第二章東州北部
5話
〜1〜

次の日。僕は出発の準備をしていた。最低限の食料と、お金。あ、お金は働いてくれたからってミントさんからもらったもの。そして、村のポケモンたちからもらった布を、ミントさん手作りのリュックに入れた。

「よし!」

よく確認して、僕は村の入り口に向かった。この広いフィンの家ともお別れになる。これからだ。本当の旅の始まりは。
入り口には村のみんなと、ファイア、ボルト、そして…トールとフィンが待ってた。

「ライライ遅いよ!」
「ゴメンゴメン。ちょっと手間取っちゃって!」

ファイアとボルトの間に入って、村のみんなと対面する形になった。
フィンはトールと手を握っている。

「サファイアさん。ミントさん。それと、ロフト村のみなさん。お世話になりました」
「充実してた日々を過ごせて楽しかったです!」
「あと、ご飯も美味しかったし!」

ボルトのきちんとしたお礼の後に続いて、僕もお礼を言う。ファイアのは…ちょっと例外かな?
フィンが、まだ不安な顔をしていたのは、ここにいる全員が知ってる。やっぱり怖いんだ。

「父ちゃん…母ちゃん…」
「フィン?皆さんに迷惑をかけないようにね?自分で出来ることは、自分でするのよ?」
「うん…」

返事もどこか未練があるような感じだ。寂しいんだろうね。親と離れるんだ。まだ13歳。甘えたい気持ちもよくわかる。

「フィン?」
「何?父ちゃん」
「僕がライル君のお父さん達と旅に出る時にも、ものすごく勇気が必要だった。僕も…怖かったんだ。でもね?みんなが優しくて、しっかり支えてくれたから。僕は全然大丈夫。だから、大丈夫。怖がる必要はないよ?」
「うん…!ありがとう」

優しい声でフィンに勇気を与えてくれる。フィンも笑顔だ。でも…どこか寂しさが残ってる。僕達は、フィンを支えていかないといけない。頑張ろう。

「それじゃあ。僕達いきます」
「いってらっしゃい!気を付けてね!」
「ありがとうございました!」

村に背を向けて僕達は歩き出す。すると、フィンは後ろを振り返ってサファイアとミントの顔を見た。その目には涙でいっぱいになってる。

「父ちゃん…!母ちゃん…!」

トールの手から離れて、サファイアさんとミントさんのところに走っていく。サファイアは、フィンのその姿を見て、顔を強張られた。

「フィン!ダメだろ!」
「っ!」
「自分で行くって決めたなら、行かないと!僕は、そんな弱い子に育てた覚えはないよ!?」
「父ちゃん…」
「いってきな!世界は光で満ちてる!色んなことを感じて、色んなことを学んで来い!そしたら、帰ってきて、僕達に教えてね?」
「うぅ…!うぐっ…!」

フィンは涙を拭いて、僕達の所にゆっくり戻ってきた。そして、今度はトールの手を握らずに、しっかりと前を見つめて、みんなに別れを告げる。

「いってきます!私、色んなことを学んで、帰ってくるから!」
「いってらっしゃい」

そして、僕達は本当に旅に出る。村のみんなは、僕達の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
そして…サファイアとミントは。姿が見えなくなっても、村の入り口から離れない。

「いっちゃったね」
「本当。知らない間に、成長してたのね」
「子供の成長は、親が思ってるのよりも早いのかもしれない………あ。雨が降ってきたね」
「雨なんて降って…」
「いいや。雨だよ」

サファイアの目には涙でいっぱいになって、流れ落ちた。優しく降り注ぐ雨のように。

「……そうね。家に入りましょう?ここは冷えるわ」

そう言って、ミントはサファイアの背中を抱きながら、二人で家に入っている。サファイアは、今日が晴天なのが少しだけ恨めしく思った。











〜2〜

「うぅ…!うぐっ…!」

村から離れてもなお、フィンはずっと泣き続けてる。森のなかは、トールが案内してくれていて、ボルトと前を歩っていた。

「フィンちゃん。大丈夫?」
「うん…。なんか…父ちゃん達と離れて悲しいけど…勇気が出せて嬉しくて」
「両方泣き!」

嬉し泣きと、普通の寂しさから来る涙と…忙しいなぁ。ファイアは、そんなフィンを慰めながら一緒に歩く。前を歩くボルトとトールもペースをきちんと考えて歩ってくれるから、迷うことはないと思うけど。

「そう言えばさ。これからどこに行くの?」
「東周の首都の“メラニウムス”です」

確か…ボルトは首都に行きたいんだったよね。でも、ボルトが本当にやりたいことって…なんだろう?

「ねぇ、ボルト?君の目的って…なんなの?」
「……」

僕がそう問いかけると、ボルトは黙りコクってしまった。顔はここからだとよく見えないけど、思い詰めた雰囲気を感じる。

「…まだ言えない?」
「……そう言うわけでは無いです」
「じゃあ!「でも…」…?」

僕が言った言葉に被せるようにボルトは話はじめて、こう言いはなった。

「でも…僕がやろうとしてることは…非常に最低な行為です。そんなことを、僕の口からは言えません。お願いします。察してください」

非常に最低な行為?僕がその言葉を聞いて真っ先に思い付いてしまったのは、復讐という言葉だった。まさか…?ボルトは、お父さんのことはよく思ってないのかな?まぁ、あそこまでいくと、無理ないのかもしれない。

「…分かったよ。ありがとう」
「……いえ」

いつになく暗い雰囲気で、僕達は森を抜ける。初めてサファイアさんと出会ったときに、一緒にロフト村を見たあの高台に着いた。ここから見ると、ロフト村と周りを囲む森が見える。夜の時とはまた違って、日中に見るのも悪くない。空気は相変わらず綺麗で美味しい。

「いってきます…」

フィンがそう呟いて、未練を立ちきった。僕らは…これからどうなるんだろうか?どんな出会いがあって、どんな道を歩くんだろうか?
不安なこともある。でも、好奇心がないといったら嘘になる。なんだか…複雑な気分でどこかもどかしい気分になった。

「さぁ!行こっか!私達の旅に!」
「うん!」

僕達は、ロフト村に背を向けてその先に続く森のなかに入っていった。ここから先は地図を頼りに進んでいく。

「首都まで後どれぐらいかかるの?」
「そうですね…このペースなら3日でつくかと。先ずは、この森の先の町に行きましょう」

それでも3日かかるのか…急ぐ感じじゃないみたいだし、このペースでゆっくり進んでいこう。フィンの家とも体調のこともあるしね。

「フィンちゃん大丈夫?」
「今のところはなんとか。でも、空気が淀んでるところとかだとどうなるか分かんないな」
「辛かったらいつでも言って!ライライが背負ってくれるから!」
「背負うの僕なんだ…」

フィンを背負う係りがいつの間にか僕になってる…ファイアの悪いところは人の承諾なしに勝手に話を進めちゃうところなんだよね…。
ボルトとトールは、そんな話を聞いて苦笑いしながら先頭を歩く、歩っているうちに、ボルトはほんの少しの違和感を掴んだ。

「……?」
「ボルト?どうしたの?」

トールが横でそう話しかけると、ボルトは口に人差し指を当てて静かに…と言った。立ち止まらずに、歩きながら空気の流れを感じとる。

「………そこか!」

ボルトは草むらに向かって“エアスラッシュ”を放つと、影が飛び出してきて、僕達の前に立ちはだかった。ポケモンは2匹。“ヒコザル”と“ヒメグマ”。

「……だれ?」
「俺かぁ?俺ぁ、カカ・キルバース!こっちはフェリル。よろしくな」
「フェリル・フェル・ネフェリです…。よ、よろしくお願いします…」

“ヒコザル”がカカで。“ヒメグマ”の方がフェリルか。
フェリルは、カカの後ろに隠れて、こちらを除き見るように見ている。僕達怪しいポケモンじゃないんだけど…どちらかといったら、そっちの方が…怪しいって言うか。

「で…何しに後をつけていたのですか?僕達がこの森に入ったときから…こちらをずっと見てましたよね?」
「ありゃりゃ〜。結構早くに見つかってたんだな」

ボルトが中々の剣幕でカカを睨み付ける。それに対して、カカはヘラヘラと笑っている。……これこそ一触即発。この2匹は相性が悪いみたいだ。

「僕の質問に答えてください。何しに後をつけていたのですか?」
「おおっと!そんな怖い顔を止めなって、ただ、面白そうだからついてっただけさ」
「……本当ですか?」
「本当本当!だから、1回その怖い顔を止めなって、フェリルが怖がってるだろ?」

確かに、フェリルはボルトを見て怯えてる。ボルトが目線を向けるとカカの後ろに隠れた。なんか…こう見てるとフェリルが可愛そうに見えてくる。

「ボルト…ダメだよ可愛い子を怯えさせるなんて」
「サイテー」
「な、何か勘違いしてませんか!?」

トールとファイアの言葉の猛攻に、ボルトがたじだじになってる。フィンがボルトを弁護しながら、トールとファイアと戦っている。僕がカカを見ると、ニカッ!と笑ってこっちに近づいてきた。

「で?あんたらこれからどこに行く予定だったんだ?」
「え?あ、この近くの町に…」
「ふぅ〜ん。この近くの町なら“レリル”か」
「知ってるの!?」

町の名前を知ってるってことは…場所も知ってる可能性があるよね!まだ土地勘がない僕達にとって、道の行き方を教えてほしい。

「おう!まぁな!だてにこの辺の土地勘がある訳じゃないぜ!」
「じゃあさ、どうやって行くか、道を教えてほしいんだけど」
「いいぜ!ここの道をまっすぐ行くと、Y字路だから、そこを左に曲がるといいぜ?」
「ありがとう!みんな!道わかったよ!早くい──」

僕がそう言おうとしたときも、四匹の言葉の猛攻が続いていた。…みんな。もうそろそろ止めようよ。
僕が後ろを振り返ると、カカとフェリルは姿を消して、どこにもいなかった。

「…あれ?」
「ライル?どうしたの?」
「カカとフェリルがいないんだ。もう、行っちゃったのかな?」
「ボルルンが怖がらせるから…」
「言いがかりにしても酷すぎます!」

僕達がカカ達の心配をしているときには、カカとフェリルはすでに木の上で姿を隠していた。でも、僕らがそれを知るよしもなく、そのまま歩き出す。
これから起こる大変なことを────想像もしないで。

星夜 ( 2016/01/06(水) 23:07 )