疾風戦記

















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七章-運命(とき)の歯車と決意(やみ)の石-
九十六話 そして誰もが駆けていく
==前回のあらすじ==
 総力戦の色を呈して来た『大空の塔』攻略戦。みんなが他の敵を食い止めてくれている中、僕らは上の階を目指す。そこで会ったのはセレアだった。


「出て来たか」

 陽光が差す。透き通るような桃色の羽は朱を帯びていた。眼には、使命感と決意があった。ただでは通してくれないことは自明。

「先日は……お世話になりました。あなた方との日々、とても楽しかったですよ」
「退屈だった、の間違いなんじゃないのか?口車にはもう乗れねぇし、元から乗せられるような俺じゃない」

 挑発。ライは、キッと鋭くセレアを睨んだ。僕も……まぁ裏切られた気分だったから、あまり良い感情は浮かばない。

「本当に世話になったって思ってるんなら、道を通してくれても良いんじゃねーの?」

 フィレンも、同じ気持ちらしい。手でセレアを指し示す。

「残念ですが、それは叶いません。私にも、私の使命(つとめ)というものがあるのですから」

 下を向き、決意を吐き出すように語った。目を瞑って、まさに彼女は、交戦が逃れられない運命として受け止めようとしていた。

「私の肩書きは偽物でしたが、意(おもい)は真実です。皆さんの助け合いの姿は、非常に感動いたしました」

 少しずつ目を開いていく。澄んだ桃色が、水色の光を帯びる。

「ですが、それでもここは通せません。あなた方を想う故にも、あなた方にはこれ以上、私たちの邪魔はさせません」

 顔を上げた。切る視線は真っ直ぐ前を捉えている。
 本気だ。

「任せろ」

 ライが前に進み出る。

「俺が相手をする」

 僕等を背にし、掌に微弱な波動を起こす。

「ライ、いいの……?」
「この勝負は、大将を先に向かわせた方の勝ちだ。それにな……」

 後ろを振り返った。はにかんだ。その笑顔は、爽やかな好青年のものだった。

「こいつには、騙し合いで一度負けている」




「……オーケー!ライ、ここは任せた!僕らは先行くよ!」
「……あぁ、先に行って、この島の運命をかっさらって来い!」

 僕等は、走り出したソアの後ろに続き、セレアの横を通り過ぎた。セレアは攻撃しようともしなかった。僕は後ろを振り返りながら、先の階段を駆け上がっていった。


〜〜

「よろしかったのですか。皆さんを行かせてしまって」
「お前こそ、虚勢張るのはやめろ。見苦しい」
「……分かりましたとも。つまりは」

 ______GameStart.

「徹底的に抗えば良い、とのことですね」


〜〜


 ライと別れて、さらに三十分ほどが経ったと思う。ソアが階数を数えなくなったため、僕等まで階層を把握しきれなくなってしまった。

「おい、こっちだ!」

 フィレンが階段を見つけた。僕は目の前の敵の前で岩雪崩を放って軽くあしらい、後方のフィレンの方へ低空飛行で進む。

「サンー!乗せてー!」

 その途中、手を振っていたソアの手を掴んで乗せ、増えてきた敵の間を掻い潜った。フィレンは、こっちに向かって波動弾を構える。……オーケー。
 階段まで全速力で突っ込んだ後に、フィレンがすれ違いに波動弾を放った。

「進むぞ!」
「オーケー!」

 声二つで階段を登る。フィレンもようやく頼もしくなってきた。


 上の階は静まり返っていた。これは、ゲームで言うところのボスステージっぽいところ。妙に広い一室。やっぱり都合の良すぎる配置だ。柱が少なく、隠密的な戦いに向かない。そして、案の定か中央には……。

「……来ちゃった、かぁー……」

 バシャーモの姿があった。アルト……フィレンはそう呼んでいたポケモンだ。

「……久々だな、アルト」
「そっちこそ、あまり変わってないじゃん?」
「訳ねぇって。これでも俺、結構変わった方だぞ?波動弾も覚え直したんだ」

 アルトは、驚いた顔をしていた。そして、少し笑っていた。

「……へぇ、あんたが……そう」

 笑うのをやめた。腕を下ろし、拳を握った。顔が俯いた。口から悔しさが吐き出そうになっているのを、必死にこらえているようだった。

「あたし、何か変われたかな……」
「他と変わってるところならたくさんあるだろ」
「余計なお世話だっての!……ったく……」

 フィレンは大げさに笑っていた。アルトに呆れられているらしいということにも相まって、一段と大げさに笑っていた。笑い声を少しずつ落とし、そして息を一つ吐いた。

「……よし、お喋りはこれくらいにしておくか」
「……あたし的には、戦いたくないんだけど……」
「そのためにここで喋るのをやめるんだよ。思い出話に花を咲かせちゃ、また俺がミスるからな」

 敵前にして、フィレンは微笑みかけていた。これが、フィレンのできうる最大限の優しさなのかもしれない。アルトの握った拳は、ややほどけていた。

「……そ、……」




「ありがと」

 その一言の後からは、彼……彼女は、瞬き一つで目の色が変わった。やけに落ち着いた変貌だった。フィレンの話では、急に苦しみ出したとのことだったのに。彼女は、攻城兵器と成り果てた。ようだった。

「先に行ってろ。俺が引き受けとく」
「……分かった。ソア、行こう」
「うん!」

 僕はフィレンに従った。階段の方へ向かう僕等に、アルトが右脚で回し蹴りを仕掛ける。『神速』が、それよりも早くに対応する。

「さてと……バシャーモさんよ」

 風が追いついた。

「俺を倒せるバシャーモってのは、アルトだけだぜ?」

 回し蹴りを腕で完全に止めたフィレンは、瞬き一つで目の色を変えた。やけに奮い立った変化だった。前のフィレンは、こうじゃなかったろうに。


〜〜


 九階、八階、そして七階は今降りました。カロトさんがそろそろ、苦しそうな息遣いになります。私の癒しの波動も、もう何回使えるかが分かりません。幸いか、あるいは裏に何かあるのか、ここまで敵さんとの遭遇はありません。好都合ですが、むしろ違和感すら覚えてしまいます。しかし、そんなことに悠長に好奇心を抱いている場合でもありません。メグさんのところまで行けば、簡易的な治療道具を持っているフゥさんに頼んで、応急処置がなせます。混戦が予想されもっとも危険であるため、というのが一つでしたが、私が持つべきだったと、今では心残りが湧いて来ています。後悔しても遅いのは分かっているつもりなのですが、もっとしっかりしていれば、と、自責は止みません。
 六階の階段を降り、五階へ。これでもう少しといったところです。ここから……。

「……おい、なんでそっちから来てるんだよ!」

 ……こんなところで……。私はその場でへこたれてしまいました。いつぞやのキリキザンさんです。名前は忘れてしまいましたが、私を誘拐した方だったのは覚えています。

「先鋒のはずなのに、何故こんなに待たされるのかと思っていたら、まさか、お前ら、ショートカットでも使っただろ!」

 相性は私にとって最悪です。勝てない、と、その一瞬で分かったのです。涙が出そうになりました。ついてないなぁ……なんて、自分の悪運のせいにしちゃって、ほんと参っちゃいます。私の実力不足、というのがいいところなのに。

「お、おい……そんな、急にしょげた顔するな……ただちょっと腹を立てただけじゃないか……こっちが悪いみたいじゃないか……」

 カロトさん、ごめんなさい……。私、最後まで……役に立たなくて……。


 いえ、そうではないはず。いつもいつも、みんなが何をして来たでしょう。どんなに不利なところでも、正解を探して、ある方はその拳を揮い、ある方はデータを取り、お兄ちゃんや私の背中のこの方は知恵を絞っていたのです。
 ここで、私だけくじけてはならないのです。

 私は、誰かを救いたい。
 私は、誰かを支えたい。
 私は、誰かを幸せにしたい。
 今まで、誰かにそうしてもらえたから。

 ソアさんのように
 お兄ちゃんのように
 皆さんのように


 なりたい_____




 カロトさんを、少しの間柱の影、攻撃が当たらないところに。態勢を固定して、なるべく血が出ないようにします。

「き、切り替えてくれたか……それならこちらとしても嬉しい。では、手合わせ願おう。私は……」

 さぁ、とっとと、私の全力を出しましょう。




 これが、私なりの恩返しとなりますように。
 そう流星(ほし)に願いながら。

■筆者メッセージ
お久しぶりです。しばらくの間、色々と忙しくしてました。ゲームしてたりしてましたが、少しずつ書き進めてました。それなのに3000字たぁどういうことじゃい、とかは……はい、自分でも分かってるんです。
かくいう、やっぱり構築の見直しとか、グダグダ感の解消とか、ここは俺に任せろの多発とかをどう自然にさせるかとか、色々と頭が重たくなってしまう課題を抱えすぎていたのでそれの対処に思いの外遅れました。シナリオの構築はある程度うまくいってます。これからは、また、週一投稿の軌道に乗せられるよう善処いたします。
フィーゴン ( 2017/09/12(火) 09:42 )