第一話 炎と波導
ポケモンたちが住んでいるこの世界、その西にある小さめの町、そこに「彼」は住んでいた。
クマに近い体型、深緑色の背中、クリーム色の腹、背中と同じ色の小さな耳、そして鋭い目。
そう、バクフーンである。彼の名前はフレイ。
彼は一般のバクフーンとほぼ変わらない姿をしていたが、一カ所だけ違うところが有った。
彼の右目は炎のように赤かったが、左目は青、すなわち、オッドアイなのであった。
過去にこれのせいでいじめられることもあった。
町の中心の広場にあるベンチに座っている彼は手に本を持っていたが、それは閉じられており、当の本人は空を見上げていた。
「おーい!フレイ!」
と、そこへフレイを呼ぶ声がして、彼は本から目を離し、声のした方を向いた。
そこにはイヌのような頭で青と白、そして黒の毛でおおわれている、二足歩行のポケモンがいた。
「ああ、カイルか。一体何の用だ?」
彼はルカリオのカイル。
フレイの幼なじみであり、数少ない彼の親友でもある。
「明日、卒業試験だろ?それに備えて俺とバトルしねえか?」
少しここで補足しておこう。
今のこの世界でのポケモンバトルは、強さを競うだけのものではなく私たちの世界で言うスポーツのようなエンターテイメント性を持ったものとなっている。そのため、「魅せる」バトルをする専門の職業もある。もちろん、それを目指す者たちも多い。
そのような者たちのほとんどは道場やジムに行き、そこでバトルにおける技術などを学ぶ。(当然、そのようなところに行かず、独学で身に付ける者もいる。)
道場、ジムともに技術を学ぶための場所だが、両者の間にはいくつか違いがある。どちらもバトル中に死亡事故などが起こらないよう、監視する公的機関に登録し、施設の安全性がしっかり確認できなければ運営することは出来ないし、その責任者も十分な実力があると認められなければならない。
しかし、ジムは挑戦者とのバトルの様子を映像媒体で記録し、その日のうちにジムを統括する団体に提出する義務がある。これはジムの様子を細かくチェックすることでジムの質を維持することを目的に作られたシステムである。さらに、この映像は団体でチェックを受けた後テレビ局にも提供され、一般に公開される。そのためその映像を利用して挑戦者が対策を立てて挑んでくることもある。この義務がある一方、団体からはジムの施設に関する費用の全面負担などのサポートを受けることができる。
カイルは自分の尊敬するある人物に勝つことを目指して道場に来ている。
一方フレイは……
「俺はパスだ。相手がお袋である以上、できるだけベストに近い状態でいたいからな。」
なんとなく察していただけただろうか。フレイの母はこの二人の行っている道場の責任者なのである。本人の希望もあり、フレイは小さい時からずっと道場にいて練習に参加してきた。
ここで会話の中に出ている卒業試験は義務などではないが、設けている道場は多い。フレイたちの行っている道場の卒業試験は「責任者と一対一で戦う」というものになっている。
「まあ……それもそうなんだろうけど……なんか体動かしてないと落ち着かなくて」
「相変わらずだな」
そう言うと、フレイは立ち上がった。
「あれ?どこか行くのか?」
「家に帰るだけだよ」
「そっか、お前がやる気ないんなら少し走ってこようかな……」
「好きにすれば良いが、怪我するようなことにはなるなよ」
「そんなことは分かってるよ!じゃあな」
「ああ、また明日」
そう言うとフレイは自分の家へ、カイルはフレイとは逆の方向へ向かっていった。
木の陰からそんな二人の様子を見ていた者がいた。その姿は黒いローブに包まれ分からない。その者はそのまま二人を交互に見た後、ボソッと何かを呟くが、その言葉は誰にも聞こえることは無かった。そして、二人が視界から消えると、その者も何処かへと立ち去っていた。