3話
〜1〜
それからどれだけの時間が経ったんだろう?この牢屋には窓がないせいで、今が朝なのか夜なのかが全く分からない…。
あれから、ファイアとは気間づい雰囲気が漂っていた。明るい話なんか出来るわけなくて…ファイアも何も言ってこない。
「………ごめん」
「え…?」
沈黙を破ったのはファイアの方だった。隅っこの方で座ってるファイアは、少し距離感を抱きながらも、小さな声で話す。
「ライライの気持ちも考えないで…あんなこと聞いて…」
あんなこと…?…あぁ!「何物?」って聞いたあれか!僕にとってのダメージはそこまでだったんだけど…気にしてたんだね。
「あっ、い、良いんだよ!気にしないで!僕は、そう言うの慣れてるし…!」
「嘘だよ。いくら慣れてるからって、言われて傷つかないポケモンなんていないもん」
いや…そんなことも無いんだけど…。まぁ、ファイア自身が気にしてるって言うのもあるのかもしれないしね。
「…そう…だね」
「あのさ…。私、ライライの事とか全く知らないけど…ライライは、化け物じゃないと思うよ?」
「え?」
「どんな過去があるのかも、ライライにどんな力があるのかも知らない。でも、それでも、ライライは化け物じゃないよ。」
いくら僕の力について知らないからって言っても、そこまではっきり言ってくれるポケモンは初めてだ。……素直に嬉しい。
「…ありがとう。そう言ってくれたポケモンは、初めてなんだ」
「…うん!」
笑顔で返してきたその顔は、本当にリラにそっくりで、違うって分かっていてもリラと話してるみたいで楽しい。ある意味、ものすごく迷惑な話なのかもしれないけどね。
すると、ゴゴゴゴ…!と言う音が牢屋中に鳴り響いた。
「え!?な、なに!?え!?」
すると、壁が2つに別れて通路のような物が出てきた。そこの奥から、あの“エモンガ”…若いから、ボルトって言う方の“エモンガ”だね。
「僕についてきてください。早く!」
「あっ!う、うん!」
何がなんだか分からないまま、そのままついていくことにした。
真っ暗な通路は、1本の松明のお陰でなんとか前が見えるぐらい。松明はボルトが持っていて、迷うことなく先に進んでいく。
それにしても…どうして僕達を助けてくれたんだろう?確か、敵…のはずだよね?そんなことを考えてるうちに、外にたどり着いた。そこは、満月が綺麗に写る大きな湖で、とても幻想的だ。
「綺麗…。もう夜だったのね」
て言うことは、かなりの時間が過ぎてきたんだね。あぁ。こんな時間になるまで帰れかなったら、父さんと母さんはなんて言うんだろう…?間違いなく怒るよね…。
「ってそうじゃなくて!」
頭のなかでの独り言のツッコミが、口から出てきてしまった。ファイアと、ボルトがビックリした顔で僕の方を見ていた。
「あっ!えっと…どうしてボルト君は僕達を助けたのかなって…!」
「そうだ!あんたって、私達の敵何じゃないの!?」
なんとか言い訳をして、その場をやり過ごした。あ、危なかった…今度からは気を付けないとね。
ボルトは、湖に写る満月を見ながら、少しだけ呟いた。
「まだ…言えません」
そう、一言だけ。どうして言えないのか、彼にはどんな目的があるのか、全く分からない。でも、それでも、彼の事を信頼しても良いと思える。まるで、昔から知っている友人のような信頼感だった。
そして彼は、僕達の方を向いて、こう続けた。
「でも、僕はあなた方の味方です。それだけは言えます」
「理由も分からないのに、信頼しろって言うの?そっちの方が無理でしょ!」
「いや…。無理じゃないよ」
うん。無理じゃない。この信頼感がどこから出てくるのかは分からない。でも、彼は信頼に値する。そう、心が言っているのが聞こえた。これは…前世の名残なのかもしれない。もしかしたら、僕とボルトは前世で会っていて、とても信頼していた友人だったのかも…。
「僕は君を信頼する」
力強く、心を持って言った一言だった。それを聞いて、彼は軽い笑顔で少し微笑んだ。その笑顔は、「ありがとう」と言っているようにも取れた。
すると、ファイアが少しだけ頬を膨らませながら、話しかけてきた。
「もう!また私だけ置いてけぼり!」
「あっ!ご、ごめん」
「まぁ、良いけど!で、あんたは私達についてくるって言うことなの?」
「そういうこと…になりますね」
「そっ!じゃあ、今日から仲間ね!よろしく!ボルルン!」
「ボ、ボルルン…?」
「あんまり気にしない方がいいよ!」
うん。この件に関しては、気にしたら負けになる。それよりも、これからどうするのかを決めないと…僕は家に帰りたいし…ファイアもそれを望んでる…と思う。
「みんなは、これからどうするの?」
「私は家に帰りたい…でも、ボルルンは?」
「僕は、首都のメラニウムスに戻らないと行けません」
ってことは、方向がまるで逆ってことか…。ボルトがしたいことが分からないから、どうしたらいいか分からない…。出来ることなら、手を貸したいけど…。
「ふぅん。じゃあ、あんたについていくわ」
「え!?」
「どうせ、家に帰るまでの道のりは長いし…味方は多い方がいい。それに、もう仲間だしね」
「仲…間」
仲間と言う言葉にたいして、ボルトは少し不思議がってるように見えた。初めて友達が出来たポケモンのようにも取れる。
「そう!だから、敬語も禁止!」
「え!あ、あの。それは…出来ません」
「なんで?」
「僕は生まれて事かた、敬語以外で話したことが無いんです。まぁ…怒ったときは別ですけど…それでも、正常の時にタメ口で話せと言われましても…」
怒ったときはタメ口…か。僕と同じ…なのかな?どれぐらいなのか見てみたいけど…止めておこう。きっと、そのうち見れるよ。
すると、ガシャガシャと言う音が僕達が出てきた出口から聞こえてくる。これって、鎧が鳴る音!?
「こ、これって…もしかしてヤバイ?」
「うん…!ものすごく!!」
兵士が次から次へと出てくる。僕たちをグルリと取り囲み、八方塞がりの状況となった。
「大人しく投降しろ!」
「そう言われて、簡単にする方が可笑しいと思いますけどね」
「ボールートーくーん」
兵士の奥から、“キリキザン”が出てきた。どこか、他の兵士とは違う雰囲気がある。なんだろう、ものすごく怖い…!これって…殺気?
「ハーミル…」
「何?知り合い?」
「メラニウムス帝国少将。殺人狂ハーミル」
「俺はー。3度の飯と、3度のおやつよりも…3度の殺しの方が好きなだけさぁ〜!」
こ、怖い…。こんなのがよく少将だなんて地位にいる…よ。普通なら、すぐにクビになりそうなのに…。
「相変わらずの変人ですね」
「んーにゃ?俺は変人じゃあにゃあいさ〜、少しの金と、沢山の殺しをしているだけ。そんなは俺は…変人か?」
「殺しが幸せだなんて感じるのは、変態だけよ!」
呂律がたまに回らないしゃべり方、無気味でものすごくおぞましい…。こう言うポケモンも世界にはいる。殺しを生き甲斐にしていて、殺す瞬間だけが自分の幸福と思えるとき。だから、続ける。
「むー。そっかぁ。まぁ、俺にとっては、どーーーーでもいい事だけど。殲滅が俺の任務だ。その首、さっさっと刈らせてもらうぜ?」
「
ざけんな…」
その一言が、ボルトの何かをぶった切った。堪忍袋の緒が切れたとよく言うが、まさしくそれだった。まさかこんなに早く、ボルトが怒るのを目の当たりにするなんて…。
〜2〜
「
ざけんな…」
完全にぶちギレたと思うボルトが小さく放った声だった。目付きが完全に違う…目が座ってるよ!
「うん…?今ー。なんか言ったー?」
「あぁ。言ったさ。ふざけるなってな」
「う〜ん?ボルト君は何を怒ってるのかな〜?あっ!分かったぞー?俺に殺されるのが嬉しいんだなー?」
どう見たらそう捉えるんだろう?嬉しさから来る怒りは、あくまで憎しみの怒りだ。それは僕が一番よくわかる。憎しみの怒りは、全ての感情をマヒさせる。だから、嬉しくとも取れるのかもしれない。
「それ以上喋るな。次喋ったら、その首ぶった斬んぞ!?」
そう言って、ボルトは構えた。手に風が集まり始める。あの技は…“エアスラッシュ”。
それを見て、周りを囲んでいた兵士達も武器を構える。
「おーっとぉ?手ぇ出すなよお前ら、コイツらは…俺の獲物だ…!威嚇だけにしとけ、間違って当ててみろ。俺が殺す!」
「……喋るなっつたろうがよ!!!“エアスラッシュ”!!」
真っ直ぐ放った“エアスラッシュ”が、ハーミルに向かっていく。だか、目の前に来たときに、一振りで凪ぎ払った。かなり軽々と…。
「ちっ!なら…“放電”!!」
“放電”は敵全てのポケモンにダメージを与える。これなら、まだなんとか…!っと思ったが、他の兵士は倒れていても、一人でにハーミルはたたずんでいた。
強すぎる…!どれだけ足掻いても、今の僕らじゃ倒すなんて不可能だ。
「終わり…?」
「っ!まだまだ!“エレキボール”10連打乱れ打ちーーー!!!!」
“エレキボール”が、ハーミルに無差別に向かっていく。って!こっちに爆風が向かってくる!!
「ボルルンやり過ぎーーー!」
「オラオラオラオラーーー!」
目の前が見えなくなるほど、“エレキボール”を打ち込んで、ようやく止まったと思って、前を見ると、ハーミルは何事も無かったかのように真っ直ぐ立っていた。
あれだけ打ち込んだのに…傷ひとつついてない…?
「はぁ…はぁ…」
「なーんか。興ざめしちゃったなぁ。皇帝陛下の息子だから、もう少し骨があると思ったんだけど…思い違いか…」
信じられないと言う思いと共に、ここにいたら死ぬっと、直感で思った。何とかして逃げないと…!幸いハーミル以外の兵士はみんな倒れてる。今なら、何とかなるかもしれない。
「ボルト!今は逃げよう!僕らが敵うような相手じゃないよ!」
「………」
「ボルト!!」
「あっ…!はい…!」
「逃がすかぁぁ!!!」
ハーミルがこっちに向かって走ってくる。すると、ファイアが1枚の布を取り出して、魔法のように何もないところから、珠を取り出した。
そして、その取り出した珠を地面に叩き付けると、ピンク色の煙が出てきて、爆発した。
「…!煙り玉か!」
目の前が完全に見えなくなって、ハーミルは無闇に攻撃はしなかった。たとえ今殺せなかったとしても、また殺すチャンスが出てくる。それまで待つ。これが狩りの基本だと彼はよく知っている。
目の前が見えるようになると、ライル達はその場にいなくなっていた。
「いやー。逃がしちゃったねー」
隠し通路から、カルスがヒョコっと表れて、ハーミルに気軽に話しかけてきた。どうしてなのかは分からないが、今の彼はものすごく機嫌が良い。
「どうだった?僕の息子は…?強かったでしょ。あっ!でも、君となら虫けらと戦ってるようにしか感じてないか!」
「まぁーそっすねぇ〜。でも、もっともっと強くなりますよー?あ、い、つ」
「そう。それは何よりだよ」
何を企んでるのか分からないような顔つきで、カルスは妖しげに微笑んだ。カルスにとって、ボルトは息子と言うよりも、道具に近い存在だった。道具がどんどん強くなることは、彼にとって嬉しいことでもあるのだ。
「あの“ツタージャ”はさっさと殺して良いけど、僕の息子とあの“フォッコ”はダメだよ?」
「そんなこと言って、本当は自分の息子だって殺したいくせに〜」
「やっぱり分かる?捕まえたら…僕に刃向かったのが間違いだったって後悔させてやるのさ。それで死のうが死なまいが関係ないね」
「フュオ♪やっぱりゲスですね〜。皇帝陛下は…」
「君には負けるよ」
そう言って、カルスは隠し通路に戻っていった。その時の彼の表情は、これから起こる楽しいことを想像しての、満面な笑みだった。その笑顔は、狂ったピエロのような恐ろしい笑顔。
月が、カルスの背中を明るく照らし出した。