海鳴りのビードロ
本 -1-
 時を経て、タッツーはシードラへ進化した。赤色の腹は変わらないが、昔と違って水ポケモンたちには馴染めている。

「昔からかなり変わったな」
「自分でもそう思うさ」

 目を閉じて思い返してみても、やはり昔よりも自分は数段良くなったと感慨に耽る。その時、ふと、脳裏をよぎったものを口にした。

「昔はホント、小さなガラスの遊び道具くらいしか、相手がいなくてね」
「へぇー、そいつはどんなだい」

 キングラーが大きなハサミを、ちょうど人間が腕を組むように交差させ、ぎもんと泡を吐く。

「丸いのに細い筒がついていてな。底は相当薄いんだ。赤色なんだよ。あとは……あ、そうだ。筒のとこに息を吹き込むと変な音が鳴るのさ」
「なるほどなぁ、そいつは随分愉快な友達だろうよ。で、今はどうしてんだい」
「数日で底が割れて使いもんにならなくなったんだ。あの時は狂ったように泣いたね」
「初の友達が数日で壊れちまうたぁ、世の中も辛辣なもんだねぇ」

 キングラーは、自分の言葉を頭の中で反芻させ、改めて頷く。そして、そんな少年時代を耐えたシードラを少しばかり称賛した。

「しかし、なんだい。そいつに似たやつ、お仲間さんは見つけたかい」
「いや、まだ見とらんが……あるんかい?あんな珍しいやつ」

 そもそも、近頃海に捨てられるものも増えて来はしたが、大体は固く、冷たい立方体。鉄なんかの金属とやらが多くで、ガラスはほとんど見ない。ましてや、そんな精巧なつくりのものは極端に稀だ。

「ニンゲンさんのことだよ。もしかしたら、そいつばかりあるようなところだってあるかもしれんぜ?」
「確かにそうだな。あいつら、同じようなもんばかり作りやがるし」

 そうであれば、あの頃の小さな楽しみが再び味わえるかもしれぬ。あの音、タッツーの頃の、何もなかったあの頃を支えたあの音。今となっては必要ないが、懐かしいあの音をもう一度耳にしたい。懐古の念は、シードラの中で少しずつ大きくなっていた。なので、「なんなら探してみるか?」というキングラーの誘いに、迷いなく返事したのである。

フィーゴン ( 2016/07/27(水) 14:41 )