海鳴りのビードロ
 海には多くの物が捨てられる。大方はゴミばかりだが、一匹のタッツーはその中からあるものを見つけた。ガラス製、壺のような形、簡単に割れてしまわないようにと厚く作られているものの、そこは極めて薄い。ビードロという玩具だ。吹いた時の特徴的な音色から“ぽっぴん”という和名もある。だが、このタッツーはそのことさえ知らない。にも関わらず、非常に興味を持った。他のタッツーとは違う、赤みを帯びた腹と、ビードロの赤みに共通点を覚えたのかもしれない。
 体の構造上、口でつつく程度からこの玩具を調べ始める。そのうち、口で咥えたり、そこから振り回したりと様々試してみるうちに、息(正確には水なのだが)を吹き込むと、そこが膨らんだり凹んだりして音を鳴らすことにも気付いた。深海での静寂の中、タッツーが聞いたその音は、どれほど印象の強いものだったろう。面白くなって何度も吹き続け、何度も遊び相手として使い続けた。
 ある日、ビードロの底が破れ、音が鳴らなくなってしまった。元々、強い水圧の中ギリギリの状態で形を留めていたにも関わらず、連日、酷使し続けたため、原因は単に老朽化でしかない。それにしてはよく数週間も保ったし、むしろそこまで壊れなかったのが不思議であるという程。タッツーは遊び相手が壊れてしまい、泣き喚いたが、数日経つと涙も止まり、やがてそのことは忘れるようになった。

フィーゴン ( 2016/07/27(水) 14:26 )