あの日の記憶
セミの声がうるさい夏、僕は外にいた。
今日は大学の講義があるはずだが、行ってもどうせ毒をはきまくられるだけに決まっている。かといって、家にいても両親がうるさい。
公園のベンチでもう二時間は座っている。目の前では、子供がわいわい騒いでいる。砂場で山をつくったり、滑り台を反対側から登っていたり、ブランコをこぐのを競争しあっていたり…。
僕にもあんな頃があったなと思う。懐かしい。だけど、今はポケモンとかモンハンとかゲームばっかやっている卑怯者だ。
スマホを片手に立ち上がった。そろそろ講義も終わっている頃だろう。公園を出て街路樹の下を歩く。太陽の光に照らされてプラタナスの木が一層眩しく見える。だけど、今の自分にはそれすらも鬱陶しく見える。
交差点で立ち止まる。信号が青になるまで目線をスマホに向ける。普段ずっと使っているので、馴れた手付きで操作する。
人が動き出したのを感じ取り、僕も前方へ進む。スマホに顔を向けながら。歩く人が僕をどんどん追い抜いていく。それにしても、今日は暑い。セミがうるさい。そう思いながら僕は顔をあげた。真っ青な空がビルのガラスに映っている。街路樹の緑も混ざり、とても清涼感のある風景だ。
信号の色が赤だったこと以外は。
横から大きな震動と音が僕に伝わってきた。