあり、そのうちの1つに入った。仲間の部屋は2階にあるようで、206号室と言うプレートが貼られている部屋の前についた。真っ先に、フェルがノックする。
「セクト。私よ」
フェルがそう言うと、ガチャっとドアが開いて中から“フライゴン”が出てきた。首からはピンク色の水晶がぶら下がってる。ペンダントにすれば無くすことはないから、案外いいのかもしれない。
「フェル久しぶり。あ、あとレヴェンテも!で…この子達は?」
「あ、僕はケルマです。こっちがランドで、こっちがアヤ。今はフェルとレヴェンテと一緒に世界を救うために動いてるんだ」
「じゃあ仲間ね。私はセクト。よろしく!」
明るくていい子のようだ。アヤと愛称が会うかもしれない。セクトはピンク色の水晶みたいだけれど、どんな魔法を使えるんだろう?
「ここじゃなんだし…どうする?入る?」
「入りたいんだけど、今は時間がないわ。外に行きましょ」
「分かった。じゃあ、こっちの情報を伝えるね」
2匹がそんな話をしているなか、アヤはどこかソワソワしていて、落ち着かないみたいだった。ここに来る前もそうたったけれど、どうしたんだろう?何かあるのかな?
「アヤ。大丈夫か?」
「……正直大丈夫じゃない」
「ならなんで来たんだ。お前、この島嫌いだろ」
「嫌いだからとか、そんな理由じゃただのワガママじゃない。それに…私、もう一度ここに来ることがあったら、今度こそ変わろうって決めてたから」
「…そうか」
僕はアヤとランドのそんな話を聞いて、アヤがソワソワしている理由がなんとなく分かったような気がした。アヤは昔この島で何かあったんだ。でも…それが何かは分からないけど…。
「ねぇ…」
「何?」
「国王の所に行くんでしょ?なら…私に任せてほしいんだけど」
「どういう風の吹き回し?あなた、そう言うの嫌いそうなのに」
「もちろん嫌いよ。でも、私の方が話してくれる気がするの」
「…そう。なら、やってみたら?」
フェルはそう言うと、歩き出す。レヴェンテも歩き出して、僕はどちらかと言うとアヤの方が気になったけど、フェルとレヴェンテの背中を追った。
「ごめんね。フェル、悪気はないんだけど、あんな風にしか話せないから…」
「大丈夫だよ。冷たくさせるのは、慣れてるから」
アヤはそう言って、3匹を追いかけた。ランドとセクトもそれを見て歩き出そうとする。そのときに、セクトが呟いた。
「そう言う意味で言ったつもりはなかったんだけどな…。なんか、悪いことしちゃった」
「…あいつの父親は」
「え?」
「あいつの父親は、いつもあいつを冷たい目で見てた。本当は寂しかったけれど、心配をかけたくなくて、みんなの前では無理して明るくしてた。でもその裏で、あいつはずっと1人で泣いてた。大切な奴に大切にされない気持ちは…痛くて…辛いかんだ」
ランドはそう言うと、また黙りこんだ。セクトには、その意味がまだ理解できなくて、少し悲しそうなランドの顔を横で見ていた。
外に出ると、ランドとセクトが合流してそのまま国王の元に向かうことにした。そして、歩いているときに、僕は不意に質問した。
「国王様ってどんなポケモンなの?」
「種族は“レントラー”。性格は…国王絶対主義の冷酷冷徹血も涙もない…感じ?」
「色々酷くない?」
「でも、国民だけは大切にするポケモンだよ」
けして悪いところだけじゃない…みたいだ。それにしても…アヤはどうしてこんなに詳しいんだろう?いくら出身地だからといえ、知ってることは限られると思う。…そういえば、アヤには情報網があるって言ってたよね。これもそうなんだろうか?
「さ、ついたよ!」
僕らの目の前には、お城があった。でも、ただのお城じゃない。何て言うか…お城が岩の中に入ってる?いや、岩から掘り出されたって言った方が正しいね。
「岩から飛び出てる…」
「大きな山の岩盤を掘り出してるからね。中はけっこう広いんだよ?息苦しいだけで…」
え…?なんでアヤがお城の中の構造を知ってるの?まさか…入ったことあるのかな?でも、息苦しいって言うなら、そう…なんだよね?
…ますますアヤが謎の人物になった。
「よーし!じゃあ入りますか!」
「入りますかって…そんな簡単に入れないよ?私でさえ門前払いだったのに」
セクトが不満を少し愚痴った。1匹で門前払いなら、こんな団体で行ったら門前払いは目に見えてる。
「まぁまぁ。私に任せなさい!」
アヤは自信満々に胸を張って僕たちにそう言った。もちろん僕とセクトは心配そうな顔をしてる。ランドとレヴェンテ、フェルは平然としていた。
たまに思うけど、レヴェンテとフェルにとっての衝撃なことってなんだろう?常に平然としていて、感情がつかめない。
僕たちはそのまま城の入り口の所までやって来た。もちろん、当然の如く門番が道をふさいだ。
「何奴!ここから先には通すわけにはいかない!」
「……我を誰と心得る」
アヤが少し低めの声で、門番を睨み付けながら言った。いつもの元気な姿と違って、どこか威厳がある。
そして、アヤは次にとんでも無いことをいい放つ。
「ライメイ王家第一王女。国王ラネールの娘、アヤであるぞ!」
「えぇ!!?」
僕とセクトはもちろん、門番も驚愕した顔をしている。ランドは何でもない、そう言ってるような顔つきで、フェルとレヴェンテは流石に今回は、興味深いと言う顔つきになっていた。
本当の激闘が、ここから始まる。