3話
〜1〜
ランドのアジトの程近く。僕が倒れていたと言う雪山の麓にある“プルミエ遺跡”は、入り口の屋根に雪が積もっていた。
「あーー!寒っ!」
「そんな薄手だからだろ」
「良いわよねー。毛が多い炎タイプと、寒さに強い氷タイプだから全然寒くなくて!」
確かに…僕には毛がついてるし、炎タイプだから寒くないってイメージがあるかもしれないけど、実際は寒いからね!?毛とか炎とか関係ないから!でも、そんなこと言ったら、アヤに怒られそう…もはやすでに睨まれてるのに…。
「そんなこと良いから入ろうぜ?早くしないと凍りつくぞ」
「あっ!ランド待って!」
ランドはそう言うと、遺跡の入り口を開けて中に入っていった。それに続くように僕とアヤも一緒にはいる。
中は外ほど寒くは無いが、冷蔵庫の中みたいに冷えきってる。冷凍庫から冷蔵庫に入ったみたいだ。そのせいなのか、中も所々凍りついている。
「あーー!寒っ!中に入ってもそんなに変わらないし!」
「そんな薄手で来るから」
「わーってますよ!私が悪いんですー!さっ!こんなところさっさと抜けよ!」
そう言って、アヤは体を震わせながら歩く。それに、僕とランドも続いた。すると、目の前から“グラエナ”の大群がどこからか沸くように出てきた。
「おっと!来ましたか…!まぁ、大体分かってたけど!」
「な、何なのコイツら!?」
「雑魚だけど、この神殿の警備兵みたいなもんさ!さ、いくぞ!」
「行くぞって!僕戦えないよ!」
「最悪“体当たり”でもしとけ!」
「そんな無茶な!」
アヤは2本の剣を抜き、ランドは構えた。それを見てなのか、“グラエナ”の大群は飛びかかってくる。
「ハァァァッ!!」
「ギャン!」
アヤは2本の剣でどんどんなぎ倒していく。長めで、幅もかなりある双剣を舞うように振るっていく。よく見ると、赤と青の龍が彫られた剣だ。
「“切り裂く”!」
「ギャァァァ!!」
ランドは自慢の鍵爪を使って戦っていた。どうやら、“グラエナ”の大群は、本物のポケモンじゃないらしく、倒れた後に、煙のように消えていた。
「グァァァ!!!」
「ハッ!」
二人の戦い方を見るのに必死すぎで、後ろから来た“グラエナ”に気づいてなかった!ヤバイ!やられる!
そう思って目をつぶった瞬間に、僕の体から赤い光が放ち、足元には魔方陣が出てきて、どこからともなく炎が現れ“グラエナ”を焼き払った。
「…え?」
今までの寒さが嘘のように体が暖かい。まるで南国の島国にいるみたいだ。恐る恐る目を開けると、自分の体が燃えていた。燃えているはずなのに、けして熱くはない。暖かいと言う感覚があるだけだ。
「来たか…!おいケルマ!」
「な、何?」
「それが、お前の持ってる赤い水晶の力だ!」
「これが…水晶の…力」
懐から赤い水晶を取り出すと、今まで以上に赤く光輝いていて、眩しいぐらいだった。
「今のお前ならいける!どんどん凪ぎ払え!」
「……うん!やってみるよ!」
もう一度目をつぶって、周りにいる“グラエナ”全てを焼き払うイメージをした。すると、自分の体の炎が荒ぶるように回り始め、“グラエナ”達を巻き込みながら大きな渦に変わった。
「おっ!やれば出来んじゃん!」
全てが終わった後には、“グラエナ”達が煙のように消えるところで、赤い水晶のあの輝きも収まり、体に付いていた炎も無くなっていた。
「ケルマやるー!ランドより役に立つー!」
「おい!一言余計だ!」
アヤが剣を閉まって、僕の方に駆け寄ってきた。何よりも、僕はこの二人に絶対に聞きたいことがある。
「ねぇ。二人はこの水晶について、何を知ってるの?僕に隠してる事があるよね?お願い!今回ははぐらかさないで、ちゃんと教えて!」
「……だってよ」
「何?私が説明するの!?」
「俺はそう言うのは不向きなんだよ。さ、説明はアヤが歩きながらしてくれるから、行こうぜ」
そう言ってランドは先に歩き始めた。アヤもため息をつきながらランドの背中を追いかける。僕もそれに続いた。
神殿の床も氷でできているせいか、ツルツル滑る。
「…さて、じゃあ…まずはその水晶についてね。その水晶は、魔法を発動することができる代物なの。その魔法は、水晶の色によって変わるんだけど、ケルマの持ってるのは、炎の魔法を使える水晶ね」
炎の魔法…だから、体が燃えていても熱くなくて、足元にも魔方陣が現れていたのか…。
「と言っても、私達も知ってることがまだそんなに多くないの。その水晶がこの世界に後いくつあるのかとか、その水晶が何でこの世界に生まれたのか…とか、色々謎が多い部分もあるんだけどね」
つまり…この水晶があったから僕が魔法を使えた…って言うことだよね。
「でも、何で僕に隠してたの?」
「本物の水晶使いか分からなかったからな。まぁ、試した…って感じさ」
その言葉を聞いて、なんか気が抜けた。でも、ちょっとショックでもあった、試されたいたって言うことは、信用されていなかったんだよね。
「ま、見た感じ誰かを騙そうとするような雰囲気は出てなかったし、半分信用してたんでけどね。ランドも珍しく気に入ってたみたいだし」
「え?」
「こいつね。他のポケモンを一切信用してないから、こういう風に絡んでくるの珍しいの」
ランドは何も聞いてないかのように、スタスタと歩って行く。盗賊って言うのもあって、あんまり周りのポケモンを信用してないのかな?アヤは…ダチって言うぐらいだから、信用はしてるんだろうけど…僕も…なの?
「お、そんなこんなしてるうちに、着いたぜ?」
目の前には、キラキラと青く光輝く青い水晶が空中に浮いていた。なんとなく、冷気が一気に強くなったように感じる。
「ここの封印が解けるのは、水晶を所有している水晶使いだけ。ケルマ。お願い」
「うん」
……と言ったものの、どうやって封印を解くのか全然知らないんだよね。うーん。と、とりあえずこう言うのってゲームだと触れると封印が解けるみたいな感じだよね。
そーっと前に手を伸ばすと、パリンッ!と言う音と共に、結界にヒビが入り、ガラスが割れるように周りに細かく散らばった。
「え、うそ」
青い水晶の光がよりいっそう強まって、目の前が眩むぐらい光輝くと、青い水晶はフワッと移動しながら、ランドの前で止まった。
「ランドが良いみたいね」
ランドは青い水晶を手に取ると、青い光はおさまった。この水晶は…どんな魔法を使うことが出来るんだろうか?
「青い水晶って、僕が持ってる赤い水晶見たいに魔法が使えるんだよね?どんな魔法か、二人は知ってるの?」
「青い水晶は、氷の魔法が使える水晶。氷タイプなら相性良いんじゃない?」
「ま、とりあえず帰るか。早く出て暖かい食いもん食いてー!」
そう言ってランドはいきなり走り出した。それを追いかけるように僕とアヤも走り出す。これから訪れる転機に…僕達は予想もしないまま、今の楽しさを満喫していた。