1話
〜1〜
現在の時刻は、6時ちょうど。まだ眠いけど、もうそろそろ起きないとね。
部屋から出て洗面所に向かう。鏡に写っているのは…僕。名前はライル・カーテリアス。種族は“フォッコ”。16歳のまだ子供。
キッチンに向かうと、美味しそうな匂いが漂ってくる。そこには、父さんか朝御飯を作っていた。
「おはよう…。父さん」
「おはようライル。起きて早々悪いんだが、ラピスを起こしてきてくれないか?」
僕のお父さん。名前はソルト・カーテリアス。種族は“フタチマル”。家事が一切できない母さんの為に、絶賛主夫として活躍中。父さんは今出版社で働いていて、忙しい毎日をおくっている。
「母さんいるの?」
「今日はそこまで急がなくて良いんだけどな。ずっと寝かしておいたら、一生眠り続けるだろうし…」
父さん…それって死を意味してるような…。まぁ、あえてツッコまないでおくよ。母さんも仕事で疲れてるからね。あんまり乱暴に起こしたくは無いんだけど…仕方ない。行ってこようか。
「分かった。じゃあ行ってくるね」
「頼んだよ」
母さんを起こしに、母さんと父さんの部屋に入る。僕の部屋の隣に母さんの書斎があって、父さんと母さんのベットルームが父さんの書斎。部屋は2階にあるんだけど、見晴らしがいいから好きなんだ。
「母さん。起きて。お父さんがご飯だって言ってるよ」
「うぅ〜ん…。おはようライル…」
これが僕の母さん。名前はラピス・カーテリアス。種族は“テールナー”。母さんは今大人気の小説家。主に冒険小説が多くて、実際の事を題材にした小説もある。それが“ラピスライト”って言う小説。
まだ寝ぼけてる母さんだけど、ご飯を食べればもとに戻る。母さんも父さんも朝が弱いから、遺伝的に僕も朝が弱い。起きるのが辛い気持ちは、誰よりも分かってるつもりだ。
フラフラになって階段を下りる母さんを支えながら、なんとかキッチンについて、椅子に座らせた。
「まだ寝惚けてるのか…。ほれ、パンでも食え」
父さんがパンを一口サイズにして、母さんの口に放り込んだ。モグモグと食べ終わって、目を開けて大きなアクビをした。
「ファァァァ〜。おはよう!ソルト。ライル!」
「おはようさん。早く食べないと遅刻するぞ。今日は打ち合わせの日じゃなかったか?」
「うわっ!そ、そうだったーー!」
母さんはものすごい勢いでご飯を詰め込んでいく。喉つまりを少し起こしてるけどね…。いつも見てるけど、いつか本当に喉つまりしたらどうしようって心配になるときがある。
「母さん…大丈夫…?」
コクコクと頷いて、ミルクで食べ物を流した。……絶体大丈夫じゃないよね。
「プハァ!!じゃあ、いってきます!」
「おいこら!資料忘れるなよ!ライル…!わりぃけど後は任せていいか?」
「うん。分かってる。いってらっしゃい」
父さんも母さんも働いてるから、家にいないことが多いけど、夕御飯の時はちゃんと一緒に食べる事が決まり事だから淋しくはない。
合鍵は僕が持ってるし、食器を片付けたら外に遊びにいく。遊びっていっても、散歩とかするぐらいだけど…。
「うん。今日も綺麗だね。じゃあ、いってきます!」
そう誰もいない家に向かって呟いた。ちゃんと戸締まりをして…っと。あっ!そう言えば、ここがどこか話してなかったね。ここは中央州の首都“クロッメル”。中央州のなかでもっとも大きな街。
僕は先ず、大聖堂の前にたどり着いて、ベンチに座った。ここでよく絵を描いてるんだ。今は無いから描けないけどね。
「僕が本当にやりたいことって…なんなんだろう?」
僕は今だに自分がどうしたいのか、将来の夢が全くなかった。やってみたときはものすごく楽しくて、いいなって思うけど、それを職として食べていこうとは思えない。
つまり、僕はロマンや夢の欠片もない子供に育ってしまったんだ。でも…いっかいだけ、本当に一回だけ…僕にも幸せがあって、それが夢だったのかもしれないって思う事があったんだけど…それはまた今度にするね。
「ラーーイル君!」
そう声をかけてきたのは、悪ガキトリオと呼ばれてるこの街では有名な僕の……一応友達。
「お前は相変わらず今日も暇そうだな」
「ライルは常に暇人だろ?」
「それもそうだったな!」
そういって、僕を笑いの道具にして笑う。僕だって、暇じゃなかったら君達と付き合ったりなんかしないさ。何だかんだで振り回されて、いっつも僕がとばっちりを受ける。今日もそうだ。危ないことに巻き込まれて終わるに決まってる。
「今日もどこかに行くの?」
「おっ!流石頭がいいライル君は話がわかるな!」
そういってまた笑いだした。どれだけ笑えば気がすむんだ…。
…はぁ。あんまり気乗りはしないけど、この悪ガキトリオの説明をするね。先ずは、リーダーのメコン。種族は“ニューラ”。サントリオの中心角で、こいつが一番たちが悪い。主に作戦を決めるのがメコンで、面白そうなことにはすぐに首を突っ込む。実はものすごくビビり。
次はナラス。種族は“ヤンチャム”。こいつも中々曲者だけど、その体のどこにそんなパワーがあるか分からないが、自分の進化系と同じ大きさの岩も軽々持てるほどの力を持ってる。お母さんがものすごく怖いらしい。
最後にサムラ。種族は“ガーディ”。見た目に反してものすごく足が遅い。でも、このなかでは一応頭脳派。アイディアマンではあるけれど、それを変なことに使ってるから、勿体ないってずっと思ってる。こっちはお父さんが怖いらしい。
「実はさ!最近噂になってる、この近くの“暗闇の森”の神隠しの話…あれ、本当らしくて、それを確かめに行こうと思うんだ!お前も来るだろ?」
「また余計な事に首を突っ込んで…どうなっても知らないからね?」
「大丈夫さ!ちょっと行って、何もなさそうだったらすぐに帰ってくるって!ほら!ボケッとしてないで行くぞ!」
そう言われて、僕は強制的にこの悪ガキトリオについていくことになった。でも…それが、これから起こる大冒険の始まりだったなんて…思ってもいなかった。
〜2〜
“暗闇の森”その場所は生い茂る木々によって、日光が塞がれて日中の間でさえも夜のように暗い。
「うう…。なぁ、メコン。やっぱり止めようぜ?」
そう言い出したのは“ヤンチャム”のナラスだった。よく見たら、足がガクガクして今にも逃げ出したいと言っているようにも見える。
「ここまで来といて何言ってんだよ」
「だ、だって…お化けとか怪物とか出たりしたらどうするんだよ」
「お、お化けなんているわけねぇだろ!?そんな非科学的なもの!」
そう言うメコンも動揺してる。僕は別にそう言うのに関しては、どうとも思わない。お化けも怖いだなんて思ったこともない。どうして怖いって思うんだろう?……多分、僕はお化けよりも怖い事を体験しているから、こんなことを言えるんだ。今そう思った。
「でももし…本当に神隠しにあったら…」
「変なこと言うなって!もうここまで来たら、後戻りなんて出来るか!」
あれ?そう言えば…サムラが一言も話してないけど…どうしたんだろう?
そう思って、サムラの顔を覗くと、目を開けたまま気絶してるみたいだった。…ダメだこりゃ。
「おい!行くぞ!」
「うぅ…!」
そう言って、メコンはサムラを引きずりながら、ナラスは半泣き状態で歩き出した。この中で一番浮いてる僕は、誰よりも平然としている。今なら、口笛だって吹けると思うけど…そうなったら、きっと怒られるから止めておこっと。
「
…グルルル」
「っ!?い、今なんか聞こえなかったか!?」
「そうかな?」
「きっと、この先に神隠しの元凶がいるんだ。静かに行くぞ」
僕達はなるべく音をたてないで先に進む。すると、僕はいきなり何かに口を塞がれた。え!?な、なに?この状況!
慌てて暴れるけど、完全に拘束されて身動きが取れない。段々意識が遠退く一方、メコン達もどんどん離れていく。知らない間に、僕は夢の中にいた。
僕が眠ったのを見た犯人は、そのままどこかへ連れていってしまう。そして…メコン達は…。
「な、なぁメコン」
「今度はなんだよ!」
「ら、ライルが……ライルが消えた…!」
「……え?え?…………」
もと来た道の方を見て、ライルがいないことを確認した。
「「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」」
メコンとナラスは悲鳴をあげながら、もと来た道をすごいスピードで走り抜けていった。
そう───これが僕の運命の変わり目。本当の戦いは…これから始める。