1話
〜1〜
「アーーーールーーーーーー!!!!!」
ものすごい怒号が町中に響き渡り、町中のポケモンたちがまたか!といっせいに思った。
この怒号は、けして珍しいものではない。と言うか、毎日のように朝、昼、晩でこの怒号がおこる。もはや、どうとも思わなくなっている者も出てきているぐらいだ。
「よっと…!ワリィな姉さん。今回ばかりは…俺も本気なんだよ」
屋根と屋根の間を飛び越えながら、怒号が聞こえてきた先に向かって呟く。この少年。名前はアルティルス・ドラグーン。種族はキモリ。冒険者に憧れ、伝説のお宝をこの目で発見するのが夢だ。アルティルスと言う名前だが、長いのでほとんどのポケモンはアルと読んでいる。
首もとに赤いスカーフを巻いているが、それが彼のトレードマークであるのと同時に、首にある傷を隠すため。
すると、屋根の修理をしていた大工の親父さんが、話しかけてきた。
「よう!アル!まーたやらかしちまったのか?お前も物好きだな〜」
「シーーっ!そんな大声出すなよな!バレたらどーすんだよ!」
この町でアルを知らないポケモンはいない。ちょっとした有名人ってことだ。…悪い意味で。
「おっと!そりゃあ悪いことしたな。まぁ、精々頑張れよ!」
「言われなくても分かってるさ!まぁ、ありがとな!」
別れをつげて、町の出口に向かって走っていく。まぁ、そんな簡単に通れるだなんて思ってない。なんせ、あの鬼…いや。なんでもない。
とにかく!どれだけ早く町の出口を潜れるかがかかってるんだ!
「……はぁ」
毎日のように姉と追いかけ子っをしてると、大分慣れてきて、疲れることも無くなっていた。本当に慣れって恐ろしい…。
俺の姉は、俺が冒険者になるのに大反対している。理由は単純。俺の父さんは、冒険者で、とあるお宝を探してる最中に死んでしまったから…。母さんは、その事を知ってショック死。そんなことがあって、じゃあ行ってこい!なんて言えるわけない…。
「それは…俺も十分分かってんだけどな…」
それでも、俺は…父さんが目指したお宝を探したい。父さんの意思を…俺が継いで、宝まで導く。ただ、それだけのこと。
おっと、そんなことを話してたら出口まで着いたな。姉ちゃんは…っと。しっかり周りを確認して、いないのを確認!さぁ!これから俺の輝かしい冒険が────
「いい加減にしなさい」
────はかなく散った。
“蔓の鞭”で俺を拘束して、ずりずりと引きずる。この技を使ったのは他でもない、俺の姉であるメール・ドラグーン。種族は“ベイリーフ”。さっきも話した通り、俺が冒険者になるのを大反対している。
「まったくあんたって子は…!そろそろ諦めなさい…!」
「嫌だね!俺は!父さんみたいなカッコイイ冒険者になるんだー!」
もちろん。この台詞のやり取りももう何千回と繰り返した。だから、姉さんも俺の決意もきちんと分かってる。だからこそ…だからこそ反対するのも、俺は知ってるから。
でも、それでも俺はこの町の外に行ってみたい!きっとそれは、無駄なものじゃない!
「ダメに決まってるでしょ!?私は、お父さんみたいに、あんたに死んでほしくないの!なんで分かってくれないのよ!」
「俺は死なない!」
この言葉は…自分に言い聞かせる為に吐いた。俺の決意と共に、俺は絶対に忘れたりなんかしない。その覚悟は、どんなことがあっても揺るがないから…。
「俺は、俺の事を大切にしてくれてる皆の為に!俺は死なない!皆の涙は見たくないから!」
「なら!なんでそうまでして行こうとするのよ?」
「誰かを失わないためには…俺は強くならないといけない!俺が強くなれば、もう誰も失わない!俺自身も死なない!だから俺は、もっともっと強い男になるんだーーーーーー!!!!!!」
すると、俺を拘束していた“蔓の鞭”が緩まった。その隙をついて、町の門の外に飛び出す。なんでか分からないけど、俺も姉さんも泣いていた。泣きじゃくった顔をしていた。いってきます!の一言も言わないで…俺は町から旅立った。
「強くなるまで!帰ってくるなーーーーー!!!!」
姉さんのその一言が、確りと俺の耳に届きながらも。俺は、なにも言えずに…なにも言わないで…町が見えなくなるまで走った。
〜2〜
どれぐらい走ったんだろう?それさえもよく分からなくなっていた。とりあえず、隣町に行かないことには、俺のこの冒険も一発でおじゃんだ。
せっかく姉さんが許してくれたのに…頑張らないと…!
「俺はやる男だー!」
「何がだ?」
俺の後ろにいたのは、“ゼニガメ”と言うポケモンだった。なんでか分からないけどこっち睨んでるし…なんか…怖い。
「そこ。通りたいんだけど」
「あっ。わ、わりぃ」
少し道を避けると、その“ゼニガメ”はスタスタと歩き、少し間を置いてこっちに振り返った。
「道の真ん中でバカみたいに大声出されると迷惑だから、もうやるなよ。いいな?」
それだけ言って、その“ゼニガメ”はどこかに行ってしまった。
………………………………な
「なんだアイツ!!!感じ悪!!」
あー最悪だ。最初に会ったのがあんな奴だなんて…!とにかく、さっさと移動して隣町に行かないとな。
「さぁ!気を取り直して行ってみよー!!」
ただ、この先に待っていた俺のパートナーが………どんでもない奴だなんて事は、当然俺も知りよしもなく。
もちろん、この男も。
「はぁ…なんであんなバカみたいな奴に会うんだ。俺の運勢って最悪だったか?」
誰も…知るよしもない。これから起こる。世界の危機の事なんて…。