2話
〜1〜
次の日。ボルトは誰よりも早く起きて、外に出ていた。ちょうど日の出だったみたいで、目の前に太陽が山の隙間から顔を出す所だ。
「スゥーハァー」
深呼吸してみると、朝で涼しい空気がとても美味しく感じた。こう言う都会の喧騒を忘れて、自然の中に身を奥と言うのも悪くは無いですね。
山の隙間から顔を出す太陽が、優しくボルトを暖かく包み込んで、心地よい。
「いい場所でしょ?」
「っ!?」
後ろを振り返ると、サファイアがマグカップを二個持ってドアの前に立っていた。ボルトは驚きを隠せなくて、顔が強張っている。
「いつからそこに?」
「うーん。君が起きてきたときから…かな?」
そう話ながら、サファイアがボルトに近付いてくる。ボルトは、サファイアだけに対してよそよそしいのには理由がある。サファイアは、それにちゃんと気がついていた。だからこそ、話さないといけない。そう思って近付いたのだ。
「はい。ココアだけど…甘いの大丈夫?」
「あ。す、好き…です。ありがとうございます」
「それは良かった」
サファイアに渡されたココアを飲むと、ココアの甘い味が舌を刺激した。少しほろ苦い後味が、更に甘さを引き立たせてる。温かさが体の隅々に行き渡るのが分かった。
「ねぇボルト君。1つ聞きたいんだけど…良いかな?」
「…はい。僕に答えられることでしたら」
サファイアは、一呼吸置いてから話始めた。ボルトも今回は、真剣な目付きで真っ直ぐ昇ってくる太陽をサファイアと一緒に見つめる。
「君の名字って…もしかしてエステールかい?」
「…はい。確かに僕はボルト・エステール。東州の皇帝カルス・エステールの息子です」
覚悟して、全てをさらけ出した。ボルトは、サファイアの過去、更に父親との関係を知っている。だからそこ、あまり関わりたくはなかった。それに、サファイアもあんな父親の息子とは関わりたくないだろう。…そう考えてなるべく遠ざけていた。
「やっぱりね。君はお父さんに顔がそっくりだ。1発で分かったよ」
「出来れば…母上に似たかったのですがね」
もちろん、子は親を選べない。花が咲く場所を選べないのと同じだ。そんなの…十分理解してる。だから…半分諦めてる。でも、たまに恨ましく思えてきて、選べたらどれだけ良かったか…自分が、こんなポケモンではなく、完全に父と性格も何もかも同じだったら…どれだけ楽だろう。
「あんまり気落ちしない方がいいよ?」
まるで、自分が思っていること全てを知り尽くしているかのように、サファイアさんは僕を笑顔で見つめていた。
「君がこの世に生まれてきたことを…君が君であることを…憎むのは間違ってる。君がこの世に生まれてきたことも、君が君であることも、この世にとっては何か重要なものなんだ。それが何かは分からないけど…それでも、君のその命は、何か意味がある。そう思えないかい?」
その言葉は、どこか説得力があった。僕に…僕のこの命に意味がある。そういう風に思ったことは今までなかった…。確かに、そう思うと自然と前を向ける気がする。これを希望が見えたと言わないで、なんと言う。
「…そうですね。ありがとうございます」
「何が?僕はなにもしてないよ?」
「いえ…貴方は、敵の息子である僕を…ずっと苦しんでいた呪縛から解放してくれた。とても感謝しています。それと…ココア。とても美味しいです」
「それはそれは。どういたしまして」
それから、サファイアとボルトは日が完全に昇って、みんなが起きてくるまで、ずっと話していたそう。ボルトは、いつもよりも笑顔が絶えなかった。自分でもそう感じるぐらい楽しかった…そうだ。
〜2〜
「うーーーん!!!」
ファイアと僕。そしてボルトは薪割りの手伝いをしていた。元々助けてもらった恩もあるし、落ちつくまでここにいることになったから、ちゃんとお手伝いはしないとね。
「大分割ったかな?」
「……ファイア。まだ20本しか割ってないよ…」
薪割りを初めて30分。大体のノーマルを100本にして、薪割りをしている。僕はあと5本で終わる。ボルトはもう100本割り終わって、洗濯の手伝いをしていた。
「大体、女の子なのになんで薪割りの手伝いなの?」
「だって、家事が出来ないって言ったのはファイアじゃないか」
「そうだけど…」
「そこ!お喋りしてる暇があったら手を動かしなさい!」
「ふぁ〜い」
ボルトに睨まれながらも、ファイアは“蔓の鞭”で薪を空中に放り投げると、“リーフストーム”で割るのを繰り返した。
初めからそれをすれば良かったんじゃないかな?
「あの…」
「うん?」
薪割りをしている僕とファイアの元に、“ピカチュウ”がやって来た。この村に住んでる子かな?
「君は?」
「あ、僕はトール・トリームです。この近くに住んでいて。フィンに会いに来たんですけど…あなたたちは?」
「僕はライル・カーテリアス。こっちは、ファイア・エスペラント。ちょっと事情でしばらくフィンの家でごやっかいになってるんだ。フィンなら家にいるよ?」
「ありがとうございます。それでは…」
そう言って、トールはフィンの家に入っていった。いい子だったな…やっぱり、この村にはチンピラみたいなポケモンはいないみたいだ。みんな優しくて、いいポケモンばっかりで。
…チンピラと言えば、悪ガキトリオは大丈夫かな?イタズラばっかりしてるけど、根は悪いやつらじゃないからね。優しい部分も…………あったかな?
「終わった…」
「お疲れさま。のついでに私のも手伝わない?」
「ちゃんと自分でやりなさい!」
「もー!分かりましたよ!」
ボルトに怒られて不機嫌だからこそ、ファイアの作業スピードが上がってる気がするのは僕だけだろうか?
ボルトって…相手の性格を一番によくわかってるよね…常々思うよ。
「ファイアー!ライルー!」
すると、フィンがトールに手を取ってもらいながらこっちに近付いてきた。表情だけだとよくわかりづらいが、どこか嬉しそうだ、
「どうしたの?」
「トール兄ちゃんに技マシンをもらったの」
「技マシンって、1枚6000ポケぐらいするあれ!?」
技マシンと言うのは、ポケモンに技を覚えさせるための物だ。普通のレベルアップでは覚えられない技も、覚えることが出来るようになる。ただ、希少価値が高いため、高値で取引されることが多い。何時、何処で生まれたかは謎になっているが、今のところ後遺症のような物は見られない。秘伝の技マシンもあるらしいが、僕はよく知らない。
「うん。私の誕生日プレゼントなんだ」
「必死になって貯めたお金で買ったからね…」
「へぇー!良かったね!」
トールってコツコツ頑張るタイプなのかもね。フィンの良いお兄ちゃんって感じだ。僕は一人っ子だったし、年上の知り合いもいなかったから、少し羨ましい…。
「中身はなんなの?」
「“守る”だよ?」
「フィンは、攻撃系の技が多いから、こう言う防御を入れた方が良いかなって思って」
「トールは優しいんだね」
「いや。そんなことないですよ」
照れてるのが顔を見たらすぐに分かる。ちゃんとフィンのことを考えてるんだな。
「そこーー!薪割りをさっさとしなさーい!」
「アイマム少将!」
嫌み混じりに言ったその一言は、またしても二人の喧嘩を勃発させる。そんな二人をなだめながら、僕達の1日が過ぎて行くのだった…。