『ぐらうんど・ぜろ』にてみなさんと
序章
プロローグ
『こぉのバカむすこぉお! いくら上のアホ共が期待してるからと言ってもやりたい放題していいわけじゃないんだぞ! 全く……』
 
 国際警察より支給された、イッシュで普及しているライブキャスターなる便利な通信機の画面に、カーキ色のコートを羽織った白髪混じりの男が怒鳴っている様子が映し出される。
 このおっちゃんは俺の義父さんであり仕事仲間でもある。
「それよりもだるいぃ……イッシュのヒウンシティなんて、人と人と人しかいなくて疲れますよ……この中から不特定の怪しい人物探せなんて言われたら、そりゃやる気失せて、趣味のポケモンバトルに興じちゃいますよ」
 そう言って、大きなあくびをする。
 そしたら、画面内のおっちゃんは、呆れて溜息をついたあとにこう言った。
『お前、昨日と今日、捜査をせずに何をしていた』
「ポケモンバトル」
 画面の中のおっちゃんが、がっくりとうなだれた。
 精神的に参ってるんだろう。この子は一体どうしようと。
 しかし、次におっちゃんが顔を上げると、真剣な顔つきになった。
『まぁいい。遊んでる分、ちゃんとヒウンにあるという奴らのアジトは特定できたんだろうな』
 俺は含み笑いをして告げた。
「ばっちりです」
『ならいい。奴らは過去のプラズマ団等の組織とは違って、隠密に、それも慎重に行動しているからな、あまり素性が掴めないのが現状だ。で、どうする?』
 俺はいつものふわふわした声じゃなく、お仕事モードの声で言う。
「実は今から奴らのアジトに単独で入るつもりです。奴らのアジトは管理の甘い下水道の奥の、更に地下らしいです。止めても無駄ですよ。俺はせっかちなんで。
 で、明日の今の時間、もし無事だったら連絡します。連絡がなかったら……」

『私がそちらに向かい、確かめよう』
 
 俺はでは、と話を区切ってライブキャスターの通信を切った。
 

 イッシュで初めのプラズマ団が現れもう7年以上が経った。あの時、国際警察が活躍する前に、ある一人のトレーナーがプラズマ団を壊滅させて、めでたしめでたしとなった。
 最初のプラズマ団壊滅から二年後。一度だけプラズマ団は復活したが、そいつらもまた、国際警察の出番が来る前に、事件は終わっていた。
 しかし今回の新たな組織は違った。明らかにプラズマ団よりも慎重に、且つスムーズに事を進めていた。
 奴らが何を行っているかは現時点では知らない。
 しかし、ある情報がこちら側に漏れた。
 奴ら、新組織シャドウ・オブ・ホープはウィルス株を大量に購入していた。
 これは、国際警察からしたら、テロの前触れとしか思えなかった。

獣正虚人 ( 2012/07/07(土) 09:46 )