五話 鋼鉄の如く
百二キロの巨体が一瞬で床屋さんに突っ込んだ。効果抜群の上に、あの速さで飛ばされたら、意識が飛んでいてもおかしくない。店員は間一髪で避けたが、店内は大惨事だ。
青と黒の体毛と胸の肌色の体毛についたトゲが特徴のルカリオ。格闘タイプのポケモンのなかでもかなりの強さを持つ種族だ。ルカリオは、体勢を戻すと、今度はズルズキンの方を見た。
「てっ……てめぇ!」
仲間をやられたズルズキンは脇目もふらずに一直線にルカリオに襲いかかる。
「とびひざげり!」
ズルズキンは空中に飛び上がり、膝を突きだして技を繰り出す。鋼タイプでもあるルカリオには、当たれば大ダメージは免れない。しかし……。
「みきり!」
ルカリオは回避の姿勢をとり、ズルズキンのとびひざげりを難なく避ける。攻撃をはずしたズルズキンは地面に激突し、ダメージを受けた。
「神速!」
その隙にルカリオが追撃を仕掛ける。ぐわっ、と叫んで、ズルズキンは倒れた。
「ふぅっ」
ルカリオは手をはたくと、僕の方を向いた。
「大丈夫か、立てるか?」
〜〜
相当の重傷だったのか、ルカリオからオボンのみをもらうまで立てなかった。食べた瞬間体の痛みや疲労が抜けて驚いた。僕は路上に立って携帯っぽい道具で電話しているルカリオを待った。大方、相手は警察だろう。
「もしもし、ガーディさんですか?ちょっと今強盗をつかまえまして……」
つながったようだ。強盗二匹は既にルカリオが縄で縛ってある。
「……いや、ホントすみませんって、あれは。強盗捕まえたんでチャラにしてくれません?……。」
何故か怒られているようだ。一体このポケモンは何をしたんだろう。警察に向かって宣戦でもしたのだろうか。
その後、何回か弁解した後、電話を切り、再び僕の方を向いた。
「お前、何でこいつらにボロボロにされてたんだ?」
「そ…それは…ちょっと事情があって……。」
そうとしか答えられない。技が使えなくて反撃できなかった、なんて話始めたらどんどん複雑になってしまう。
「まぁ、いい。とりあえず自己紹介だ。俺はフィレン。見ての通り、ルカリオだ。お前は?」
フィレンと名乗るルカリオが僕の名前を問う。よく見たら、フィレンは首にペンダントをかけており、腰につけたポーチといっしょに、いかにも歴戦の勇者っぽさを出していた。
「サン。フライゴンだよ。」
「サンか…。ふ〜ん……。」
そう呟くと、フィレンは僕に顔を近づけてきた。
「な、何!?」
いきなりのことでビックリした。人間時代もろくにコミュニケーションをとっていた覚えがないのに……。
「いや〜、君かわいいな〜、って思ってね。」
「ふぇ!?ぼ……僕が!?」
さらに驚いた。少し嬉しいものもあるけど、急に言われると恥ずかしい。
「あ〜、でもなぁ〜。」
顔を遠ざけ、苦笑いするフィレン。どうかしただろうか。まさか、元男というのがバれたのか?
「僕っ子はタイプじゃないんだよな〜。」
あ〜、っと声を漏らしながら悔しそうな顔をするフィレン。僕は苦笑いを返して半歩下がった。