九十七話 バベルの塔 #Floor_Error
===前回のあらすじ===
ライもフィレンもいなくなり、塔を登るのは僕とソアだけになった。雑魚相手なら安心できるけど、正直少し不安が残る。カロトのため下の階へ降りたノンちゃんや、ボーバン、それからメグやルート、なんだかんだで天使さんも気になるけど、僕らは上を目指していく。
空気が薄くなってきた。ポケモンの数も少なくなってきた気がする。もう何階だかは完全にわからない。ただとても高いところということだけしかわからなくなってきた。
「……ソア、元気だね」
「そーお?いえーい!」
気負いしきれそうにないプレッシャー。緊張。事態が事態だ。僕等の手に、この島の命運がかかっていると改めて考えると、動きがぎこちなくなってしまう。
「メグの気持ち、少しはわかるかもなぁ」
「ん、メグ?そーだねー、メグは僕のこと大好きだからね!」
きゃははっ、と一笑。当人(人じゃないから当ポケモン?)がここにいなくて本当に良かった。適当に相槌をついて先を目指す。けれども、静かなフロアじゃ、集中力が削がれるというもので、やっぱり話し込みたくなる。相手が「これ」でも。高度が上がり、徐々に寒くなってきていることをごまかすためにも、話のタネはやっぱり欠かせない。
「そういえばさ、なんだかんだで聞いてなかったけど、ソアは何で探検隊始めたの?」
ふと思いつき、ふと口に出す。純粋に気になった。そういえば、まだちゃんと話してもらえてなかったっけ。ソアのことだから、かっこいーから!とか強そーだから!とかだろうけど、もしかしたらもっと奥深い理由が……。
「えっとねー、うーんとねー、かっこいーからー!」
「……ま、そんなところだよね」
期待した僕が馬鹿だった。気づかれないようこっそり苦笑いした。
「あとねー、メグにお金がなーいお金がなーいって言われてたから、お金がいっぱいもらえるって聞いてやることにしたんだー!かっこよくてメグが喜ぶって、『いっせきにちょー』ってやつだよね!」
「あー、そういうのもあったんだ」
これは初耳。そっか、税率が高いってメグがぼやいてたっけ。唐突に始めたわけでもないのか。それは納得した。けど、それで探検隊を始めるとは……探検隊を始める前もアクティブな人生……いや、ポケ生を生きていそうだ。
「それからねー」
ソアにしては、少し間をおいた気がする。
「探してるポケモンがいるんだー!」
両手を上げて、万歳する。やけに自慢げだ。なんでだろう。
「へぇ……誰なの?」
「おじさん!」
「……はい?」
「おじさん!僕のおじさん!」
あ、通じてない。
「……いや、まぁおじさんはおじさんとして、ほら、名前は?」
「名前?……僕の名前はソアだよ!えーとー……真っ青なソア!」
「そこは真っ黄色な方じゃないかな!……って、そうじゃなくて!」
だめだ、通じてないどころかこれは通じない。頭を抱えた。ソアはたまにこういうのがあるから辛い。真剣な話の時は大方こんなボケは挟まないのだけども、小話になると時々何を言っても壁と話してるようなものになる。
「あはは!サンってやっぱおもしろーい!」
「……楽しそうなら結構だよ……」
気苦労が多い。メグがいないとここまで手こずるものなのか。
「……でも、見つかるといーなー」
僕が頭を抱えている中、ソアは逆に天井を見上げていた。
「おじさん、今何してるんだろー」
一瞬だけ、ソアの瞳にセピア色の風景が映った気がした。
〜〜
階層はもう分からない。けど、『いかにもボスがいそう』な雰囲気があった。こういうのは、長年ゲームをやっていると感じてくる。広い間取り、気味の悪い静かさ。僕の隣のピカチュウは、途端にゆっくり歩くようになって、僕も僕で、何かに動かされるように歩いていた。
「……やっぱり……」
もちろん、そこには……。
「期待よりは早かったが、やはり遅い」
クレイ。ダークライ。手の中に小さなエネルギー球を作り出している。僕をにらんでいた。あの時以来。結局、フィレンや他のみんなに助けてもらったけど、それでもなすすべなく倒れたあの時以来。
「さて、サン。ここで、次の展開は分かっておろうな?」
「もちろん。大将を上に連れて行けば僕らの勝ちなんだからね」
僕は、ソアを見た。相も変わらず、気の抜けた顔。でも、何を考えているかはあまり見通せない。
「ソア、任せて。必ず、おじさんに会おう」
「……うん!もっちろーん!」
ニッコリと笑った。いい返事だ。僕はその笑顔に笑み返す。ソアが階段をかけて行く。クレイは見向きもしないようで。僕は、ソアがいなくなるまで待つ。そして、ソアが見えなくなってから、クレイに向き直った。
Fatal_Battle_____いよいよ……真剣勝負。
「覚悟はできたか?」
掌のエネルギー球をさらに大きくする。僕も、戦闘の態勢を作り始める。
「そこそこ。できてなかったとして、敵に弱みは見せられないよ」
これくらい大口が叩けるくらいじゃなきゃね。肺が引きつっているのを上手く誤魔化す。
「森の奥ではお前は負けているが、それも承知の上か」
「主人公ってのは、負けた後は勝利フラグって決まってるの」
「……主人公……なるほど」
クレイはエネルギー球を一旦消滅させ、腕を組んで目を瞑る。
「この世界の主人公……なら、総帥の言っていたことは……」
「な、何の話だよ……」
「何、こちらの話だ」
「そっちの話なら余計気になるかな」
探り合いから戦いは始まっている、そうフィレンには聞いた。だから、なるべく強気に。そうでなくても、この場面、何においても引き下がるようなことはできない。
「極秘としよう。もっとも、お前ならすぐに知るであろう事実だが、総帥からは伝えるなとの御触れだ。総帥にも考えがあるらしい」
目を開けて、クレイはきっぱりと答えた。頭の中での混乱をうまく整理する。むしろ、ハッタリのようなものかもしれないし、考えないも吉だ。
「……初めて会った時も今も、何言ってるのかさっぱりだけど、とりあえずクレイ、君を倒せすのが僕の目的に変わりはないよね」
「その目的は取り下げた方がいい。君は私に勝てない」
「どうだか」
飛行。前進。砂塵が巻き上がる。