6話
〜1〜
それから、カカに教えてもらった道を真っ直ぐ行くと、確かにY字路があった。えっと…次はこの道を…右?ひ、左?
「ねぇ、ライライ!次はどっち?」
「え、えーっと……多分左」
「多分!?」
仕方ないよね。自信ないんだもん。こうなったら…勘で進むしかないよ。
「と、とりあえず行ってみない?違ったら、戻ればいいし!」
「そうだね。じゃあ、行こう!」
フィンの案で僕らは先に進む。Y字路の先はなぜか青々と茂った草村で、仕方なく草むらを掻き分けながら、僕らはちょっと痛く感じながら歩った。
「………あーーー!!」
「な、何!?どうしたの!?」
ファイアが後ろで大声を発した。お化けは怖くないけれど、こう急に驚かされるのは得意じゃない。心臓が止まる…!
「痒い!体がスッゴク痒い!かーゆーいー!」
「それはそうでしょう。草むらを歩いてるんですから」
「そう言うボルルンはちゃっかり自分だけ空飛んでるじゃん!」
ボルトは今ちょうど僕の真上を飛んで…うーん。浮いてる?状況だった。ファイアが少し愚痴るのも、なんかわかる気がする。
「僕はちゃんとこの先を見るために飛んでるんです」
「そう言って、本当は草むらに入りたくないだけでしょ?」
「なっ!何で貴女はそういつも決めつけるんですか!」
「じゃあ違うの!?違わないでしょ?草むらに入りたくないって、心のどこかで思ってるんじゃん!」
知らない間に二人の喧嘩がヒートアップしてきた。二人の目と目の間に火花が散ってるように見えるのは僕だけだろうか?この二人って、こんなに仲悪かったっけ?そんなことないと思うんだけど…。いや、思いたいんだけど…。
「ふ、二人とも止めなって!」
「それでは言わせていただきますが、貴女こそ、そうやってなんでもかんでも相手のことを考えもしないで言うその発言。いい加減にしないと嫌われますよ!?」
「なっ、ボルルンに言われる筋合いないし!」
「良いですか?そう言うのを、自己中心的って言うんですよ。貴女の勝手な自己解釈で、周りを巻き込まないでください!」
ボルトがそう言いきると、二人はお互いを睨み合っておもいっきり顔を反らした。こんな風に喧嘩を見たことが無かったから、どうしたらいいんだろう。
僕とトールとフィンは、二人の間に出来たらかなり大きな溝を見ながら、戸惑っていた。
「とりあえず…行こうよ。ね?」
僕がそう言うと、二人とも歩き始めた。ボルトは飛び始めただけど。草むらを掻き分けながら、僕らは先に進む。
すると、開けた所に出てきて街の門と思われるところに横の方に看板があり、『“レリル”にようこそ!』と堂々と書かれてあった。ここが“レリル”…大都会ではなく、村と街の間のような感じだ。
「やっとついた…」
「今日はここで泊まるんだよね?」
「そうですね。とりあえず…宿を探しましょうか」
みんながそんな話をしているときに、僕は懐に手を入れた。でも、そこにあるはずのあれがどこにもなくて、必死になって探す。結局、どこにもなかった。
「無い…!無い無い無い無い…!!どこにも無い!」
「何が?」
「僕のペンダントが無い!どうしよう…大事なものなのに…。ごめん!僕、ちょっと探してくるから、先に行ってて!」
そう言って、僕はみんなのところから駆け出した。後ろの方から誰かの声がしたけれど、そんなことにはなりふり構ってられない。あれは…あのペンダントは…僕が彼女に送った最初で最後の誕生日プレゼントだから。
僕は草むらの中に飛び込んで必死に探した。もしかしたら、ここの中に落としたのかもしれない。もしそうなら、地面に落ちた針を探すのと同じぐらい難関だ。
「ライル!」
「トール…?どうしたの?」
僕がペンダントを探している最中に、トールが息を切らしながら走ってきた。どうやら、僕のことを追いかけてくれたらしい。
「僕も探すよ。どんなペンダントなの?」
「ありがとう…!えっと…銀色のロケットペンダントで、形は楕円形なんだ」
「分かった」
そう言ってトールは僕の左側を探してくれる。こういうときに、仲間って良いなと実感できる。それは、今まで僕に仲間や友達がいなかったからだと思う。だから、僕はこんなにも感謝を感じるんだ。
「うーん。無いね…」
「どうしよう…本当に大切な物なのに…」
草むらの中を必死に探した。顔に切り傷が出来るほど。でも、それでも見つからない。僕は、たった1つの彼女を感じられる物さえも失うのか。僕は、子供の時もちゃんと良い子にしてたのに。友達はいなかったけれど、両親のために出来る限りのこともした。僕の罪が重いのも知ってます。そんな僕のどこが悪い?どこがダメなの?そこをちゃんと直すから、もっとしっかりするから…だから、お願いだから返してください。これは流石にあんまりです。
「ライル…?」
知らない間に、僕は涙を流していた。母さんと同じ藍色の目から、僕は涙を流す。僕には、涙を流す資格もない。でも、勝手に出てくるんです。止まらないんです。自分の力じゃどうしようもないんです。僕の罪は、死んでも続くのは知ってます。地獄に落ちても構いません。でも、今だけ、今だけは、幸せな日々を送らせてください。どんな罰も受けます。一生生き返ることができなくても良いんです。お願いです。誰か───
「ライル…」
────僕を、たすけて。
「探そう!」
「え…?」
「大丈夫!絶対見つかるよ! だから、一緒に探そう!」
トールが僕の目をしっかり見ながらそう言い放つ。知らない間に僕の目から流れる涙も止まっていた。
「…うん。ありがとう」
「よし!じゃあ、今度はY字路の…あれ?」
トールは僕の後ろの方を見ているようで、僕もすぐに後ろを振り返った。そこには、僕に“レリル”への道を教えてくれたカカと“ヒメグマ”のフェルがいた。カカの手には銀色の何かが握られてきて、それがキラキラ光ってる。よく見ると、ペンダントのようだ。
「「………あぁーーーーーーーー!!!!!」」
トールと僕は同時に叫んだ。見つけた!多分あれは僕のペンダントだ。
「ライル!」
「うん!行こう!」
そう言って、僕とトールは二人で駆け出した。カカとフェルは、僕たちに気づいたのか分からないが、急に逃げ出す。それを見て、僕とトールは急いで追いかけた。カカとフェルは、どうやら“レリル”に向かってるらしい。
「待って…!」
僕のそんな声も虚しく届かない。鍛えてるからって、流石に疲れるよ…!
“レリル”まで到着した広場にたどり着いた。広場には大きな噴水が真ん中にあって、中には水が入ってる。今は、水は吹き出しておらず、寂しく感じた。
「はぁ…ひぃ…はぁ…待って…」
僕は、クタクタになって地面に倒れそうになったが、なんとか持ちこたえた。噴水の近くに僕のペンダントを持ったカカが立っていた。その近くでフェルが噴水の所に座っている。
「うん…?あ、あの時の兄ちゃんじゃねぇか。あんたを探してたんだ」
「うん。僕も、探してた」
「ほれ。これ返すわ。値打ち無いみたいだったし」
そう言って、カカは僕に銀色のロケットペンダントを渡してきた。中を確認すると、確かに僕の物で、一先ず一安心だ。…それにしても、値打ち無いみたいだったしってどういうこと?
「もしかして…僕のペンダント盗ったのカカ?」
「まぁな」
お巡りさん!ここにドロボーが!!…って僕の心は叫んでいたが、実際そんな事を叫ぶ力も残ってなかった。
「あ、でもそれを狙ってた奴は俺だけじゃないんだぜ?」
「え?…それってどういうこと?」
「他にもいたんだよ。それを狙った奴。まぁ、結果的に俺が守ってやったって感じだな。だから、軍に言うなよ?」
…なんか、言いくるめられた感じがあるが、僕は承諾した。ちゃんと帰ってきたしね。今はそれだけで十分だよ。
そんな事をしている間に、ボルトとファイアとフィンが広場にやって来た。ファイアとボルトは相変わらず喧嘩をしている。
「大体、どうして僕が責められないといけないんですか!」
「だってボルルンが悪いからに決まってるからでしょ!?」
さっきよりも酷くなってる気がする。まだ口喧嘩だから良いけれど、手を出されたら手に負えないよ…!
「ライル!トール!助け!」
「フィン…!?どうしたの?」
「ファイアとボルトの喧嘩が止まらないの。私が割って入ろうとしても、無駄で…」
……もうこうなったら。僕も本気出すよ。
僕は、ボルトとファイアの近くに行って、喧嘩を止めようとした。
「そんなに言うなら、決着つける!?」
「えぇ。良いですよ?手は抜きませんよ?後悔しても遅いですからね」
「それはこっちの台詞よ!」
「いい加減にしろ!!」
僕は歩きながら怒鳴っていた。二人は僕を驚いた様子で僕の方を見る。ここで被害が出るぐらいなら、僕が怒った方がましだ。
「ねぇボルト。ファイアの挑発に乗っちゃダメよ。それと、言い方がちょっとキツいよ?そんなんじゃただの嫌みにやっちゃう」
「ほーら!だから言ったじゃん!」
「ファイアも一言言えないよ!自分の思ったことを何で言うのは良くないって!その時と場合をもう少し考えて!」
「「…は、はい」」
「喧嘩がダメだとは言わないけれど、もう少し仲良くできないの!?僕達、一緒に行こうって、この前言ったばっかりじゃないか!」
「……」
僕の渾身の発言だった。いつも弱気で、こんな風に叫んだりしない僕だけれど、みんな仲良くしてほしいから、誰かが欠けたらダメだから、僕だって時には怒る。
「分かった!?」
「「…ごめんなさい」」
「謝る相手は僕じゃないでしょ?」
僕がそう言うと、ファイアとボルトはお互いをチラ見した。そして、少し沈黙を置いた後に、ボルトが先に口を開いた。
「あの…すみません。言い過ぎました」
「私もごめん。もう少し考えてから発言するよ」
二人はそう言って、少し気まずそうにお互い顔を反らした。僕はそれを見て、二人の手を取って、強制的に握手させた。
「はい。これで仲直り。ね?」
「ふっ!ライライ結構古典的だね」
「え?そうなの?」
「はい。でも、これはこれで良いですね」
そう言って、自然と3匹で笑っていた。うん。やっぱり、僕たちは怒ってる顔や泣いてる顔は似合わない。笑顔が何よりも一番だ。
きっと、僕らはこういう風にこれからも過ごしていくんだろう。ずっと…この先も。