第1章 始まる旅
第四話 謎の訪問者
「う……」
フレイが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
「知らない天井……じゃない、ポケモンセンターか」
町に一つだけあるポケモンセンター、その一室にフレイは寝かされていた。
(お袋とバトルして……その後……)
「お、目、覚ましたか」
いきなり声をかけられて驚いたフレイは体を一気に起こす。ベッドの横にはカイルが立っていた。
「っ……! カイルか、驚かすなよ」
「ハハッ、起きたばかりだからって気抜きすぎなんだよ」
「で、なんの用だ」
フレイはベッドから出るとカイルに質問をする
「そんな大したことじゃないよ、俺もお前も試験に合格した言いに来ただけ」
「へぇ……正直お前は無理だと思ってたよ」
「うわ……ひどい……」
そんな会話をしながらフレイは部屋のイスに座る。
「とりあえず目が覚めたなら、お前の母さんに会いに行けよ」
カイルはそう言うと勝手にベッドに寝転がろうとする。
「行くのは分かったが、お前、頭でもぶつけたか? あと、勝手にベッドを使うな」
「ベッドぐらいいいじゃん。というか、頭ぶつけたかってどういうこと?」
「とにかく……そこのイス使え」
フレイはもう一つのイスを指差し、カイルは渋々ベッドを離れるとそのイスに座る。
「あ、そういえばさ、これ」
カイルは鞄から分厚い本を取り出す。
「確かお前のだろ?」
そう言うと、カイルは本を投げる。
「おい、他人の物なんだから丁寧に扱え」
本を受け取ると、フレイはその本の題名を確認する。
「『コルノ地方の伝承』……確かに俺の持っていた本だ」
コルノ地方とはフレイやカイルたちが今住んでいる地方の名前である。この本はフレイがもっと幼い時に両親に買ってもらった本だが、数日前から本棚からなくなっていて、探していたところだった。
「でもなんでお前が持ってたんだ? 誰かに貸した覚えなんてないぞ」
「まあ気にすんなって。あ、それ読ませてもらったから」
カイルの読ませてもらったという言葉にフレイは驚く。
「お前……熱でもあるのか? 本なんて全然読まないだろ?」
「いや、俺だって……たまには……読む時もあるよ?」
「最後が疑問形になってる時点でダメだろ」
そんな会話をしている中でフレイは若干違和感を持ち始めていた。
「なあ、お前本当にカイルだよな?」
「何言ってんだよ、当然さ」
その言葉を聞いたフレイは少し考えると、ある提案をした。
「体動かしたいんだけど……バトルでもするか?」
「え、よそうぜ。昨日あれだけやったんだから」
フレイは軽く鼻で笑うと、真剣な顔でカイルに言う。
「あんた……何者だ?」
二人の間に沈黙が流れる。
「は? 一体どうしたんだよ? いきなりそんなこと言って」
「もう隠さなくていいって言ってるんだ。誰なんだ、あんたは」
カイルは驚いたような戸惑っているような表情を一瞬見せるが、その表情はすぐに隠れた。
「ふふふ……完全に気づいているのなら、もう演じる必要もないですね」
その声はフレイの知る誰の声でもなかった。カイルの姿のままそれは話を続ける。
「確かに、私はそのカイルという少年ではありません。ああご安心を、あなたに危害を加えるつもりはありませんから」
「それで、一体何が目的なんだ……」
「あなたたちの力を確かめるため、という答えでどうでしょうか?」
「ふざけてるのか?」
「いえ、本当のことを言っただけですよ」
そう言った直後、声の主はカイルの姿から黒いマントで全身を覆った姿へと変わった。
「初めまして、と言っておこうかな?」
フレイは咄嗟に身構えるが、急に体が動かなくなる。
「ッ……!?」
「今君と戦うつもりはないから、しばらくそのままこちらの話を聞いてもらおう」
謎の来訪者は先ほどフレイに投げ渡した本を手に取る。
「伝承、伝説、寓話。その多くは作られたもの。」
そう言うと、本を机に置きページをめくっていき、あるページで手を止める。
「しかし……その中には真実も存在する。そして、それを求めるものは絶えない」
音もなくフレイに近づくとその頬に触れる。その手の冷たさ……血の通っていない死人のような冷たさにフレイは言葉にできない恐怖を感じた。
「君はその真実にたどり着き、知る資格がある……いや、たどり着いてもらわなければならない」
そう言うと来訪者は部屋の窓から外へ飛び出す。と同時に、フレイの体も動くようになり、窓から身を乗り出して下を見る。しかし、そこには誰も居らず、部屋の中にもいた痕跡すらなかった……ただ一冊の本を除いては。
「伝説の中の……真実」
フレイの言葉に答えは無く、ただ、沈黙だけが流れていた。

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■筆者メッセージ
ようやく続きです……遅くなってすみません
クロス・ネクサス ( 2013/03/29(金) 23:05 )