4話
〜1〜
そして、一連の騒動が過ぎた次の日…。僕は、いつもの通りボルトとバトルの練習をしていた。ただ、今日は少し違うことがある。それは…。
「ライライ!次ボルルンの“十万ボルト”浴びたら走り込み10分だからね!」
「えー!?」
そう。これ。今日はファイアが監督として一緒についてくれてる。ただ、やることやることが荒行事で大変なんだ。嬉しいんだけど…悲しいような…複雑な気分だ。
どうしてこうなったのか、それを知りたいなら昨日の夜に遡る。
〜*〜
昨日の夜。僕は、ファイアに呼び出されて、ファイアの部屋にやって来た。
女の子の部屋に入るなんて、いつ振りだろう?少しだけ抵抗感があるって言うか、でも、ここでうじうじしてる方が変なやつだよね…。
僕は、思いっきってドアを軽くノックした。
「どうぞ」
そう聞こえて、僕は中に入る。ベットの上にファイアが座っていて、ボルトがイスに座って紅茶を飲んでいた。
「話ってなに?」
「端的に言えば、ライライ?君の事」
「僕?」
僕…ファイアに何したんだろう?今のところファイアの機嫌を損ねるような事はしてないと思うけど…。
「僕、なんかした?」
「今日のバトル!相手が相手だったとしても、かなり押されてたでしょ」
あの“クリムガン”と戦ってる間にも、僕のバトルを見ていたなんて…。余裕があった証拠…だよね。
「うん…」
「だから、ボルルンと話し合って、ライライを根本的に鍛え直すことにしたの!今度は、私がコーチとして付くから」
その言葉に、勇気をもらうのと同時に、僕はまたしても不安を抱く。僕は、二人よりも強くない。僕が二人の足を引っ張ってるなら、僕は、ここにいる意味があるの?いつものネガティブ精神が僕を少しずつ追いつめてる。それは、二人にも伝わっていた。
「ライライってさ。ネガティブ精神が強いよね」
「え?」
「自分が足を引っ張ってるんじゃないかとか、自分なんて…とかさ。そういう風に思うの、止めたら?」
な、なんで分かるの!?僕何も言ってないよ!?ただ思っただけで……あ。
「顔に出てた?」
「「ええ/うん。バッチリ」」
…はぁ。なんか、勘が鋭いなって思ったのは、僕の顔に出ていたからなのか。確かに、父さんに感情が顔に出てるって言われるけど…!
「なんか…ごめん」
「まぁまぁ。とにかく、精神を鍛えるには先ず肉体からとも言いますし、体を鍛えれば心も強くなると思いますよ?」
「よし!明日から早速特訓開始するとしますか!」
二人とも…すっごく優しいなぁ。僕のバトル練習に付き合ってくれるなんて…僕も早く二人みたいに強くなりたい。
「あ、そうそう!ライライ」
「何?」
「私達、足手まといとか迷惑とか思ってないから。もっと頼って良いんだよ?遠慮とか、しないでね?」
…その言葉は、人生の中で2回目の言葉だった。また、言われる日が来るなんて…僕は、ずっと一人だと思ってたけど…違ったんだね。僕は、一人じゃない。今も、これからも…多分。
「…ありがとう」
僕がそう言うと、二人とも笑ってくれた。ちょうどボルトが紅茶を飲み終えたときに、ファイアは時計を見た。ちょうど10時。良い子は寝る時間だ。
「さてと、男子諸君?いつまで乙女の部屋にいるつもり?」
「あ、ご、ごめん!!」
僕は、ボルトの手を引っ張って、ファイアの部屋から出た。
ボルトは、少し不思議そうな顔をしながら、僕に問い掛けてくる。
「何も…そこまで急がなくても」
「ごめんね。なんか、急がないといけない雰囲気がファイアから、滲み出てたから」
なるほど…。と苦笑いしながらボルトは呟いた。それからすぐに、僕とボルトはそれぞれの部屋に戻って、すぐに寝息をたてるのだった。
〜*〜
これが、昨日起こったことの一部始終。
で、今に戻るけど、ファイアが僕の監督として今修行の真っ最中。
「ライライ!そこで空を飛んで!」
「無理言わないで!!僕飛べないから!」
えー。と言いながらファイアは、ガッカリした表情でこちらを見る。いや。無理なものは無理だから。
こんな遊びをしながらでも、ファイアがしてくれるアドバイスは確実で、僕自身、成長してる…気がする。
「あのさ。ボルルンのエレキボールが来たら…」
すごく頼もしい。僕にはこの一週間の間に、変わりすぎる位日常が変化した。
誘拐されて、脱走して、隠れて、戦って…うん。変わりすぎだよ。
「ねぇライライ?私の話し聞いてる?」
「うわぁ!!」
ボーッとしていたことろをファイアがものすごく顔を近付けてきた。僕はそのまま後ろに倒れる。
「大丈夫ですか!?」
ボルトの顔が青空の前に出てくる。幸い頭を強打しなかったが、そんなことはどうでも良い。僕は…ファイアがせっかくアドバイスをしてくれていたのに、聞いてなかった!あぁ!なってことをしてしまったんだ!!
「うん。なんとか…」
「もう!ボーッとしてる暇があったらちゃんと聞いててね?」
「…ごめん」
小さな声でそう謝って、僕は起き上がった。背中がやっぱり痛かったが、特に気にはならない。さぁ、そんなことより修行だ。
そして、そんなライル達の姿…いや、音を聞いていたフィンは、1つ今までと変わっている事があった。それは、普段よりも世界が明るく感じることだ。景色がと言うよりも、気持ちが少し前向きになったことによって、いつもより綺麗な音が耳に入ってくる。鳥ポケモンのさえずり、水の音、風の音、木々の声。そう言うのが新鮮に感じた。
「フィン?」
「…あ。トール?」
フィンの隣にふっと声が聞こえて、目を開けて声がした方を見る。と言っても、目がよく見えないフィンにとってってあまり意味はないが。
「ごめんね。もしかして寝てた?」
「ううん。自然の音を聞いてたの。だから大丈夫」
音を正確に聞くためには、目をつぶった方が集中できる。だから、先程までずっと目をつぶっていた。傍から見れば、寝てるようにしか見えないのだ。
「自然の音?」
「うん。綺麗な音。雑音じゃなくて、自然が奏でる綺麗な音」
「へぇ。そう言うのを聞いて心を落ち着かせるのも悪くないね。…ねぇ、フィン」
トールは声のトーンを少し落として話を切りだし、フィンの隣に座った。トールの真面目な声を聞くのは珍しいことじゃないが、今日はいつもとどこか雰囲気が違う。フィンは即座にそれを感じ取った。
「フィンのお父さんの…ことなんだけどさ」
「うん」
なんだか歯切れが悪い。そんなに気を使うようなな話なんだろうか?フィンは心のなかで少し覚悟を固めた。
「僕ね。ずっと気になってたんだけど、フィンのお父さんってなんか隠してること…あるよね?」
「あ。トールも気にしてたんだ?」
話の内容はどうやらフィンのお父さん──サファイアについてらしい。フィンはサファイアの過去をあまり知らない。いや、あまりじゃない。全く…と言っても過言ではないだろう。
「私、父ちゃんが自分の昔話をあまりしてくれないのは、何かがあるからだと思うの。だから、知りたい…んだけど」
「けど?」
「知って良いものなのか。それとも違うのかは、私には分からない。それを私が知って父ちゃんが傷つかないとも限らない。そもそも、私…ここから出たこと1回もないし、体弱いし」
「越えないといけない問題がたくさん…ってことか」
うん…。とフィンは力弱く言う。フィンは昔のサファイアと同様に、体があまり強くない。今は大丈夫だが、違う場所に行って、体が持つかは五分と言ったところだ。
「…僕ね、思うんだけど。ライル達について行くって言うのは、どうかな?」
「え?」
トールはバトル練習風景を見ながら、そう言った。
確かに、その方が良いのかもしれない…けど。
「ライル達は帝国に追われてるんだよ?私達が一緒にいて迷惑にならないかな?」
「それは考えたさ。でも、迷惑かどうかは、本人達に聞かないと分からないよ」
そう言われると…何て返したら良いか分からなくなる。フィンが悩んでると、トールは立ちあがり、空を見上げてフィンに言った。
「『悩むぐらいなら、とりあえず行動する!もし、それでダメだったら、きっと周りが助けてくれるさ』」
「…?」
「誰かは分からないけど、誰かが僕に言ってくれた言葉。きっと、今がこの時なんだ」
「…行動する」
「うん!だからさ、僕と一緒に行かない?」
そう言って、トールはフィンに手を差し出した。小さな黄色い手が、その時だけ少し大きく感じた。頼もしい、大きな手。
「一人じゃない。僕が一緒にいるからさ?」
「…いいの?」
「もちろん!」
笑顔でそう答えたトールの手を、フィンはいつの間にか掴んでいた。一人じゃ勇気は出てなかったけど。二人なら…できる気がする。
トールはフィンの手を強く握り返して、バトル練習中の3匹の元に走り出した。
「ありがとう。トール」
トールの耳にその言葉がはっきり聞こえて、嬉しく感じたのは、言わなくてもわかると思う。
なんとなく、太陽も笑ってる気がした。