疾風戦記

















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一章-この大きな世界のちっぽけなところで-
四話 強盗
 二秒か三秒、目を離したときだった。

「おい!お前らぁ!動くなぁ!」

 怒鳴り声の方を向く。灰色と青色の、岩のような体が特徴のポケモン、ラムパルドがさっきの兄弟のルリリを腕でがっちりと捕まえていた。

「うわぁぁぁん!お兄ちゃん!助けてー!」
「リー!」

 ルリリ、もといリーちゃんは泣いて助けを求める。

「うるせぇ、ガキ!黙ってろ!」
「うぅ…。グスン…」

 ラムパルドに怒鳴られて泣き止むが、怯えているのは一目瞭然だ。

「お前らもだ!下手に動いたり助けを呼んだりしたらこいつの命はねぇから
な!」

 商店街に声が響きわたる。さっきまであんなににぎやかだったのに、今ではわずかな風の音でさえ耳にはいってくる。掃除をしていたコダックはホウキを手に震えているし、薬屋のダブランは逃げる準備をしているようにもみえる。もはや、この商店街はこのラムパルドによって占拠された。こんなことをしてまでやろうと思うことはひとつだ。

「おい、銀行!」
「は、はぃぃ…」

 銀行の受付をしていたムウマが蚊の鳴くような声で返事する。

「この袋に三千万ポケ詰めて俺に渡せ」

 ラムパルドが大きめの袋をムウマに渡す。

「い、いや、しかし…」
「つべこべ言わずにさっさとやれ!」

 ラムパルドがムウマをにらみつける。

「は、はぃぃ!」

 慌ててムウマは袋を持って奥へ行った。

 この状況、少しだけ何らかの違和感を感じるがどうであれこれはまずい。お金、ポケをとられるだけで終わるならまだいいが、リーちゃんまで連れていかれたら厄介だ。食い止めるなら今しかない。だけど、周りは誰も動こうとしない。僕が動いたとしても、相手を倒せる有効な手段があるわけでもない。警察を待っても遅いだろうし、そもそもにあるのかどうかも分からない。こういうときに限って天使さんはいないし……。まったく……。神と手違いのついでに天使さんも恨んでおくことにしよう。とにかく、今の僕には 何もできない。敵を倒す方法…。何かないか?何か……。

 ん?いや、待てよ…?

「おい!まだか、銀行!」
「は、はぃぃ!」

 …うん。そうだ。確かにそうだ。ならば…。

「こっちも暇じゃねぇんだ!早くしろ!」
「は、はい!」

 …よし。いける。リスクは大きいがこれに賭けよう。となると、時間も少ない。さっさと実行に移そう。


〜〜


 僕はラムパルトが見ていない隙に後ろへ下がった。後方には幸いにも木の実屋さんがある。店頭に出されているものをひとつつかんだ。

「おい!」

 僕が呼びかけると、ラムパルドや他のポケモンか僕の方を見る。その瞬間、僕は木の実をラムパルドにぶん投げる。不意を突かれ、尚且つ片手が塞がっているラムパルドは、防ぐこともできずに顔面に直撃する。木の実が潰れ、ラムパルドの視界を奪う。

「うわっ!何しやがるっ!」

 ラムパルドが顔に付いた木の実を取ろうと手で顔をこする。
 その隙に僕は、低空飛行で別の場所へ向かう。コダックのところだ。そうじに使っていたホウキを奪い取る。

「あ、ちょっと!」

 コダックの制止も聞かずに僕は最高速度でラムパルドに接近する。あと五秒くらいで視界が戻る。僕は、ホウキの柄の部分でリーちゃんを捕まえていた腕を思いきり叩いた。目的は相手を倒すことではなかった。人質の解放だ。腕の力が緩んだ隙にリーちゃんが逃げたのを確認し、僕は、視界が戻ったラムパルドに向き直る。

「観念しろ。僕の勝ちだ」

 ラムパルドは苦い顔をしている。


 が、なぜか急に余裕に満ちた顔に変わった。

「バカだねぇ〜、お嬢ちゃん」

 まるで自分の勝ちが分かったような顔だ。

「俺が…」


「こんなこと一匹でやると思うかい?」


〜〜


 直後、背中に強烈な打撃を受ける。僕は体感四メートル吹っ飛ばされた。一体何が…。傷が痛むのをこらえて再び立ち上がると、ラムパルドとは別にもう一匹ポケモンがいた。ズボンのような黄色い服と橙色の肌が特徴のポケモン、ズルズキンだ。

「ちっ、一発じゃやはり無理か」

 ズルズキンがこちらをにらむ。体が鉛のように重い。いろんなところが痛み、フラフラしながら立っているのが精一杯だ。飛行なんてできそうにない。

 ズルズキンが追撃を仕掛けてくる。避けられるはずがない。すべての技が当たり、僕はその場に倒れた。意識がもうろうとする。さっきまで優勢だったのに、いっきに形勢が逆転した。

「ハッ、所詮ザコだな」

 ラムパルドが吐き捨てる。そして僕に近づき、僕の顔を踏みつける。土の味がしてむせそうになる。

「俺らに逆らったらどうなるか、見せしめが必要だよな?」

 ラムパルドが攻撃の体勢に移る。ダメだ…。殺される……!


「インファイト!」

 一瞬の出来事だった。一匹のルカリオがラムパルドを吹っ飛ばすのが見えた。

■筆者メッセージ
どうも。なんとか投稿しました。唐突ですが、マリルとルリリの兄弟って冒頭近くのアクシデントで使いやすいですね。空のダンジョンで使われていた理由に納得しました。
今回はかなりの急展開にしてしまいました。二話ぐらいに引っ張るべき話を一話分にまとめてしまったからですね。中途半端だったんです。すみません。ここまで読んでいただきありがとうございました。
追記:1/4 一部訂正しました。
フィーゴン ( 2015/09/15(火) 22:31 )