序 目覚め
目が覚めた。
? ここはどこで今は何時だ。なぜ寝ていた?
『……』
記憶がどこか飛んいでる。
確か、下水道に潜って……潜って……?
『その後どうなったっけ? ……?』
頭の中がなんだかフワフワしている。それだけじゃなくて全身フワフワしている気がする。いや、モフモフか? 違和感が半端ない。
……何故?
それよりも、ここは何処だ? 見覚えがあるが、広すぎて良く分からない。
『……! ポケモンセンターの待機室だ。それも人間じゃなくてポケモンの』
成程、だから無駄におもちゃが置いてあるわけだ。
……んん?
『じゃあ何で俺はここで寝てたんだ』
自分の手を見る。
俺の手ってこんなに茶色い毛でモフモフしてたっけ?
目が覚めたら目の前にあった、鏡の様に俺の姿を反射している窓ガラスをよく見る。
俺ってこんなモフモフで可愛らしかったけ?
俺って四足歩行だったっけ?
『俺ってさ……イーブイだったっけ?』
成程違和感がするわけだ。そしてこのポケモン用の待機室にぶち込まれたわけだ。
窓ガラスには怠そうに目を半開きにしていて、頭にはアホ毛が跳ねているイーブイが映っていた。
『んー。あの……とにかく寝よ』
俺がそう呟いて、夢の中に逃げ込もうとした時に、ドアが開いて白髪混じりのおじちゃんが入ってきたのがほぼ同時だった。
ドアの方へ振り返る。
そこに居たのは。
『げっ……親父』
「その見るからにアホそうなアホ毛といい世界の終わりのような覇気のない虚ろな目……お前、キルトか?」
さらっと義父に悪口言われた。
俺はムスっとして答えた。
『そうだけど? ……あ、喋れた』
「やはりそうか。因みにお前が喋れるのは、お前の首に巻かれているなんの変哲のない赤い首輪のおかげらしいぞ。
シャドウ・オブ・ホープからのプレゼントらしい。便利だし外せないから放置しているが……地下で何があった?」
しばらく沈黙が降りる。
集中して思い出す。
『んー……スマン。思い出せない……』
「そうか……まさかお前がイーブイになって戻って来るとは思わなかったぞ」
今頃この最大の疑問が舞い降りた。
『何故、俺はポケモンに?』
「分からん……が、検査結果では、遺伝子が人間ではなくポケモンそのものに塗変わっているそうだ」
『そんな事が……まさか?』
ここである事が思い浮かんだ。
俺らが追っている組織、シャドウ・オブ・ホープ。奴らは最近大量のウィルス株を購入したと。
まさか……いや、そんな事、ある訳ない。
だとしたら俺はどうして?
「今、お前がポケモンになったことを報告して、お前も薄々気付いているだろうが、ある疑惑が浮上した。
だが、仮にそれが実現したとしても、奴らの目的は結局分からないがな。
……お前は、どうする?」
どうする?
『どうするってどういう意味だ』
「お前がポケモンになった以上、奴らを捜査するには色々危険が付きまとう。捜査が続行不可能とお前が言うのなら、捜査を続けなくてもいい。
野生のポケモンだと勘違いされて、捕まったらどうするんだ
その体で、捜査を続行するかどうか、今、決めろ」
成程……確かに危険だ。野生のポケモンに襲われて、どう対処すべきか知らないし、この体じゃ不便なこともあるだろうし、生死に関わることもあるかもしれない。
だけど、約束したんだ。
独り言のように俺は告げた。
『……捜査は、続行、します。
俺の荷物を、持ってきてください。
……俺は、約束だけは、破らない』
最後は誰にも聞こえない声で、ぽつりと喋った。