海鳴りのビードロ
本 -3-
 初めの方、好調に進んだ。彼らは岸の近くを転々と進みつつ、暑い日差しに負けないよう休憩を取る。道中ではペリッパーの地元の話をしていた。市場、大型船、墓地の並ぶ山……。シードラもキングラーも、大型船くらいなら見たことあるが、他は知らないことばかり。憧れを抱くのも無理はなかった。目的のものを見つけたら、ゆっくり見て回ろうと、話をした。ペリッパーも付き合うといった。

「……こやまずい……」
「どうかしたか?」

 急にペリッパーが顔を青ざめた。

「嵐だ。そいも、とびきりひでやつだ」

 前方に黒雲が壁のようにそびえ立った。雲の下の様子の酷さは時々見える強い光と雷鳴で伝わってきた。

「……どうする。一旦ここで止まって凌ぐか?」
「いや、遅れきぞじゃっで急ぎたい」
「じゃぁ、このまま突っ込むのか?」
「そいしかなか」

 ペリッパーを見失ったらまず終わりだ。何とかうまく乗り切るしかない。シードラは決意を固めた。
 雨は冷たく激しさを増すが、水タイプなのでそこまで問題にはならない。だが、強風が常に向かってくるので油断すればすぐ吹き飛ばされる。ペリッパーも苦戦を強いられ、先程から飛び方が安定しない。

「……まちっとだ」

 ペリッパーは自分に言い聞かすように言った。シードラ自身も、自分に頑張ってくれと念じ、ずっと前を向いて泳ぎ続けた。




 上からの雷には不注意で。



〜〜


 シードラが気づいたとき、右も左も海だった。ポケモンの影すら見えなかった。遭難というやつだとはすぐに分かった。自分が持っていた食料はほとんど流された様子。途端に、シードラは自分が孤独であることを嫌に意識した。昔の記憶を蘇らせ、同じ苦しさがこみ上げてきた。何もない場所で、何もない自分で何ができるでもなく呆然とする。
 とりあえず泳いでみても、何も見えやしない。1日は何とか耐えたが、心持ちも、食べ物も、気力ももう限界を迎え始めていた。
 目眩を起こして倒れそうになったとき、シードラの耳に、懐かしい音が響いた。求めていたあの音が。ありえないが、聞こえてきたのは海中からだった。なぜ聞こえるのかとか、そういうのはどうでもよかった。幻聴だとも全く気にせず、海を潜り、音の在り処を探した。急に活力が湧いたのだ。まだ、生きていたいと、死ぬわけにはいかないと、必死にヒレを動かし、下へ下へと向かうと、そこには、あの赤いビードロが見えた。シードラは、思いがけず涙がこみ上げてきた。







 タンバシティ沖。一匹の色違いのシードラが亡骸で見つかった。詳細は不明だった。

フィーゴン ( 2016/07/27(水) 18:35 )