一話 目が覚めたら
木の香りで目を覚ました。僕は木に寄りかかって寝ていた。見渡す限り森だ。ここは何処だろう。確か、僕は死んでしまったはずだ。トラックに轢かれたんだと思う。なら、ここは黄泉の国か?もう痛みはなく、体は普通に動く。
寄りかかっていた木から立ち上がる。なんだか妙に視線が高い。体のいろんなところに違和感を感じるし、少し肌寒い。
「…あれ?」
ふと足下を見た時だった。体が黄緑色だった。指は三本になっていて、先端には鋭く尖った爪が付いている。顔をさわってみると、目の部分は硬いレンズのようなもので覆われていて、背中には翼のようなものもあるようだ。
こんな姿の生き物にひとつだけ心当たりがある。
「フライゴン…か?」
僕の体はフライゴンになっていた。
〜〜
いきなり体がフライゴンになっても、ある程度冷静であれた。たぶん、ゲームのし過ぎからかもしれない。でも、どうして僕はフライゴンになってしまったんだろう。黄泉の国ってそんなものなのだろうか。ひょっとすると、僕はまだ死んでいないのかもしれない。僕が昔やっていたゲームに、似たような展開があった気がする。
そもそもになんでフライゴンなんだ。僕はどちらかと言えばエルレイドの方が好きだ。最後に使っていた旅パに偶然フライゴンも入っていたが、エルレイドや他の好きなポケモンも結構いた。
(考えても無駄か)
結局、そう思って考えるのをやめた。
それよりも、ここは何処だろう。場所がいまいちつかめない。翼があっても飛び方がわからないし…。
『…………すか?』
「ん?」
今、何か聞こえたような?
『聞こえますか?』
聞こえる。今度は確かに聞こえた。
「誰ですかー?」
辺りに向かって叫ぶ。周りには誰もいなさそうだけど。
『私は今、空からあなたに話しかけています。これから言うことを落ち着いて聞いてくださいね。』
(空から?)
なんだこの厨二病みたいな展開。もしかしてゲームの世界にでも迷いこんでしまったのか?
『そんな厨二病とか思わないでくださいよ』
(あ、はい。すみません)
………って、
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
心を読まれてる!?なんでだ!?叫んだことなんか気にしちゃいられない。
『落ち着いてください!冷静に!』
「は、はい!」
声に言われて我に変える。
一回、深く深呼吸をした。これでもう大丈夫だ。何にも驚かない。
『いいですか?』
OKだ。いつでも大丈夫だ。
『それでは、話しますね。この世界について』