九十四話 バベルの塔 #Floor_C
===前回のあらすじ===
二十階層目にして、油断でカロトがやられてしまった。カロトを助けるためにも、ノンは下の階へと降り、ボーバンはゾロアークわ足止め、僕らは、上の階を目指す。
その階から急に敵対するポケモンが増えた。しかも、結構強いやつが何匹も。こんなに“密集”しているのはありえないし、つまりは……。
「セレアのやつがいるな」
催眠術のいい使い方だ、なんて感心してる場合じゃない。早く上の階を目指さなければ。嬉しいことに、僕は『地震』という拡散的な技を持ち合わせている。多少リスキーだが、前にやった合体技を駆使すれば、効率的に排除できるやもしれない。
「『地震』……と、『爆音波』で……!」
集中力が必要だ。空気をも揺らす縦揺れが震源を中心に波を作る。フィレンの方は……よし、『見切り』が成功したらしい。ソアは民族舞踊のようにタッタ、タッタとリズムよく交わしている。あれに関しては、巻き添えとかは考えなくてもいいかもしれない。
「こんなもの……?」
あたりを見渡す。とりあえず、綺麗な具合に一掃でき……っ!
「『サイコキネシス』!」
後ろの気配は、すでに超能力に足を取られていた。ライがスッと、放り投げる。
「油断は良くない。特に、いつでも背後は死角だったことを忘れるなよ」
緊張が一気にほぐれた。危ないところだったが、なんとかなったらしい。
三十三階。食料も余裕はあるが、もう少しペースを上げなければ。
〜〜
『大空の塔』、三十五階。見晴らしがとても良いのです。何しろ、雲の上からは雲しか見えないから。空気は少し薄い、しかし私は『三日月の使者』。そんな、たかだかこんな高度で苦しくなんてならない。
「……」
時折、いや、いつも頭の隅では、善というものを考えていたのです。今も昔も、ずっとそうでした。私は、性分から正しくありたかったのです。正しいと思ったことをするつもりだったのです。『あのポケモン』に、あのポケモンのおかげで私が成し遂げられたこともあったのです。むしろ、私だけでは何もできやしなかったのです。そんなことは承知の上。だからこそ、あの『分岐点』で、私は何かできなかったのか、そんなことばかりを……。
〜〜
私が彼に連れられて、あそこに行ったのは、もう二十年は昔のことに感じます。とある小さな喫茶店で、彼はカウンター脇の裏路地を通って、その先へと進んで行ったのです。ポケモンの目を憚りながら。あの時、奥に広がっていた彼らの隠れ家を見たときの、私の心の高鳴りは、まだ鮮明なのです。数は、クレイを除いて六匹でした。サイドラン、ガエン、ナギマル、×××、××××、××××……彼らが全員、そこに集まっている、というのは本当に不思議でした。何が集めたのか、私にはわかりませんでした。しかし、『彼ら』という存在に希望を抱いたのもまた事実でした。私は……それについていければ……なんて……。
〜〜
今でも、私はどうすればいいかわからないままです。悪いことをしているのか、いいことをしているのか。あの方に聞かないともう分からないのです。私は……迷った末にはいつも盟友の顔を見ていました。そして、盟友の向く方を私も向いていました。彼は聡明なのです。だから、間違えるはずもない……なんて、誰も言い切れはしないのです。
〜〜
本当に、本当に大切なものは、なんだったのでしょう。私が、悪女として、ここで朽ちるやもしれないのは、それのせいなのでしょう。
〜〜
二匹のポケモンが階段を駆け上がる音が聞こえてきます。もちろんですが、私の『眼』には四匹映ってます。そろそろ……終わりのない決意(やみ)を終わらせるころですか?ならば、私はもう少し盟友の背中を負わねばならないでしょう。
「ようこそ、お待ちしておりました」
一瞬だけ差した陽光が、月の光のように暖かく感じられました。それだけでもう良かったのです。追いかけ過ぎた私が止まる場所をこの方達は作ってくれる、そう期待するのです。
「改めまして、クレセリアのセレアです。先日は非常にお世話になりました」
「あなた方に会えて、非常に光栄極まりない思いです」
「……礼儀のある侵略者とはまた初めて見たよ」
「それもそうでしょうが、私の顔は、ちゃんと侵略者らしい顔になっていますか?」
「……全然。まだタチのいい方かもな」
ライが、吐き捨てるように答えたのです。
「……良かった」
ポツリと呟いたのが、聞こえてしまってないか不安になりました。