一〇一話 確かにそこにあったはずで
一体のフライゴンは意志とともに飛び立ち、一体のルカリオは決意とともに前へ進んだ。こ子から先の話は、その延長である。本来いることが仮定されていなかった存在が、この世界に降り立って、仲間を作り、思いがけずもその先を目指した。物語は、まず間違いなくIF(仮定)の域を超え、新たな局面へと入ろうとしている。
この物語の続きは、そんな、世界のイレギュラーに遭遇した第一人者たる、「彼」を発端として始めたい。しかし、単にあの末尾からは始まらないことをここに断ろう。フィレンという名のルカリオは、その後、ギルドの残ったメンバーの中で、特に主要な仲間とともに、小さな島から大きな大陸へと渡った。それは国王直々の命でもあり、ギルドとしても、大掛かりな行動ができるきっかけと、行方不明の隊員の捜索の契機をまず間違いなく手に入れたのだ。そして、幾多の困難を仲間と乗り越え、試練とも呼べるような窮地も突破した。しかし、物語はそのあとから始めよう。なぜなら、そこが、「その時」が起こる直前だったのだから。
〜〜
アインツに二度目の引導を渡してから、俺たちは付近の村の近くで野営とあいなった。もう結構な数の敵と戦っているわけだが、一向にサンの行方は分からない。別れた別分隊からも報告がない。
「探検隊さん、探検隊さん。どうぞよかったらうちの料理も食べてってくださいだぬ」
「え、ほんとー?!わぁー!メグ、シチューだよシチュー!」
「えっと、いいのかしら?私たち、よそ者mいいとこなんだけど……」
「いやいや、むしろ、あれを追っ払ってくれて、この恩は返しきれないだぬ」
「そう……じゃあ貰おうかしら」
晩御飯が決まったらしい。今日はちょうど俺が料理当番だったからツイている。
「じゃ、当番は一日ずらして、フィレンは明日ね」
「はぁ!?そりゃおかしいだろ!!」
「当然よ?そうじゃないと当番の意味ないでしょ」
こいつ、ニマニマ笑いやがって……。心中お見通しって様子だ。
「私も、フィレンさんのお料理も食べたいです!材料も限られるのに、レパートリーが広くて、毎回楽しみなんですよね〜」
「そ、それならやろうかなぁ〜……」
「はい単純」
「おめーは黙ってろ」
こいつらと、かなり打ち解けてきたはいいが、メグの場合、打ち解ければ打ち解けるほど俺が不利になることも考えておくべきだった。そして、ライのやつも、遠巻きに俺の様子をみて楽しんでるようだし……あ、あいつ……あいつ嗤いやがった!
ライのほうにブーイングサインを出していたら、俺の前にもシチューが運ばれてきた。
「カロトとライはまだたべないのー?」
「あ、うん。今後の進行ルートとかをもう少し話しておきたくて……」
「えー……一緒に食べよーよー」
「無茶言わないの。こっから先は分かれ道も多くなって、下手な道に入ったらはさみうちから全滅まであるんだから。でも、根を詰めすぎるのもよくないわよ」
「オッケー。まあもう三十分くらいだろうよ。冷めないうちにはいくからさ。そのころには、偵察に行った三匹も帰ってくるでしょ」
メグが先に食べちゃいましょ、って言って、挨拶をしてからかつかつと食器が鳴る音が始まる。シチューだが、これがほんとに美味い。取れたて野菜ってのも久々っだっだかもしれんが、これを作った奴はきっとラーディアにも劣るまい。ノンもとても満足そうな顔をしていてかわいい。
「さっき捕まえたやつだけど」
メグが口を開いた。
「手掛かりなし」
お決まりの言葉だった。ソアは黙っている。
「大丈夫でしょうか……きっと、今も酷い目に合って……もしかしたら……」
「やめろ」
それだけはやめてくれ。
「す、すみません……」
「……あ、いや、謝らなくてもよくて、えーとだな……」
しまったな……神経質だった。
「……そうね、ノンちゃんは悪くないわ。早めに伝えるべきと思ったけど、間がわるかった」
珍しくしおらしくなったメグだったが、それを弄るには空気が悪かった。もとはといえば俺なんだ。俺の力がもう少しあれば、きっと、サンは連れていかれずに……。
「ね!このシチューさ、今まで食べたどのカレーよりもシチューだと思うんだけどどう思う??」
「……あんたね、言葉を話しなさいよ」
「メグ!どーおもう?」
「……まずあんたはどう思うのよ」
「えっとね、えっとね!たのしく食べるシチュー、めちゃくちゃおいしいよ!」
「……あっそ」
メグが、ちょっと笑った。なんか知らんが俺もつられて笑っちまった。ほんと、こいつのこういうところにはかなわない。もしかしたら、空気を案じてくれたのかもしれないが……ま、こいつに限ってそれはないだろう。でも助かった。ノンも笑えている。ああ、そうだな。楽しく食べたほうがいいに決まってる。サンもあいつも抱え症だからな、自分のせいで心配されて落ち込まれてるなんて知った暁には不安で眠れなくなるだろう。
そこで、急に頭痛がした。いつもの頭痛だった。頭を抱えると、メグが案じてくれたらしい。
「フィレン、大丈夫?いつもの頭痛よね」
「ああ。今回のは弱めだから問題ない」
「そう……もう七か月前……くらいからだっけ?」
「だな。でも、少しずづ弱くなってるよ。医者はみんな原因不明って言ってるけど、ストレスとかの現代病だろたぶん」
「無理せずにね。こっちでまともな攻撃戦力はあんただけだから」
「それ、お前は戦いたくないって言ってるのと同じだが?」
「その通りだけど?」
まったくこいつ……どこまでも他のやつの心配をしないイーブイだな……。いずれ一発食らわせて……。
_____________っ!やばい奴だ。今までで一番。かなり強い奴がここできた。頭が避けそうなくらい痛い。目をつむる。だめだ、だめだ、死ぬ気さえする。メグの声がするが、遠くなる。意識が、遠く、遠く、なって……
ない。頭痛は一過性みたいで、長い長い五秒をこえると、うそのように痛みが引いた。
「ああぁ、わるい、もう大丈夫だ。心配しんなくていい。痛みは完全に____」
目を開けた。
俺は、付近の村で野営をして、今こうして椅子に座って、さっきまで晩御飯を食べていた。
けれど、目を開けたそこにはだれもいなかった。