疾風戦記















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七章-運命(とき)の歯車と決意(やみ)の石-
九十五話 バベルの塔 #Floor_D
===前回のあらすじ===
 セレアが催眠で操り、密集させた敵を掻い繰り、僕等は上の階を目指す。そして、ついにセレアと会うのだけれども、そういえば、途中で別れたあの二匹はどうしてるだろう。


 内的には冷静でも、やっぱり焦っているようで、ちょっと息切れを起こしています。カロトさんはまだ意識がありません。癒しの波動を幾たびか使っているのですが、それでも傷が治らないのは死に瀕しているからでしょう。あるいは私の力不足です。本当に情けないです。こんな時であってもお力添えできないなんて。

「……ここが十一階……ですよね」

 静かになった階層。ここに確か、お兄ちゃんが侵入のために開けた穴があります。ここから出て、下へ。メグさんに事情を話して、少しの間介抱できるようしてもらいましょう。フゥさんに言って、ギルドから救急道具も取ってきてもらえたら尚良いです。拠点はないですが、メグさんがいるのですから、きっと大丈夫でしょう。むしろ、これが終わるまではカロトさんはまともに動けないでしょう。それでも、まずは死なせるわけにはいかない。それが私からの恩返しです。カロトさんを一旦地面に下ろします。記憶を頼りに壁を探ります。幾度となく、カロトさんには窮地を救ってもらいました。だから今度は……。

「ここら辺に……あれ……?」

 見覚えもあります。周りの柱の位置、壁の煉瓦のシミ、天井の模様。どれと照合しても明らかに記憶との食い違いはないのです。そこに、大きくぽっかりと空いた穴があれば完璧だったのです。何かの原因で塞がったのか、老朽化の激しい建物なので、瓦礫で埋まっていてもおかしくはありません。でも、その壁は非常に綺麗でした。作り変えられたように綺麗に戻っていたのです。私の力じゃ、手際よく煉瓦を避けることはできません。むしろ、そうするならそのまま下へ降りた方が早いくらいです。事は急を要します。不思議がっている時間もないのです。カロトさんを背負って、十階への階段を探します。


〜〜


 あたりは焼け野原となっていた。焦げた床よりも溶けた床の方が多い。ひび割れた壁より、抉れた壁の方が多い。戦場の鬼はそれでも暴れ足りていない。ロークが着地した地面は三秒たたず砕け散った。回避回避で攻勢になれない。
 暗殺者の基本は、隠密行動。このフロアにも隠れやすい場所はいくらでもあるはずなのだが、ボーバンは、その狂気と反して動きを全て把握していた。……しているように感じられる、そんな動きをしている。

「あーあー、やりにくいやりにくい。これじゃ弱いみたいじゃん」

 だが、対話者の耳には届かない。天井から柱へと三角飛び。ここからの奇襲。それも見えて、尻尾で牽制をかけて体制を崩させてから『逆鱗』で仕留めを狙う。

「うわっ、危なっ!」

 たまらない。むしろ、かすり傷で済ませる方すら難しい。体を捻り、刹那の突進を回避する。

「今のはひやっとしたなー、セーフセーフ」

 胴に出来た大きな切り傷をさする。手についたものを舐める。少しだけ、青い目が光る。少しだけ、赤い髪が揺れる。

「しゃーないねぇ、これ。ちょっと頑張りますかー」
「本気を出すなら初めからにしろ」

 ボーバンの口から漏れた炎が、空気に残り、そして消えていく。視線はやはり鋭い。

「ごもっとも。けど俺、性分でどうも、楽〜に勝ちたくってさ」
「楽に倒せない相手だと、ようやく気付いたか」

 地面を踏み込む。地形が隆起し、瓦礫の丘を壊してロークに迫る。対応……ロークは地面を蹴って回避を取る。その動きでは、音の方が遅かった。瞬時、ボーバンの背後に回る。爪を立て、照準を合わせて目標を捕捉する。ボーバンの反応が早く、至近距離の火炎放射を吐かれる。体を捻って回避。避け切ることはできない。受け流し。バック宙で距離を取り直し、手を付く。
 ロークの燃えた髪が煤として地面に落ちた。

「よぉ、お兄さん。右の翼、どうしたんだい?」

 ボーバンの右翼には、大きく切り傷が入っていた。

「……俺にタイマンで傷負わせたのは、お前とあの毒舌イーブイくらいだ」
「そいつぁご贔屓に」
「奴はそのまま勝ち逃げしやがったが、お前はそうとはいかないよな?」

 ギロッと睨む。炎の色が、より赫くなった。

「勿論だとも。これだからバトルはやめられねぇわけだ」

 黒い体躯。赤い髪を結んだ水色の珠が、その炎で赤みを得た。

■筆者メッセージ
最近忙しくて、二週連続で投稿し損ねました。反省です。ところで、あと五日くらいで疾風が二周年になるようです。一周年目に関しては気付きもせずスルーでしたので、表紙絵変えるくらいはするつもりです。二年前の表紙だと、入ってないキャラが多いのもあるので
フィーゴン ( 2017/08/27(日) 18:18 )