3話
〜1〜
僕達の隠れ里の生活が始まって、もう3日が過ぎようとしていた頃。今では、ファイアとトール、それにフィンが3匹でお喋りしている姿は、当たり前の光景になっていた。
そして…ボルトと僕も。
「“火炎放射”!」
「“エレキボール”!」
広場での練習試合は当たり前。僕は、二人と比べて体力が少ないし、バトルの経験がない。だから、ボルトに頼んで相手をしてもらってる。今では、体力も少しはマシになったし、技も進歩してると思う。
「“十万ボルト”!!」
「うわ!!」
ボルトの“十万ボルト”を直に浴びて、僕は地面に倒れた。ついでに、僕の黄色い毛も毛先が焦げてる。
僕とボルトの力の差は一目瞭然。僕がボルトに勝ったことなんて1回も無い。まぁ、当たり前なんだけど…3日でボルトに勝てるだなんて思ってないさ。
「あうぅぅ…」
「あー!まーたやらかした!」
「す、すみません!!一応、手加減はしてるつもりだったんですが…さじ加減が良く分からなくて…」
もちろん。ボルトに悪気がないことは僕だって十分分かってる。だからこそ、手加減が出来ないボルトに頼んだんだ。
え?ファイア?一応頼んではみたんだけど、「メンドーだから私パス!」と言われて、ことごとく撃沈した。
「だ、大丈夫…流石にそろそろ慣れてき…た」
「ライライ!!それ、気絶して言う台詞じゃないから!」
「み、水持ってきました!」
トールが持ってきてくれた水を、ファイアは僕の顔に思いっきりぶちまけた。一瞬息が出来ない苦しみが襲ってきて、僕は現実世界に戻ってこれた。
「プハァ!!あ、ありがとう…」
「どういたしまして。もう、ボルルンもやるなら、もう少し手加減出来るようにならないと、ライライが死んじゃうかもよ?」
「す、すみません…」
「大丈夫。ボルトは悪くないよ。元々、僕があんまり手加減しないでって言ったんだし」
そう。ボルトは悪くない。悪いのは、弱い僕自身なんだ。例え少しだけだったとしても、自分が強くなれたら、僕も簡単に諦めたりしないんじゃないかって…そう思ったからなんだ。
「ボルト。もう1回お願いしても良いかな?」
「僕で宜しいなら。いくらでもお相手を」
「ありがとう」
そうして、僕とボルトのバトル練習は続いていく。
ファイアとトールは、フィンの元に戻って、僕たちのバトル練習を見ていた。
「ライライも飽きないね…まぁ、そこが良いところなんだろうけど」
「……」
「フィンちゃん?どうしたの?」
フィンは、目がよく見えない変わりに、音で区別していた。バトルの音も、みんなの足音の音も、誰が誰の物かよく分かる。
「バトルって…そんなに楽しいの?」
少し、悲しい声色で、そんなことを呟いた。元々、フィンはバトルを好き好んでするタイプじゃない。と言うか、バトルは嫌いだった。優しい性格からくるもので、相手を傷つけたくない。自分もそこまで強いものではないし、なんと言っても怖いから。と言う理由で、バトルはかなり拒否してきた。
「私…バトルは好きじゃない。相手を傷つけないといけないし、怖いし、そもそも私には力がないし…でも、ライルやボルトは、バトルをして、すごく楽しそうにしてる。私にはよく分からないよ。相手を傷つけるのが、どうしてそんなに楽しいの?」
「……そうだね。確かに、バトルは相手を傷付ける。正直言って、私も相手を傷つけるのは好きじゃないよ?でも、それでも、戦うの」
フィンにとって、ファイアのその言葉は、とても不思議に思った。ファイアも、私と同じで相手を傷つけるのは好きじゃないって言ってる。でも、なら、なんで?なんで戦うの?
「どうして?好きじゃないのに…どうして戦うの?」
「それはね?…っ!」
ファイアが理由を言おうとしたときに、村の入り口の森の方を睨んだ。
僕と、ボルトもバトル練習を止めて、入り口を見つめる。…何か来る!その何かは分からない。数は…3匹程度。帝国軍か、そうじゃないかは分からないが、警戒は解けない。
すると、村の入り口から3匹のポケモンが出てきた。あれは…“クリムガン”と“シビルドン”、そして“オンバーン”。
「帝国軍?」
「いや、帝国の紋章がありません。賊か何かでしょう」
確かに、胸には帝国の紋章が無かった。噂を聞き付けてやって来たのか、それとも…ただ流れ着いただけか。
「ここが、幻の隠れ里“ルフト村”。やっと辿り着いたな」
「本当にこの村の地下に金が眠ってんですかね?」
「それを確かめんじゃねぇかよ!」
この村に…金が?サファイアさんに聞いたのは、この村の地下には大量の地下水脈が流れていて、地下水が豊富なんだって。多分、ポケモンからポケモンに噂が流れて、いつの間にか金があると言う風になっちゃたんだ。伝言ゲームと同じ効果だね。
「ちょっと待ちなさいよ!」
ファイアが、3匹につっかかって前で仁王立ちしていた。僕とボルトは、ファイアの前に急いで行き、庇うようにして並ぶ。
「あぁ?何だガキ共。俺たちになんか用か?」
「用も何もあったもんじゃないわよ!今すぐ帰らないと、ぶっ飛ばすわよ!?」
「ほー。威勢だけは良い姉ちゃんじゃねぇか。でもな…俺達だって、邪魔をするなら容赦はしねぇタイプなんだよ!!」
3匹がいっせいに襲いかかってきた。ボルトは、“オンバーン”を。僕はシビルドン”。そして、ファイアは“クリムガン”と戦う。
ボルトもファイアも普通のポケモンよりは一応強い。でも…僕はそうはいかない。普通に潰しにかかってくる“シビルドン”に、僕は苦戦を強いられていた。
「“雷パンチ”!!」
「いぃぃぃ!!」
じ、地面えぐった!!真っ直ぐ振り落とされた“雷パンチ”は、地面をえぐってやっと止まった。あのまま避けなかったら、完全に終ってたよ…。ても、僕だって鍛えてない訳じゃない!
「“炎の渦”!!」
「くっ!」
“シビルドン”の周りを炎が取り囲む。それに気がついたのか、ボルトが空中で戦っている“オンバーン”を“炎の渦”の中に叩き込んで、爆発した。…滅多に爆発はしないんだけどね。
「あう…」
「ぐっ…」
「なんだ。もう少し手がかかるかと思ったら…他愛もない」
地面でうめき声をあげている2匹に、ボルトがつまらなそうに言い放った。まぁ、パワーはあっても、体力が無かったら意味ないよね…。
そして、ファイアは戦っている“クリムガン”に苦戦を強いられていた。
「“リーフストーム”!」
「“竜の息吹”!」
“クリムガン”が放った“竜の息吹”が、ファイアの“リーフストーム”を相殺する。ある意味、パワー勝負ではファイアが不利だ。
「ファイア!」
「そこ2匹ストップ!!」
僕とボルトが加戦しようとしたら、ファイアに止められた。体についた土を手でポンポンと払い退けながら、ファイアは“クリムガン”を真っ直ぐ見つめる。
そして、僕とボルトにこう言い放った。
「これぐらい。私一人で大丈夫よ。それに私、誰かに守ってもらうようなお姫様タイプじゃないの。自分の事ぐらい、自分でやるわ」
完全に意地になってる…。多分、いままで良いところが無かったのを気にしてるんだと思う。それか、単純にそういうタイプなのか。まだ出会って1週間も経ってない。大体分かってきたけど、まだ分からない部分があるんだ。
「威勢が良い奴は好きだぜ?でもな…隙が有りすぎるんだよ!“竜の波動”!」
“クリムガン”が放った“竜の波動”は、ファイア出はなくフィンとトールの方に向かった。トールがフィンの前に被さるようにして、庇う。僕達が気がついたときには、どれだけ走っても間に合うような状況出はなくて、僕は不意に目を瞑る。
その後、“竜の息吹”の音の中に落ち着いた声で放った技の名前が聞こえた。
「“リーフストーム”!」
ドン!と言う爆発音が聞こえた。うっすら目を開けると、トールとフィンの前に、ファイアが仰向けで倒れている。まさか…と思って一瞬その場に立ち止まった。
「ファイア…?」
フィンが倒れているファイアに声をかけると、ファイアは目を開けてフィンにニコッと笑った。
「トー君、フィンちゃん。大丈夫?」
「うん…大丈夫」
「そっか!良かった〜!」
そう言って、ファイアはスッと起き上がった。どうやら、そこまで怪我はしてないみたいだ。爆風で吹き飛ばされただけ…かな?とりあえず、無事で良かった。
「あっ、そうそう。フィンちゃん。なんで、戦うのか理由を言ってなかったね」
「まだ生きてたとはな。だが、これで終わりだ!」
フィンの方に向いたファイアの後から、“クリムガン”が襲いかかろうとしている。あれは…“ドラゴンクロー”か!
「あのね?私、守りたいものがあるの」
「ファイア!良いから!後ろ後ろ!!」
「私が力を最大限にいかせるのは、誰かの為に戦ってるときだから。もちろん、誰かが傷つくのは見たくない。でも、それ以上に…私は、大切な仲間が傷つくのは見たくない」
“クリムガン”の“ドラゴンクロー”がファイアに直撃する寸前に、ファイアは“クリムガン”の方を向いた。
「ライライも、ボルルンも、フィンちゃんもトー君も…!私の大事な仲間なの!!!」
ファイアの口から放たれた光が、“クリムガン”のお腹を直撃する。そして、“クリムガン”はそのまま空中に高く飛ばされて、そのまま地面に叩きつけられた。
あの技は“ソーラービーム”。フィンと話している間に力を溜めておいて、至近距離で技を放ったのか。
「だから、私は戦う。みんなが笑ってる顔を、ずっと見ていたいから」
みんなの…笑顔。でも…私には、そんな力…無いよ。目が見えないから、みんなの力にもなれない。ただみんなの足を引っ張るだけ。だから、ファイアが羨ましい。私にも、そんな事を言える勇気と、力があったら良いのに。
「フィンちゃん!」
「?」
「私ね。フィンちゃんといるとすっごく楽しいんだ。フィンちゃん、自分には力がないって言ってたよね?でも、そんなこと無いよ?」
ファイアはフィンの手を優しく両手で握って、笑顔で優しくフィンに話す。
「フィンちゃんが、私と楽しくお喋りしてくれるだけで、私、すっごく元気になるの!力が湧いてくるって言うか…勇気をもらえるって言うか…癒される感じ?だから、フィンちゃんにはみんなを元気にする力があるの!それって、スッゴいことじゃない?だってそれって、フィンちゃんにしかない力なんだよ!?」
「みんなを…元気にする力…?」
「そう!だからさ、笑って?笑うと、自分もみんなも元気になるの!」
ニカッとワザとらしく笑うファイアに、フィンは自然と笑っていた。多分、いままで一番の自然な笑顔だったと思う。
僕とボルトがファイア達の元に到着してからも、ふたりは笑っていた。
「……こんの…餓鬼共が!!!調子に乗ってんじゃねぇぞ!!!」
地面に叩きつけられたはずの“クリムガン”か起き上がって、こちらを睨んでくる。確かに大ダメージをおったはずなのに…!
「俺にこの技を使わせたことを後悔しながらあの世に逝きな!!“流星群”!!」
空から、巨大な隕石が所々に降ってくる。森の中を破壊しながら、隕石は止まることを知らない。
「これは…流石に不味いかも…!」
「誰がどう見ても…不味いに決まってるじゃないかーーー!!!」
森の中に堕ちる隕石は、村の中にも入ってきた。地面に隕石が陥没している。まだ建物が壊されてないのが不幸中の幸いだね。
すると、少し薄暗くなったと思って、上を見ると多分それでも小さいサイズの隕石が降ってくるところだった。
「なっ…!」
「「えぇぇぇぇぇぇーーーー!!!??」」
間近で見てると死を感じる…今の僕達で、この隕石を壊すのは不可能だ。なるべく1ヶ所に集まって固まった。
ちょうど真ん中にいたフィンは、その小さな体の中に勇気が燃えるのが密かに感じていた。
私も、みんなの力になりたい…!戦えなくても、皆を守る盾になりたい!守りたい、大切な皆を…村も、全部!!
フィンは、お守りとして巾着にいれていたトールからもらった技マシンを握りしめた。すると、綺麗な薄緑色のベールが頭上を覆った。
「え…?」
隕石が僕達にぶつかる前に、薄緑色のベールは僕達を守ってくれた。優しい…温かい感覚がある。
「“守る”…」
トールがそう呟いて、どう言うことなのか分かった。“守る”は僕達を守ってくれて、隕石を粉々に砕き、ベールも割れて粒になって降る。
でも、誰がこの技を…?
「フィン。もしかして…貴女が?」
「え!?そうなの?」
もしかしたらと思ったのか、お守りの巾着を開けて技マシンを取り出した。技マシンは藍色に変化していて、これは使用済みのサインだと聞いたことがある。何処でかは、忘れたけどね。
「そう…みたい」
「やったね!!ありがとうフィンちゃん!」
そう言って、ファイアはフィンに抱きついた。フィンは少し照れている。ファイアに抱きつかれたのと、みんなを守れたのから来る嬉しさと…両方かもね。
いつの間にか“流星群”は止んで、いつもの静けさが戻っていた。そして、僕とボルトは“クリムガン”の方を見る。
「クソガァァァァ!!!」
そう叫びながら、“クリムガン”はこっちに向かって来る。僕とボルトは構えて戦いに備えたら、僕達の後から声が聞こえた。
「“ハイドロカノン”!」
すごい勢いの水が“クリムガン”に当たった。そして、“シビルドン”と“オンバーン”の所に突っ込ん出いって、ボーリングのピンの用に吹っ飛んだ。
「父ちゃん!」
あの技を放ったのはサファイアさんだったのか、後ろで落ち着いて僕達に駆け寄ってくれた。
「ごめんね。もう少し早くこれたら良かったんだけど」
「大丈夫です。それに、ピンチの時にフィンが守ってくれましたし」
「フィンが?」
「そうなんです!スゴかったんですよ!」
サファイアさんは、フィンに近づいて、優しく頭を撫でた。これが、本当の親子の姿なんだろう。別に、頭を撫でてほしいとか、そういう訳じゃないけれど、仲の良い親子なんだなって思っただけさ。
「よく頑張ったね。偉いよ」
「…うん!」
フィンの心が1歩進歩した日だった。僕も…フィンみたいな勇気を出せるようになりたいな。やっぱり、その為には鍛練が必要だよね!
これから、僕の地獄の特訓が始めることなんて…思ってなかった。今の時点で、分かっているのは、特訓を考えた。ファイアだけ…。